19-3
「そういやカルム達の事なんて呼ばせんの?」
トータさんが尋ねた
「別に決めてねぇけど…」
カルムさんは言いながらマリクを見るが夢中でご飯を食べている
「私はママって呼ばれたいんだけどなー」
ナターシャさんはちょっとウキウキしている
「ってことはカルムがパパか?似合わねぇー」
「トータお前それなりに覚悟して言ってんだろうな?」
少しにらみを利かせたカルムさんの言葉にトータさんは顔を反らした
でもその目元は笑っている
「パパこわーい」
「…サラサ…」
カルムさんがうなだれる
物凄く軽い気持ちで言っただけに罪悪感が半端ないのでフォローすることにした
「ごめんカルムさん。ねぇマリク」
呼びかけると顔を上げた
「カルムさんがパパって呼んで欲しいんだって」
ほらっとカルムさんを指さすとマリクはカルムさんをじっと見た
「…ぱぱ?」
小さな声で少し戸惑いながらもそう言った
「そ、そうだぞー。今日から俺はマリクのパパだ。これからは俺が守ってやるからな」
頭をグリグリなでながら言うカリムさんはかなり照れ臭そうだった
「カルムばっかりずるいわ。マリク、私はマリクのママよ」
「まま」
今度は迷いなく呼ぶ
「可愛すぎ!」
ナターシャさんはマリクを抱きしめた
「何かすんげー親バカがいんだけど…」
「だな。普段と違いすぎてちょっとこえー」
トータさんとレイがひそひそと話している
それ、後で覚悟が必要なささやきだと思うけど…
ナターシャさんとカルムさんはマリクを構い倒し、私たちもマリクに話しかけたり触れたりするうちに、マリクは少しずつ慣れてきているように見えた
「だいぶ暗くなったな」
トータさんのそんなささいな一言でマリクは固まった
「マリク?どうした?」
カルムさんがマリクの顔をのぞき込む
「…パパ…」
マリクは泣きそうな顔でカルムさんに手を伸ばす
「よっ…と」
カルムさんはマリクを抱き上げそっと抱きしめる
「どうした?」
髪をなでながら尋ねるもののマリクは黙ったままカルムさんの胸に顔を埋めていた
「マリクはどうしちゃったのかな?」
ナターシャさんも心配そうにマリクをのぞき込む
「…暗いの嫌…襲われる…」
マリクはギュッとしがみ付く
皆で顔を見合わせた
暗くなってきたときに襲われたのだと、そういうことなのだろう
「大丈夫だ。何があってもマリクの事を守ってやるからな」
「やぁ…!」
泣き出したマリクの小さな手がカルムさんの腕を必死でつかんでいるだけでなく、その体は明らかに震えていた
「落ち着けマリク」
そう言いながらもカルムさんは困惑した顔をナターシャさんに向けた
ナターシャさんもどうしていいかわからず首を横に振る
震える小さな体を抱きしめながらカルムさんは私たちの方を見た
『あなたの事だけは絶対に守るからって言ってママはボクの代わりにパパに殴られて…気づいたら息をしてなかった』
私は施設にいた頃にそう言っていた子がいたのを思い出していた
幼いマリクを守ろうとして一体どれだけの人がなくなったのだろう
それが大人たちの希望だったとしても、マリクが理解できるはずがない
「…」
私はインベントリから取り出したメモ用紙に少し記入するとカルムさんに見せた
「!」
カルムさんはそれを読んで目を見開いた
「…大丈夫だマリク。俺もナターシャもこれからずっとマリクの側にいるから」
マリクの背中をなでながらカルムさんは言う
「ほん…と?」
「ああ。側にいないと守ってやれないだろう?」
その言葉にマリクは今までと違い大きな声を上げて泣き出した
「…寝ちゃった?」
カルムさんの膝の上に乗ったまま泣き疲れて眠ってしまったようだ
「さっきのは何て?」
ナターシャさんが尋ねる
「集落の何人かはマリクを守ると言って盾になって死んだんだろうって」
「あ…だから…?そんなことって…」
ナターシャさんはマリクの頬をそっと包み込んだ
「この子は沢山の事を抱えてるのね」
幼いマリクがどれだけの恐怖と悲しみを抱えているのかは想像するしかできない
それがひどくもどかしかった
「あの場所は本当にひどかったものね」
ナターシャさんが言う
「沢山の無残な遺体の側でマリクがどれくらいの時間過ごしてたのか…」
「それでもこいつが生きててくれた。それだけが救いだと思うよ」
レイがマリクを見る目は深い悲しみを帯びていた
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