19-4
「そういえば準備してる時のイチゴミルクにもびっくりしたんだけど」
「なんかあったのか?」
「ええ。ほら、集落で見つけてから何を渡しても口にしなかったでしょう?」
「ああ、飲むものも食うものも何も…腹減ってるはずなのにな」
トータさんが言う
「でしょう?それなのにイチゴミルクはいきなり飲んだからびっくりしちゃって」
ナターシャさんは簡単に説明する
「サラサなんかしたのか?」
レイがこっちを見て尋ねた
「私は何もしてないよ。でも…」
どう伝えたものかと少し悩む
「多分なんだけど…恐怖からの警戒かな…?」
「どういうことだ?」
「魔物に襲われた後に盗賊が来た時、姿がちゃんと見えるまではきっと助けが来たとホッとしたと思うのね。でも助けるどころか奪われることになった」
「…」
「差し出されたものを無条件に口にできなくなるようなことが目の前で起きたんだと思う。イチゴミルクも、お出汁も…夕食も…マリクはナターシャさんが口にしたのを確認してからしか自分の口に入れてない」
「まじで…?」
カルムさんの言葉に頷いて返す
「きっと無意識。信じろって言うのは簡単だけど…多分そういう問題じゃない」
「…」
「少しずつマリクにとっての安心を積み重ねていってあげなきゃいけないんじゃないかな」
「サラサちゃんよく気づいたわね…?」
その言葉には頷きだけで返す
流石に前世の施設で色んな経験をしてきた子達を見てきたからだなんて説明はできない
「少なくともここにいるなら、ここにある物は何も気にせずに安心して口に入れられるようになってほしいな。私たちも食べてるから大丈夫だって…その大丈夫を積み重ねるのは時間がかかると思うけど」
「…何か悪いな。お前らにまで…」
カルムさんが申し訳なさそうに言う
「何言ってんだよ。お前らの子どもなら俺らにとっても大事な子どもだ。何があっても一緒に見守っていく覚悟くらいあるさ」
トータさんがカルムさんを小突きながら言う
「トータの言うとおりだよ。水臭いこと言うなんてカルムらしくねぇからやめとけ」
レイも笑いながら言う
「…何かみんながいてくれてよかった」
「そうだな。マリクがちゃんと飯食って言葉も発した。今はそれで充分だ」
ナターシャさんもカルムさんも嬉しそうだった
部屋に戻ってしばらくベランダから町を眺めていた
「体冷えるぞ」
冬の夜の空気は刺すように冷たい
それを遮るかのようにレイが背後から包み込んでくれる
「暖かい」
背中越しに感じる温もりが心地いい
「ねぇレイ」
「ん?」
「マリク、心から笑えるようになるといいね」
「…そうだな」
レイは何かを感じ取っているようだ
「入ろう」
促されるままベランダから中に入りベッドに腰かける
「この子もマリクも愛されて当然なんだ」
レイがそう言いながら私の肩を抱き寄せた
「自分が得られなかった分もこいつらに与えてやりたい」
「うん。いっぱい愛してあげようね」
レイに体重を預けてそう言うとお腹にそっと触れてくる
「ふふ…まだ何もわからないでしょう?」
「いいんだよ。分からなくてもちゃんとここにいるんだから」
2人で笑いながら早く生まれてきて欲しいと語りあっていた
◇ ◇ ◇
カルムとナターシャは自分たちの間にマリクを寝かせた
俗にいう川の字だ
「サラサには驚かされる」
「本当よね。人の心に敏感ってだけじゃないみたいだけど…」
「多分転生前の人生が関係してるんだろ。長い間一人だったとレイから聞いたことがある」
「一人…」
ナターシャはつぶやくように言う
「サラサにも以前聞いたことがある。あいつが一番望むのはレイと一緒にいることだ。そんな当たり前のことを一番に望むだけの何かがあるんだろ…」
カルムはそう言いながらマリクを見る
「マリクにもあいつらみたいに笑えるようになって欲しいな」
「ええ。この子の幸せのためならなんだってしてあげたい。もちろんこれから生まれてくるサラサちゃんたちの子どものためにもね」
ナターシャはそう言ってほほ笑んだ
◇ ◇ ◇
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