第29話 みんなで登録

29-1

◇ ◇ ◇


その日の夜カルムとレイは2人で飲んでいた

「登録の時期ねぇ…」

カルムはエールを呷る


「いっそ身分証も兼ねて3人とも登録させるか?」

「身分証って言ってもシアは早すぎないか?」

シアはまだ0歳児だ


「年齢は問題ないだろ。身分証ならなおさらだ」

「何で?」

「スタンピード以降、緊急時に備えての身分証保持は推奨されてる」

「…孤児になった時の為か?」

「それもあるだろうな」

ギルドカードには出身地か身元保証人が記録されるため孤立した子供の伝手を辿る為には役に立つはずだ


「それに常設の薬草採取が滞ってるらしい」

「森が荒れた弊害か?」

「ああ。Fランクでも成人してりゃ薬草なんて見向きもしない。そこでだ、孤児院の子どもたちに薬草採取を打診したところ結構反響が良いとかで低年齢の登録も進んでる」

カルムは孤児院によく顔を出しているためその話の橋渡しもしたのかもしれないとレイは思った


「孤児院側は子供たちが自分のお金を稼げるのはありがたいし、ギルド側はある程度安定するから助かるってわけだ」

「けど魔物はどうするんだ?」

「Dランクで草原の見回り依頼が出てるんだよ。9時~13時の4時間で1000G。魔物の対処さえ怠らなければ薬草採取してようがボーっとしてようがOK」

「それ需要あるか?討伐ならもっと短い時間で同じ額稼げるだろ。D以上なら複数受けてもっと効率よくこなせるし」

時間だけ拘束されて他につぶしのきかない安い単独依頼を選ぶのだろうか


「以前孤児院にいたのが結構引き受けてるみたいだぞ?休む日の小遣い稼ぎ兼ねてるやつもいるけど」

「あーなるほどな。ボーっとしててもいいなら休みとさほど変わらねぇってことか。1日に2匹出りゃいい方だもんな」

「そうだな。孤児院の連中もその時間に合わせて採取に行くから比較的安全に済ませることができるし、見回りの依頼が受けられなかったとしても、孤児院のスタッフにCランクが何人かいるから交代で受けるらしい」

「普段出かけるときの引率に安いとはいえ報酬がつくってわけだ?」

それなら安心だとレイも頷く


「そういう背景があるから低年齢でも特に注目はされないな。まぁ流石にシアは驚かれるかもしれんけどそこはほら、お前とサラサの子だから大丈夫だろ」

「どういう意味だよ…」

笑いながら言うカルムにレイはため息交じりにこぼす


「それより、ギルドで子供なんて俺はほとんど見かけたことないぞ?」

依頼を受ける日にギルドに行っても子供の姿などほとんど見ることがない


「事後受諾で行けるから朝は来ないだろ。終了報告は俺しか行かねぇしな」

「確かにそうか」

混雑を避けるためパーティーの場合リーダーがまとめて終了報告を行う決まりがあるのだ

メンバーはカードを預ければ済むしレイはその間に頼まれた買い出しをしていることが多い


「じゃぁ次の休みにでも登録させるか?」

「いんじゃねぇの?個室用意させたほうが楽そうだけどな」

「ならその時に今までためてた薬草も全部出すか」

「たまげんだろうなー特にシア」

まだ1歳になっていないのに薬草はそれなりにたまっている


「とりあえずためてたのをそこで一気に出してしまえば、その後は驚かれるような量にはなんねぇだろ?」

「そうだな。ギルド側も俺とサラサがインベントリ使えんの知ってるから大した問題にはならないか…報酬はあいつらが金の使い方覚えるまではカードに入金するように言っとけばいいだろうしな」

