第30話 レイの誕生日

30-1

この世界に来て4度目のレイの誕生日がもうすぐやってくる

1度目は付き合いだしてすぐ

2度目は忘却を覚えるきっかけとなった事件のあった直後

3度目はシアの妊娠中だった

そして迎える4度目はこのお腹の中に再び新たな命を宿している


自分の誕生日ですら呪い続けていた過去の自分はもういない

大切な人の誕生日を一緒に祝える幸せをただかみしめる


「で、サラサちゃん相談って?」

ナターシャさんが尋ねる

その隣にはメリッサさんもいる


「レイの誕生日が3日後なの。だから2人にも協力してもらいたいなって」

「そっか。こないだカルムとマリクのお祝いしたからそういう時期よね」

ナターシャさんがうんうんと頷いている


「弾丸の休息が無いと忘れちゃうわ」

メリッサさんが言う

結婚や出産、養子縁組なんかが次々と起こった為今年は休息を設けていない


「休息期間をあえて設けなくてもその都度勝手に休むからね。カルムもあえて決める必要はないかもって言ってたわ」

「確かに…休息中も迷宮とか行ってるもんね」

なんだかんだとじっとしてられない男性陣は運動してくると言って迷宮攻略に乗り出すことが多い


「昔みたいに無理したりすることもないし1人かけたからって大した支障が出ることもないから余計かもね」

「そうよね。ランク低いうちは1人欠けるだけで一大事だったもんね」

「そうなのよ。怪我でしばらく動けないとかなったら依頼のランクも下げなきゃだし…それが今では大抵の依頼を1人か2人でもこなしちゃうんだから強くなったわよね」

「…それ、ナターシャさんも含まれてるけどね」

「あら、サラサちゃんもでしょう?私サラサちゃんに勝てる気がしないもの」

あっさり言われて苦笑する

チートと呼ばれる力のせいだけに申し訳ない気もして素直に喜べない


「それはともかく、パーティー開催よね?」

「でもわざわざこうして相談するってことは…?」

「あたり。初めての試みをしようと思って」

「何々~?」

2人は予想通り食いついてきた


「寒いこの時期にピッタリの鍋パーティーにしたいなーって」

「「鍋パーティー?」」

2人は首を傾げる

まだこっちの世界で鍋をしたことはない

私はどんなものかを簡単に説明した


「なるほどねぇ…何かほっこりしそう」

「バーベキューとはまた違った感じがして面白そうね」

「じゃぁ協力してくれる?人数が人数だからお鍋も2つはいると思うんだよね」

「大人7人に子供が3人。確かに1つじゃ厳しいわ」

ナターシャさんが笑いながら言う


「箸休めで軽くつまめるものも色々作ろうと思うの。あとケーキも」

「サラサちゃんの本気のケーキは楽しみね」

「本気って…いつでも本気なんだけど?」

「でもレイに作るなら気合が違うでしょう?」

「う…まぁそれは…否定はできないかも…」

素直に認めると満足気に笑われる


「カルムにはお酒を用意するように頼んどくわね」

「じゃぁ私はアランが家を出たらこっちに来るわ」

「そうね。依頼の日だから準備するのは丁度いいし」

「そういえば今日は2人はどうしたの?アランは町で用があるからって言ってたけど」

「武器の手入れよ」

「多分、アランも一緒じゃない?」

その言葉に3人顔を見合わせ苦笑する

誰かが行くなら大抵みんなが行く

そして完了するまでその店内に留まる

すでに当たり前になったことではあるものの、何が楽しいのかはわからない


「おかげで今日はゆっくり打ち合わせが出来ると思えばそれも有かしらね」

「確かに!」

3人で色々と打ち合わせをしているとベビーベッドで眠っていたシアが泣き出した


「シア起きたー」

「遊ぶー」

マリクとリアムが玩具部屋から飛び出してきた


「2人ともちょっと待ってね。シアおしっこしてる。気持ち悪かったねぇ…」

シアを抱き上げクリーンをかける

すると不快感がなくなったせいかすぐに泣き止んだ


「もう綺麗になったからね。お兄ちゃんたちと遊ぶ?」

尋ねると手をマリクたちの方に伸ばしていた


「シアおろして?」

マリクがそう言ってきたので下におろすとマリクの足を掴んだ

マリクとリアムはその場で座り込みシアとじゃれ始める


「相変わらず仲いいわねぇ?」

メリッサさんが感心したように言う


「本当にね」

「3人とも血が繋がってないなんて嘘みたいよね」

私もナターシャさんも何度そう思ったかわからない

無条件に寄り添う3人を見ていると人のつながりが不思議なものだと改めて感じるのだった

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