第19話 養子
19-1
レイがパーティーに入って2か月、新しい生活にも慣れてきた
と言ってもそれ以前とたいして変わることはないのだが…
ただ私が妊娠初期ということもあり皆が気遣ってくれて家に寄って行ってくれることも多くなった
ナターシャさんがパーティーを抜けると決まったのはそんな時だった
「今日の依頼で保護した子を引き取ることにした」
帰りに立ち寄ったカルムさんはそう言った
依頼の途中で誰かを保護するのは珍しい事ではない
弾丸のように高ランクのパーティが受ける依頼では余計かもしれない
「随分突然ですね?」
通常であればギルドを通して孤児院に預けることになる
それをその日のうちに引き取ると決めたのだから驚くのも当然だと思って欲しい
「ちょっと事情もあるからな」
カルムさんはそう言って苦笑する
「事情?」
「ああ。まぁ会ってみればわかる」
少し言葉を濁すカルムさんに首をかしげるがそれ以上の答えは返ってこなかった
「当のナターシャさんは?」
「もうすぐ来るよ」
と、レイがそう答えたタイミングで魔道具が鳴った
そしてレイと一緒に入ってきたナターシャさんのすぐ後ろには小さい男の子がいた
「え…と?」
しがみ付くという言葉がこれほどピッタリ当てはまる状況はそうないだろうと思うほど男の子はナターシャさんの足に引っ付いていた
「今日からうちの子になったマリクよ」
ナターシャさんが笑顔で言うがマリクはナターシャさんの後ろに隠れたままだ
「さっきも言ったけど、今日依頼先で見つけて保護したんだがな…」
カルムさんはそこまで言ってナターシャさんとマリクの方を見る
「ナターシャから離そうとすると泣くんだよ。ずっとそんな感じだ」
そう言ったカルムさんには少し困惑の表情が浮かんでいた
「…今日の依頼って?」
「7日前に魔物に襲われた集落の事後調査」
「え…?」
言葉に詰まる
この世界で集落が魔物に襲われるのは決して珍しい話ではない
でも依頼で事後調査に入るケースは限られている
「…この子だけが?」
「ああ」
言葉にしなくても理解できてしまう
限られたケース
それは集落が滅んでしまったということを指している
酷い場合はその後に盗賊たちに荒らされていることもある
魔物から逃げきれても盗賊に甚振られ、大抵皆殺しにされてしまう
マリクはそんな集落の生き残りということだ
酷い惨状を目撃したはずだと思うと今の状況も当然なのかもしれない
ナターシャさんだけにでも気を許せるのならまだ救いがあるとも思える
「こういう場合は孤児として孤児院に引き取られるんだけど…何かそうしたくないのよね」
ナターシャさんがそう言って寂しそうに笑った
「この状態から引き離すのは俺も嫌だからな」
カルムさんがそう言ってマリクの頭をなでた
「そうだったんですね…マリク、私はサラサ。これからよろしくね」
私がマリクのそばにしゃがみ込みまっすぐ目を見て言うと小さな頷きが返ってきた
他人を拒絶しているわけではないようだ
「それでだ、この状態で俺らが依頼に行くのも心配でさ」
「?」
いきなり話を変えたレイを見る
「ナターシャ達はしばらくここに住んだらどうかって話してたんだ」
「ここに?」
「ああ。お前の体調の心配もあるし、ナターシャとマリクの方も2人だけじゃ大変だろうからな」
「私もサラサちゃんがいてくれると心強いからサラサちゃんさえよければなんだけど」
ナターシャさんは少し申し訳なさそうに言う
「ナターシャさんがいてくれるのは私も嬉しい」
そう答えるとみんながほっとしたように笑った
実際一人の時に何かあったらと思うとずっと不安でもあった
町まで歩いて3時間、前世のように電話があるわけでもない
気心の知れているナターシャさんがいてくれるならこれほど心強いことは無い
「それよりも、こんなところで立ち話するより中でくつろいで。すぐご飯用意するから」
「サラサ俺はいいよ。メリッサが待ってるから帰る」
「了解です。気を付けて」
アランさんはそのまま帰っていき他のみんなはリビングに移った
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