2人は思いつくままに色々と決めていく


このあたりのことはサラサもナターシャもレイとカルムに丸投げである

自分たちも知ってはいるが何かあったときにギルド側の対処をするのはレイとカルムになるだろうことも踏まえて特に口を出すつもりもない

結局、翌日登録するということを決めて2人は別の話に切り替えた



◇ ◇ ◇


翌日みんなで町に出た

マリクとリアムはウキウキしている


「パパどっちー?」

「まっすぐだ。マリク、リアムと手つないどけ」

「はーい」

カルムさんの言葉にマリクは素直にリアムの手を取る

置いて行かれまいと必死について行っていたリアムは上機嫌だ


「ここだぞ」

レイが扉を開けると2人は立ち止まる

中にいた冒険者が少し間を置いて騒ぎ出した

流石に一番混雑する時間は避けたもののまだ結構いるらしい


「お前ら一家そろってどうしたんだ?」

「まさかこの町を出て行くとかじゃねぇよな?」

みんなが口々に声をかけてくる


「そんなんじゃねぇよ。チビの登録だ」

「薬草か?お前ら森の入り口に住んでるもんな。チビでも結構集めるか?」

「ああ。それなりにな。レイたちのインベントリの肥やしにしとくのももったいないから定期的に納品させる」

カルムさんが笑いながら言う


「個室用意してくれ」

「分かりました。どうぞ2階へ」

受付の女性が心なしかほっとしたような笑顔で対応してくれる

流石にこれだけ注目を浴びる私たちがこの場にい続ける方が対応に困るのだろう


「2人とも上行くよ」

ナターシャさんがキョロキョロする2人を促した

シアはレイにしがみついたままキョロキョロしている


「…なんでギルマスなんだよ?」

個室に入るなりカルムさんが言う


「まぁそう言うな。お前ら4人がそろうと対応すんの怖いんだと」

「何それ」

ナターシャさんがあきれたように言う


「まぁ4人で大概の破壊力だからな」

ギルドマスターは豪快に笑う


「で、そのチビ達の登録だって?」

「ああ。シアも入れて3人。それとこれまでにこいつらが集めてる薬草の納品だ」

「シアは1歳になってないんじゃないのか?」

「ああ。無理か?」

「いや、身分証の機能も備えてるから登録は可能だ。すぐ準備する」

ギルドマスターはそう言って書類を持ってきた

私とナターシャさんがその書類に記入すると魔道具が目の前に用意された


「これなにー?」

リアムが指さして尋ねる


「リアムたちの情報をカードに登録するための道具よ」

「じゃぁマリクからね」

ナターシャさんが言うとギルドマスターはカードを1枚セットする

「マリク、この先っぽに指置け。ちょっと痛いぞ」

カルムさんが言うとマリクはこわごわと指を乗せた


「いた…っ!」

そう言いながらも指はのせたままだ

道具の溝を血が流れていく


「もういいぞ」

その言葉にマリクが指を離すとナターシャさんがすぐにヒールをかける


「よく頑張ったわね。ほら、これがマリクのカードだからね」

「うん」

マリクはカードを手にした瞬間嬉しそうに笑った


「次はリアムね。できる?」

「…うん」

血が出たのを見ていただけに怖さの方が勝っているかもしれない


「大丈夫だよリアム」

「でも怖いよ…」

「ちょっと痛いだけ。傷もママが魔法かけてくれるからすぐ消えるよ」

マリクはそう言ってにっこりと笑う

それを見てリアムは恐る恐る指を乗せた


「うぅ…っ!」

恨めしそうにナターシャさんを見る


「もういいわよリアム」

リアムは指を離しヒールをかけてもらうとナターシャさんに抱き着いた


「よく頑張ったね」

「偉いぞ2人とも」

カルムさんは2人の頭をなでた


「…お前らの親の姿とか…」

ギルドマスターが驚いたように見ている


「まぁでもいい関係だな。ほれリアムのカードだ」

「ありがとぅ」

リアムはカードを受け取ってお礼を言った

「どういたしまして。ちゃんと言えて偉いぞ」

ギルドマスターに頭をなでられてちょっと照れ臭そうにしていた


「で、次はその子か?」

尋ねながらレイの抱くシアを見る


「ああ」

レイは準備が整ったのを確認するとシアの手を取って道具の上に持っていく

「シアちょっと我慢な」

そう言って何でもないことのように指を乗せた

一瞬何が起こったかわからず固まったが泣く素振りは見せない

そういえばシアは生まれつきあらゆる耐性がMAXだったと思い出す


「シアもう大丈夫よ。ほらおいで」

すぐにヒールをかけて抱き受ける


「おりこうさんねシア」

そう言いながら頬をつつくと嬉しそうに笑い出す


「…大したおチビさんたちだ。7-8歳でもたまに泣くのがいるのに3人とも泣かずに終わったな」

その言葉にマリクとリアムは顔を見合わせて嬉しそうに笑っていた

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