29-2

「次は素材の買い取だな?何が出て来るか楽しみだな」

ギルドマスターはそう言いながら素材提出用の籠を3つテーブルの上に置いた

ちゃんと3人分と認識してくれているらしい


「ただの常設の薬草採取だぞ?まずマリクの分からだな」

レイがそう言いながら薬草を出し始めたので私もマリクの分を出す


「これはまた…とんでもない量だな?不足してるから問題はないが…」

「マリクはこの1年で集めた分だからな。リアムとシアはここまでねぇよ」

「1年ためとけるのがそもそもすごいけどな。夫婦そろってインベントリ持ちとか…次元が違いすぎる」

ギルドマスターはため息交じりに言う


「ギルドとしては小出しにしてくれた方が助かるが…」

「今度からはそうするさ」

「ああ。是非そうしてくれ」

薬草は安定供給が一番望ましいとは言え、不足してるなら今回大量に入る分には問題ないだろう


「次はリアムだな」

2つ目の籠に私もリアムの分を入れていく

マリクの半分くらいの量だろうか


「最後がシア」

3つ目の籠は流石に少ない

それでも依頼にして10回分ほどはある


「確認して報酬はそれぞれのカードに入金してくれ」

「わかった。マリクの分が多いからちょっと時間がかかるな」

ギルドマスターはそう言いながら呼びつけたスタッフに処理を頼んだ


「それにしても…お前らの息子だけに多少覚悟はしてたが…その斜め上をいったな」

「大げさね」

ナターシャがあきれたように言う


「いたって普通の子どもよね」

「「うん」」

二人はそろって頷く

それを見てギルドマスターは苦笑する


「シアは普通とはいいがたいけどな」

「カルムさん?」

「嘘は言ってないぞ。どう考えてもすでにスキル持ちとか普通じゃねぇだろ」

「それはそうかもしれないけど…」

「スキル持ち?」

ギルドマスターはたまげたような声を出していた


「ああ。念動力って俺も初めて知ったんだけどな」

「また珍しい力を…鍛えりゃ人でもモノでも動かせるぞ」

既に物を動かしまくってますとは言えない


「まぁレイとサラサの子供だからな…そういやお前ら引っ越しったんだよな?確か一緒に住んでるとか…」

何となく聞き逃せない言葉があった気がするものの話題を変えられると突っ込みづらい


「ああ。町から歩いて10分くらいだな。レイの家が遠かったから一緒に住むのをきっかけに近くにした」

「前は歩いてこれる距離じゃなかったもんね。馬なら早かったけど」

「それもレイだからだろ?こいつの走り方は俺らでもついていけないからな」

カルムさんは苦笑しながら言った


「それに平気で乗ってるサラサちゃんも大したものよね」

こういう時のナターシャさんは本当に楽しそうだ


「私たちが普通じゃないって言いきるのやめて欲しいんだけど…ねぇシア」

頬をつつきながら言うと楽しそうに笑っていた

そんなシアを見ながらレイは、確かに大物にはなりそうだ、とため息交じりに言った


待っている間部屋を物色していたリアムが部屋に立てかけてある刀を見つけた

「ママ刀あるよ?」

「危ないから触らないでよ?」

「はーい」

リアムはそばでしゃがみ込んでじっと見ている

うん。その可愛すぎる反応は予想できなかった

そんなリアムを見て楽しんでいるとノックの後に扉が開いた


「お、済んだみたいだな」

入ってきたスタッフから明細とカードを受け取ると、レイとカルムさんに渡してくれる


「あーやっぱマリクのはかなりいったな」

「僕頑張った?」

マリクはカードを覗き込みながら訪ねる


「おぅ頑張ったな。おかげで薬づくりがはかどるはずだ」

「お薬?」

「そうだぞ。お前らが採ってきた薬草が薬になるんだ。前から量が足りてなかったから困ってたんだよ」

「じゃぁもっと採る」

「僕も」

「本当か?頼んだぞ」

「「うん」」

「あい」

2人だけでなくシアまで頷いたことでみんなが笑い出していた


「そういやサラサ最近カード確認したか?」

レイが思い出したように言う


「長いことしてないかも。活動もたいしてしてないけど」

たまに近所に出る魔物を倒す程度だったはずだ


「せっかく来たし一応確認しとけよ」

「それならここでできるぞ」

「じゃぁお願い」

ギルドマスターが別の魔道具をテーブルに出したので、私はカードをギルドマスターに渡した


「あーランクアップ要件満たしてるな。ギルドとしては受けてもらいたいがどうする?」

「まぁ、サラサちゃん次Bだったわよね?受けるべきよ」

そう言われてもと私はレイを見る


「受けとけば?」

何を気にしているか理解した上で言ってくれるのなら大丈夫だろう

「…じゃぁ受けようかな」

特別な事情は伏せる条件が破られることもないだろうしとそう答えた


「助かるよ。じゃぁこのまま手続き済ますからちょっと待ってくれ」

ギルドマスターは手際よく処理を進めていく


「本当にこのままソーサリーマスターの事は秘匿し続けるのか?」

そう言ったギルドマスターの顔には出来るなら表に出してほしいと書いてある

「ギルマスその話は無しだろ?」

「それが表ざたになったら俺らはこの国から出るって言ってあるだろ?」

レイとカルムさんが一瞬で殺気を纏った


「私は自分の大切な人たち今のまま過ごしたいから。流石にスタンピードの時は協力するけど…」

ギルドがそれ以上を望むならここにいるのは私も嫌だと思っている

「…悪かった。この話はもうしない」

そう言いつつも諦めきれないのがにじみ出ている


「お前らもいい加減Sに上がらんか?」

「絶対、嫌だ」

「おれも勘弁」

レイもカルムさんも即答だった


ランクアップ拒否を即答した2人にギルドマスターは明らかに凹んで見せた

「やっぱり無理か…大概の奴はランクアップさせろって言ってくんのになぁ…」

「国レベルの連中とは関わりたくねぇよ。この町から離れたくもねぇしな。ギルド的にもAで充分だろ?」

カルムさんが言う


「それはそうなんだがな…」

「ギルド同士の下らない勝負なんて俺らの知ったこっちゃねぇよ。ギルドの為に自分の自由を売るつもりはない」

「流石に辛らつだな」

ギルドマスターは苦笑する

ダメもとで言ってみたもののこの先も意見を変えることなどないのだろうと改めて痛感するだけだったようだ


Sランクになるとギルド直轄の管理下に置かれるため、移動時の馬車が手配してもらえたり消耗品の支給を受けるなど、メリットがある反面、ギルドからの特別依頼で色んな場所にに呼び出されることが増える

また、国や貴族からの指名依頼は正当な理由がなければ断われないという取り決めがこの国には存在する

その分報酬が破格であることや、複数の貴族の後ろ盾を得ることができることからSランクに上がりたがる冒険者は多い

あとは顕示欲のせいもあるだろうか


強さがものを言うこの世界ではSランクという肩書は注目を集めるには十分すぎるものだ

それでもカルムさんやレイのようなタイプの冒険者が一部を占めているのも事実だった

権力や賞賛と安定を取るか自由を取るかの差だとレイは言ってたけど…


「よし、これで完了だ」

「どうも」

私はギルドマスターからカードを受け取ってインベントリにしまう

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