19-2

「私は料理手伝うからマリクは…」

マリクは何かを言われる前にナターシャさんにしがみ付いた

その目がナターシャさんと離れたくないと言っている

そう言えばカルムさんがナターシャさんと離そうとすると泣くと言っていた


「ふふ…マリクも一緒においで。ミルクを入れてあげる」

そう言うと安心したように頷いた


キッチンにあるダイニングテーブルの椅子にクッションを乗せてマリクを座るように促す

不安げにキョロキョロしてはいるものの、すぐそばにナターシャさんが立っていれば大丈夫なようだ


「せっかくだから甘いミルクにしよっか。マリク、イチゴとバナナ、どっちが好き?」

テーブルに両方の果物を出すとイチゴを指差した


「了解。ちょっと待ってね」

頭をなでて言うとはちみつを少し加えたイチゴミルクを作る


「はいどうぞ」

グラスに入れてマリクの前に置くと手を伸ばさずにじっと見ていた

そんなマリクをナターシャさんが心配そうに見ていた

無理に飲ませるわけにもいかず困っているのが分かる


「…せっかくだからナターシャさんもいかが?」

「もらうに決まってるじゃない」

即答だった


マリクはナターシャさんが飲むのを確認してから少しだけ口に含んだ

そして次の瞬間一気に飲み干しイチゴを掻き込んだ

それにはナターシャさんも驚いている


「さっきまで水も飲まなかったのよ…?」

ナターシャさんのその言葉に胸が痛む

空腹のはずのマリクが差し出された水さえ事を考えるとマリクの心の傷はかなり深そうだ


「マリク、もう少し飲む?」

問いかけると頷いたので空いたグラスに継ぎ足した

今度は少しずつ味わって飲んでいるようだった


マリクが落ち着いたのを見て頭を切り替える


「じゃぁ夕飯の準備をしましょうか」

「今日はどうするの?」

「子どもと言えば…カレーライスにハンバーグ、オムライス、麺類とかかな…でもナターシャさん、お水も飲もうとしなかったんですよね?」

「ええ」

ナターシャさんは困ったように頷いた


「…じゃぁ胃に優しいもの…温かいうどんかな。ボリューム足すためにかやくご飯も」

「かやくご飯は前に教えてもらった具がたくさん入った味の付いたご飯よね?うどんは?」

「できてからのお楽しみです。ナターシャさんこれ刻んでかやくご飯お願い」

刻むならマリクの隣でも十分できるはずだ

案の定マリクはナターシャさんの手元を飽きもせずずっと見ていた


私はレイに頼んで作業台を準備してもらいうどんを打ち始めた

うどんの出汁を作っているとナターシャさんが味見を要求してくる


「はいナターシャさん」

小皿に入れて渡すとすぐさま口に運んでいる


「おいし。マリクも味見する?」

「する…」

かなり小さな声だった

一瞬私もナターシャさんも固まった


「マリク今…」

ナターシャさんは思わずマリクを抱きしめていた

腕の中でマリクはキョトンとしている


「ふふ…マリクがお話してくれて嬉しいんだって」

そう説明してあげても不思議そうな顔をしていた


「ナターシャさん、マリクお出汁味見したいんだよね?」

「そ、そうだったわ。ほらゆっくりね?」

思い出したかのように小皿をマリクに渡すとチビチビと飲んでいる


「どう?おいしい?」

コクンと頷く

そして私の方に小皿を差し出してくる


「…もっと欲しいの?」

再びコクンと頷く


「そっか。でも味見はそんなにたくさんするものじゃないの。もうすぐご飯できるからその時にいっぱい飲もうか?」

最初少し泣きそうになったものの後でいっぱい飲めると続けるとほっとしたように頷いた


「サラサちゃんご飯炊けたみたい。うどんはどう?」

「こっちも大丈夫」

「じゃぁ仕上げちゃいましょうか」

2人でご飯をよそったりうどんを盛りつけたりするのをマリクはじっと見ていた


「よし、マリク向こうでみんなと一緒に食べるよ」

ナターシャさんに促されたマリクはカルムさんとナターシャさんの間に座る


「カルムこれ使えよ」

レイが書庫に置いていた踏み台を取ってきた


「サンキュ。マリクこの上に座ろうか」

カルムさんは一度マリクを立つように促して踏み台を置いた

マリク用の椅子も用意した方がいいかな?


「あ、丁度いい高さになったね。これがマリクの分ね」

少し小さめの器に盛った料理をマリクの前に置く

皆の前にはうどんとかやくご飯、中央には大量の天ぷらとツナサラダを用意した

皆が食べ始めてもマリクはしばらくじっと見ていた


「ほらマリクおいしいよ」

ナターシャさんが食べているのを見てちょっとずつ食べ始めた

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