29-3

「そういやお前らは迷宮の踏破報酬は狙わないのか?」

ギルドマスターが思い出したように尋ねた


「踏破報酬?あぁ、1か月くらい前に見つかった迷宮か?」

「ああそれだ」

「それなら先週制覇したよな?」

レイがまだ踏破されてなかったのかと逆に驚いている


「な…お前ら踏破したのか?」

「ああ。なんだそれで報酬デカかったのか」

カルムさんが一人納得しているが、ギルドマスターは思ってもいなかった事に半分パニックに陥っている


「…お前ら…」

「そんな落ち込むなよギルマス」

レイが笑いながら言う


「念のため聞くが情報提供は…」

「「めんどくさい」」

カルムさんとレイは揃って言った

普通なら初踏破した迷宮の情報提供は破格の値が付くため喜んで行われるはず

でも2人にとっては報酬よりも煩わされない方を取るらしい


「聞いた俺が馬鹿だった」

ギルドマスターはそう言いながら項垂れる

「ま、そのうち誰かが踏破するでしょ」

ナターシャさんのその言葉がトドメだったようだ


「じゃぁ帰るか。シアこっち来い」

レイが立ちあがりシアに手をのばすとシアはすぐに抱き付いた


「マリク、リアムも帰るわよ」

「お買い物は?」

「もちろんしていくわよ」

ナターシャさんの言葉に2人は嬉しそうに顔を見合わせていた

ギルドマスターに見送られながら部屋を出ると1階で依頼ボードだけ確認する


「依頼結構出てるね?」

「そうだな。ここ最近増えてる気はするが迷宮関連が主だな」

「コレクターも増えたみたいだしその関係?」

「だろうな。まぁ暇つぶしに迷宮潜ってるおかげでインベントリから出して終わるもんも多いけどな」

レイが笑いながら言う


弾丸は依頼帰りに迷宮によるのが当たり前になっている

しかも二手に分かれて2か所のボスを倒してくるのはもちろん、時間があるときは5フロアごとの中ボスも全て倒してくる

その素材や宝箱から出たものは、希望者がいなければレイのインベントリに保管され、依頼が出た時に即完了させる

依頼報酬は常に4等分すると決めていてもめることもない

迷宮品のいくつかで文句を言うような間柄でもないため、周りからは変わり者の集団と言われることもあるらしい

マジックバッグなど貴重なものになると1つ売れば100万Gを軽く超えるにもかかわらず奪い合いになることもすぐに売ってお金にすることもしないのだから当然かもしれない


比較的レベルの高い討伐採取の依頼でも目的外の魔物も大量に倒してくるので素材は増える一方だ

それが弾丸が1日おきの依頼で生活が余裕で成り立つ理由でもある


「あ、これ持ってる。こんなに報酬いいなんて意外…」

私が採取の依頼を1枚はがすとレイが覗き込む


「山椒の実?生息地不明でめったにお目にかからないって言われてる…おまえこんなもんどこで?」

「前の家の周り」

「…まじ?」

「うん。時々料理にも使ってるよ?」

私の言葉にレイとカルムさん、ナターシャさんが顔を見合わせる


「全然気づかなかったわ…」

「俺は家の周りにあること自体気づかなかった…ってかどんな状態で存在してるかも知らねぇ」

「そういや俺も見たことねぇな」

「見る?」

私はインベントリから山椒の実を20粒取り出した

それが依頼に出ている量だ

たった20粒で何するんだろう?

普段料理する量が大量なだけにそんな疑問も浮かんでくる


「…なんか見たことあるな」

「そりゃそうだよ。家の真正面にあったし」

そう言うとレイは絶句する


「え?あれ?確かに何か実のなった木があると思ったことはあるけど…あれがまさか採取対象の薬草とは…」

「知らないって怖いわね」

ナターシャさんがからかうように言う


「たった20粒で4000G…1粒200Gってことの方が私は怖いけど」

「どうして?」

「…あそこ大量になってたな?」

「そうなのよね。実がなる時期に片っ端から収穫したの。他に取る人もいないし枯れて落ちるだけなんてもったいないでしょ?だから今は…あの樽に2杯くらいはあるかな?」

私はギルドの壁際に並んでいる樽を指して言う

その樽は大人が軽く中に入れるくらいの大きさだ


「…それは怖いわ」

何粒あるかなんて考えるのも怖くなる


「とりあえず出してくるね」

そう言って依頼完了報告に行くと受付でもかなり驚かれた


「あんなに驚かれるとは思わなかった…」

「まぁ依頼のランク自体がAだからな」

カルムさんが言う


「そういえばAになってたっけ。じゃぁさっきランクアップしてなかったら出せなかったんだ」

今さらのように言うとレイがあきれたようにため息をついた


「お前のインベントリの中、一回見てみたいな。貴重なもんがゴロゴロ入ってそうだ」

「本当ね。しかも食材として使えるものばかり」

「流石にそれはないと思うんだけど…」

とはいうものの言い切ることが出来ない


山椒など元の世界ではスーパーに売ってる普通の食材だったにもかかわらずとんでもない価値があるのだから余計である

あれは1袋いくらで売ってただろうかと考えそうになるのを自ら遮った

山や森、平原の植物の中にハーブを見つけるたび嬉々として採取しているだけ、に同様のものがないとは言い切れなかった


「…本当に一回見てもらった方がいいのかな?」

色々考え込み思わずつぶやいた私にみんなが笑い出す

そして待つのに痺れを切らしたマリクたちにせかされて今度こそギルドを後にした

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る