第26話 シアの成長

26-1

「レイ見て!」

朝早くから私はレイを叩き起こす


「…何?」

レイは眠そうにうっすら開いた目を擦る

まだ寝かせてくれと再び目を閉じようとしていた


「ほら、シアがつかまり立ちしてる」

シアはベビーベッドの柵を掴んで立っているのだ

レイがシアにとって初めてのことを見逃したとなると後悔するのは火を見るより明らかだ

まして今は外出しているわけではなく同じ部屋にいるのだから


「まじ…?」

その言葉に一気に目が覚めたようだ

飛び起きるなりすぐにそばにくる


「すごいぞシア」

目の前で柵を掴んでレイを見上げているシアの頭をなでる

「レイにやけすぎ…」

嬉しくてたまらないという顔のレイに苦笑する


「こないだから歯も生えてきてるし…どんどん成長するな」

「本当、あっという間だね」

二人でシアを見ながらその成長を喜び合う


側にいるとシアはずっとつかまり立ちをしたままご機嫌だった

キャッキャと笑いながら時々片手を伸ばしてくる


「おー握る力も大分強くなったな」

シアに握りしめられた指にレイはデレデレになっている

以前カルムさんの言ってたことは当たったなと内心ため息をついていた


しばらくするとシアは疲れたのかコテンと寝転がり寝息をたてはじめた

そのすべての仕草が愛らしい


私たちは顔を見合わせて笑うとベッドに戻った

「最高の朝だ」

「ん…」

抱き寄せられるなり落ちてきた口づけはすぐに激しくなった

体中の敏感な場所を知り尽くしたレイから逃れるすべもなく、真綿で包み込むように優しく、ゆっくりと快楽の海へ導かれてしまう


「…最近また感じやすくなった?」

何度か絶頂に導かれ体がビクビクと痙攣を始めたのを見てレイが言う

言葉にしないで欲しい…

そう思いながらまっすぐ向けられる嬉しそうな視線を悔しさ交じりで見返した


「…いじわる…」

「いじわる?」

レイが艶やかな笑みを浮かべているのを見て自爆したと悟る

ただでさえ簡単に快楽の波に引き込むレイが、この艶やかな笑みを浮かべた時は理性が飛ぶまで飲み込まれる


「朝…なのに…」

息が乱れる中何とか訴える

「カルム達が帰ってくるのは夜だ」

そう、昨日からカルムさんたちはカルムさんの実家に泊まりに行っている

再び浮かべられる艶やかな笑みに、理性を奪われるまでそう時間はかからなかった



◇ ◇ ◇



「サラサ…」

意識を手放しベッドに倒れこむサラサを咄嗟に抱きとめ、これが何度目だろうかと考える

サラサの理性が飛んだ時の快楽は極上で、自分の理性まで簡単に焼き切れてしまう

味わえば味わうほど求めてしまう麻薬のようだとレイはひそかに思っていた


サラサの負担を考えて普段は出来る限りセーブをしている

でもわずかなタイミングのずれでタガが外れると自分でも止められない

そうなった時の自分はサラサの理性を奪う事しか考えていないはずだ

そのあたりは自分でもはっきりしないのだが…

それが分かっていても自分に身を預けてくれるサラサを愛おしいと思う


「愛してるよ」

ささやいた言葉に苦笑する

その言葉をこれほど口にするなど過去の自分は思いもしなかっただろう

過去の自分に会えるのなら伝えてやりたい

お前はいずれ自分より大切に出来る人と出会えるのだと

だから腐ってないで前向きに生きろと…


眠っているシアをベッドに移すと、そばにかき集めたクッションに身を預けサラサを自分の元に引き寄せる

シアとサラサ、自分にとって大切な2人の息遣いを感じると自然と笑みがこぼれてきた


少ししてぐずり始めたシアを抱き上げる

それだけで機嫌よさそうに笑うシアが可愛くて仕方ない


「お前たちが俺の生きる意味だな…」

10歳ですでに消えてしまっていたはずの命だ

奇跡的に生き長らえても、完全に切ることのかなわなかった王家との悪縁も今はない


自分を守る為だけに我武者羅に強くなったものの、その先に何か望みがあったわけではない

自分の生まれに、暗殺された経緯に、ただ恨みだけが大きく育ちその反動で強くなっただけだった

力と金を手に入れると嫌でも人は寄ってくる

抱え込み搾取しようとするか、ペットとしてそばに置きたい貴族たち

アクセサリーとして手に入れようとする町の女たち

それらに嫌気がさすのに時間はかからなかった


開き直り、自ら相手を都合よく利用しながらも心は死にゆく一方だった

何をしても満たされない心に感情さえも少しずつ消えていった


サラサはその乾ききった心を少しずつ満たしてくれた

一緒に暮らすうちにサラサを守りたいと、大切にしたいと思うようになっていた

サラサが与えてくれる安らぎはもう手放すことなど考えられない


少しずつ成長するシアが教えてくれる楽しみも増える一方だ

この幸せが続いてほしいと心から思いながら目を閉じた



◇ ◇ ◇

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