30-2

「よし、出来た」

ナターシャさんとメリッサさんと打ち合わせした翌日の昼下がり、私は思わずそう口にしていた


「何が出来たの?」

ナターシャさんと共に子供たちが覗き込んでくる


「ふふ…セーターです」

「これって前に教えてもらったマフラーと編み方が似てる?」

「うん。基本は同じなんだけど毛糸も時間も数倍かかる」

「だよね」

ナターシャさんは苦笑する


「ふわふわー」

マリクがほおずりしている


「暖かい?」

「うん。ぬくぬくー」

「ママ僕も欲しい」

「僕もー」

2人がナターシャさんにおねだりし始めた


「ん~セーターは難しそうだけどマフラーなら出来るかな?2人おそろいのする?」

「シアもいれて3人!」

リアムの言葉に私とナターシャさんは顔を見合わせてしまった

どこまで行っても一緒なのだと驚いてしまう


「そうね。じゃぁ3人おそろいのマフラー用意しようね」

「「うん」」

「でもママ編むの遅いから来年になっちゃうかもしれないけどいい?」

「来年?」

「今度のクリスマスプレゼントにしようかな」

「分かった!」

「来年!」

2人は大喜びである


「まさかの展開だわ」

「来年だったらこの子の分もかしら」

私はお腹に手を当てる


「そうね。メリッサも巻き込まなきゃね」

「本当だ。みんなで色違いにしようか?」

「それも面白そう。時間はたっぷりあるからメリッサも一緒にゆっくり考えましょう」

「だね」

とりあえずマフラーの話はおいおい考えることとなった


「でもよくそんなの作れるわよね?」

「え?」

「普通に服作るのも大変なのに。私はマフラーが精一杯だわ」

「途中でちょっと挫折しそうだったけどね」

これは本当だ

編み目から自分で考える等したことが無かったためかなり記憶をたどりながらの挑戦だったのだ

書籍として売られている図案がいかに便利なものか身に染みたのは言うまでもない

マフラーと同じ感覚でいた自分を何度恨めしく思ったものか…

でも出来上がってみると頑張ってよかったと思うのだから不思議なものである


「後はラッピングで完成。せっかくだからカードも作ろっかなぁ」

「カード?」

「メッセージカード。そういえばこっちではあんまり見かけない?」

「えーと、メッセージを書くってこと?」

「そう。あ、そっか…紙だからか」

紙が高価であまり普及されていないものだということをつい忘れがちになる

私のつぶやきにナターシャさんも何となく察したようだ


「まぁ…サラサちゃんがレイに渡す分にはいいんじゃないの?」

「そうなんだけどね…」

出来るならこっちの普通に合わせたいという変なこだわりを持ってしまう

もっとも編み物自体が既に逸脱してるんだけど


「ラッピングはどうするの?」

「布とリボンを使おうかと」

答えながら3枚の薄い布とリボンをインベントリから取り出した


「こんな布あったっけ?」

「これはねぇ…元はこれだったんだけど」

取り出したのは同じ色の布

でも見た目が全く違う


「これのね、縦糸と横糸をこうやって抜いて…」

言いながら数本引き抜いて見せる


目の詰まった通常の布をガーゼのような状態にしていくのを見てナターシャさんは一言

「…それはまた手の込んだ…」

その目は既に遠いところを見ていた


「でもこうするとね、3色重ねても他の色が見えて綺麗でしょ?」

重ねるのは白、水色、青の3色だ

そして用意したリボンは銀色


「見事にレイの色ね」

「分かる?」

「これで分からない方が不思議だわ」

ナターシャさんは半分呆れた声で言いながら苦笑する

でもこれはちょっとしたこだわり

自分の色かレイの色

そのどちらかで迷いはしたのだけれど…


セーターをたたみ、布でくるんでリボンをかけると完成

その作業を子供たちとナターシャさんが興味深げに見ているのが面白い


「こうやって包むだけで随分イメージ変わるわね」

「え?」

「基本的にそのまま渡すからさ」

「そういえばそうだっけ…」

ここでも基準がずれていたと気づく

元の世界で当たり前だったことがこっちでは特別になることも多い

勿論その逆もあるのだけれど

悪い事ではないものの、そんなちょっとしたことで自分が転生してきたのだと実感することになる

最初はそれが辛かったけど最近はそれを楽しむゆとりが持てるようになった

それが全てみんなのおかげなのだと思うと嬉しさがさらに大きくなる気がした

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