26-2
耳元でシアの声が聞こえて目を覚ます
「シア、ママが起きたぞ」
レイの声に状況を把握しようと試みる
どうやらベッドに腰かけたレイの膝を枕に眠っていたらしい
レイの腕の中にいるシアが伸ばしてくる手を握る
「…何時?」
「昼過ぎだな。シアのご飯は終わってる」
普段から手の空いた方がシアに食事をとらせるため、レイも離乳食をストックしている
それで済ませてくれたらしい
「ありがと…」
そう言いながらもまだボーっとしている
「もうちょっと寝てろ。大分無理させた」
どうやらまた抱かれている途中で意識を手放したようだ
「大丈夫…寝てるのもったいない」
ゆっくり体を起こしシアの頬に口づける
「おはようシア」
頬をつつくとキャッキャと笑う
私の頬に触れる小さな手の温もりに思わず笑みを零す
「俺にはなし?」
レイがからかうように言ってくる
「…おはようレイ」
顔が熱くなるのを感じながらレイの頬に口づけた
「ふ…足りね」
離れるのを遮るように後頭部に添えた手に引き寄せ口づけられる
「俺はこっちのがいい」
「…」
反論できずにレイの肩に顔を埋めるといつものように優しく抱きしめられた
穏やかな、幸せな時間だと感じながら身を任せた
「レイ…」
「ん?」
「レイの背中の傷痕治してもいい?」
抱きしめられながらずっと気にしていたことを尋ねる
「傷痕?ああ、お前を失いかけた時のか…」
レイは迷宮の側での出来事を思い出す
正しくはレイが死にかけた時のものだという言葉はあえて飲み込んだ
「あの時は止血しかできなかったから…」
「ああ。でもそのおかげで助かっただろ」
それで充分だとその目が言っていた
「でも…今でも少し痛む時あるんでしょう?」
依頼の後時々動きにくそうにしているのがずっと気になっていた
それを指摘すると少し驚いた表情になる
「まぁ確かに痛む時はあるけどな…」
それでも大した痛みじゃないと安心させるように笑って見せる
「それに…んな古傷みたいなもんどうしょうもねぇだろ?」
とっくに諦めてるよとレイは言う
普通ならそうなのだろうけど…
「スタンピードの時にスキル取得してるの。
「は?完全治癒と細胞レベルの再生…だったよなそれ?確かにお前の傷は完治してたけど…」
怪我人など見慣れたはずのレイですら目を逸らしたくなる酷い状況だった
それが嘘のように治っていたのだから確かなのだろうとレイも考えているようだ
「ただの傷痕ならみんな大なり小なりあるし気にすることもないんだろうけど…痛みがあるなら心配だから」
あの時の傷はかなり深かった
骨が見えていたため神経も傷ついていた可能性は十分ある
上級ポーションだからある程度の傷はふさげたとしても神経や組織までは完治できない
レイの傷はそれほど酷いものだった
「レイの実力は知ってる。普段の依頼なら折り合いつけながらでも何とかなるのはわかってるの。でもスタンピードみたいな状況で痛みが出てレイに何かあったら…シアも私もどうしていいかわからない」
実力は疑うまでもない
でも何が起こるか分からないのが人生だ
回避する術を持っているのに最悪の状況になったとしたら自分をどれだけ憎んでも足りないだろう
レイの為というよりも自分の為に治したいのかもしれない
自己満足でしかないのだろうかと思いながらレイの顔を伺った
「…お前の好きにしろ。傷痕はどうでもいいけど不定期に襲われる痛みがなくなるのは正直助かる。俺だってお前らを残していくなんて考えたくもないからな」
「レイ…」
抱きしめられたままレイの背中にある傷跡に再び触れる
おそらく死んでしまっただろう細胞組織を再生させてからの完全治癒
あの時のように取得しているスキルのレベルが低いからと嘆くことはもうない
「細胞に働きかけるから多分眠くなると思う」
「ああ、わかった」
呟いたレイはそのまま目を閉じた
「暖かいな…」
不思議なくらいゆっくり意識が遠のいていく
「ゆっくり休んで…」
自分の膝の上に倒れこむレイをそのまま受け入れシアと共に見守っていた
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