第27話 マリクの弟

27-1

マリクが6歳の誕生日を迎えて数日が過ぎたある日、マリクは私たちとお留守番をしていた

「シアこっち」

マリクが少し離れた場所で呼びかけるとシアはハイハイしながら近寄っていく


「えらいシア。良くできたね」

褒められて嬉しそうに笑う姿を見ていると私まで嬉しくなってくる

ナターシャさんとカルムさんが褒めまくったおかげかマリクもことあるごとにシアを褒める


ついこの間までは寝ているだけだったシアが動き回るのがマリクは嬉しくてしょうがないらしい

一緒に這って動いたりつかまり立ちしているシアがこけても大丈夫なように後ろに控えたりと、とても頼もしいお兄ちゃんだ


「そういえばマリクがスキル使うの見たことないよな?」

「たまにステータス見るけどまだみたいよ」

子供のスキルは基本的にわからない

10歳頃までに突然使えるようになるということしかわかっていないため、ある日突然使えるようになることも少なくなく、スキルがあることに気付かないまま成人を迎えることもかなりの割合であるらしい


「確かトータも冒険者登録して初めて知ったはずだ」

レイが思い出したように言う

冒険者登録した時のギルドカードに表示されたスキルで自分が地魔法を使えることを知ったらしい

大抵の場合そこから魔法の使い方を覚えて少しずつ討伐に活かしていくようだ


「ただいまー。マリクいらっしゃい」

玄関からナターシャさんの声がした


「ママだ」

マリクは嬉しそうに玄関に走っていく


「…誰?」

驚きの声に私たちは顔を見合わせ立ち上がる

レイがシアを抱き上げ2人で玄関に向かうとナターシャさんと子供を抱き上げたカルムさんがいた


「おかえりなさい。ひょっとして…?」

「ああ」

「相変わらず突然だな」

レイも状況を察して苦笑する


「マリク、今日からあなたの弟になるリアムよ。仲良くしてあげてね?」

ナターシャさんが言うとカルムさんはリアムをおろした


「リアム、お兄ちゃんのマリクだぞ」

リアムはもじもじしながら下を向いている


「リアムが僕の弟?」

「そうよ」

「シア弟じゃなくなる?」

気にするポイントがおかしい


「リアムが弟になってもシアはそのままよ」

ナターシャさんがそう言うとマリクは嬉しそうに笑った


「弟は大事。リアムおいで」

マリクはリアムの手を握ると中に促した


「頼もしいお兄ちゃんね」

「よかったわ。マリクの反応だけが心配だったから」

ナターシャさんはほっとしたように言う

皆で中に入るとマリクは家の中をリアムに説明して回っていた


「おもちゃ、ボクの?」

「玩具はみんなのだよ」

「みんな?」

「うん。独り占めはだめ。僕もシアもリアムも一緒に使う。その方が楽しいよ」

「…わかった」

本当に頼もしいお兄ちゃんだ


「マリク」

「何?ママ」

「リアムのど渇いてると思うからジュースあげてくれる?」

「わかった」

マリクはすぐにジュースを用意してリアムに渡す


「リアム、マリクにありがとう言おうね」

「ありがと」

「うん。このジュースおいしいよ」

マリクに促されてリアムはジュースを口に運ぶ


「おいしい」

それを聞いてマリクは嬉しそうに笑って頷いた


「で、リアムはどういう?」

2人がすぐに打ち解けて一緒に遊びだしたのを見てレイが尋ねた


「母親はリアムが1歳になる前に病気で亡くなったみたい。その後は父親が見てたんだけど…無理な依頼を受けたせいで先月亡くなって隣町の孤児院に」

「そう…」

「髪と目の色がマリクとそっくりでしょう?」

確かにと思う


「こいつそれだけで決めた」

カルムさんが苦笑しながら言った


「黒い髪にきれいなエメラルドの瞳、本当の兄弟みたいじゃない?」

「偶然でもそういう繋がりってなんかいいね」

「でしょう?サラサちゃんならわかってくれると思った」

ナターシャさんはそう言って笑う

血の繋がりのないマリクとリアムにとって、共通点があるというのは決してマイナスにはならないだろうと思う

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