13-3
「このことが広まればサラサの身がどうなるかわからない。今回の事がなければ俺とサラサの中だけでとどめておきたかった」
3人はレイの言わんとすることが簡単に理解できた
過ぎた力は国にも目を付けられるだろう
特別待遇という名の軟禁状態に陥るだけでなく、死ぬまで国のためにその力を搾り取られるということだ
カルムに至っては第3皇子だったレイが暗殺された真相も知っているだけに最悪の事態を容易に想像することができた
「サラサは俺らにとっても大事な仲間だ。ナターシャとメリッサには伝えるが他に広めるつもりはない」
「俺もだ。どんな力を持ってたとしても関係ない。国やお貴族様になんて渡してやんねー」
「ああ。俺も絶対に言わない」
「…サンキュ…」
当たり前のようにサラサを受け入れてくれる言葉にレイの声は少し震えていた
「…とにかくどんな理由であれサラサが大丈夫ならよかった」
トータがサラサを見ながらほっとしたように言うとその場の空気が少し軽くなった
「なあ」
「?」
サラサをじっと見ていたレイはトータの声で顔を上げた
「サラサの料理と転生は何か関係あるのか?」
「そういや細工もんとか…他にもあったよな?」
「サラサが来てからこの家で初めて見たもんとかも…?」
3人が口々に尋ねる
「ああ。全て前の世界に普通にあったものらしい」
「まじで?」
「次々とよく発想できるもんだとは思ってたが…」
「もしかしてギルド登録するのをいつもためらうのは…」
「俺らにとっては初めて見るもんでも自分がつくり出したものじゃないからって言ってたよ」
レイは苦笑しながらそう言った
「…らしいと言えばらしいな」
アランはそう言いながらサラサを見た
サラサは新しいものを創り出したことではなく、それで周りが笑顔になることを喜んでいた
皆で楽しい時間を過ごせることが嬉しくて仕方ないという感じが自然と伝わっていたのだろう
「…あんなうまい飯が当たり前ってことか?」
「みたいだな。向き不向きはあるみたいだけど簡単なものなら大抵の人が作れるらしい」
「作れないやつもいるんだろ?」
「作れなくても食堂が豊富にあるし店に調理済みのものが売ってるから困らないんだと」
「すげぇなー」
「パン屋のパンが増えたのも関係あんのか?」
トータが思い出したように尋ねる
「あれは…サラサが作ったものの中で、俺でもどうやって作るかわかるようなのを時々持ち込んでる」
「たしかに何で今までなかったのか不思議なもんが多い気はするな」
カルムが妙に納得していた
「ところでさぁ…飯の話が出ると腹が減ってくるのはなんでだろーな…」
アランはそう言いながら自分のお腹をなでる
「俺も腹減った~準備する前にギルマスにつかまったからなぁ…」
トータがうなだれる
「…ちょっとならあるぞ。今日出る前に補充した分しかないけど」
レイはインベントリから大量のサンドイッチとおにぎりを取り出した
「何で一口サイズなんだ?」
「今朝出る前にサラサに渡された携帯食替わり。それならいつでも食えるから」
「…にしては結構な量だよな?」
「それはお前らが話してたからだ。スタンピードや急な討伐の時に携帯食が準備できないことがあるって。適当に小分けされてんのはそういうやつらにもまとめて渡せるように」
「それを見越しての量ってことか?それでも多すぎだろ…」
「こいつの中で冒険者1人前の基準は俺やお前らだからな」
「「「…」」」
その言葉に3人は納得した
3人とも自分が大食いである自覚はあるようだ
しばらく他愛ない話をしながら食事を済ませると3人は帰り、レイはサラサを抱き上げベッドに運んだ
眠り続けるサラサを見つめながら自分が同じように意識を失っていた時の事を思い出す
自分以外に頼る人もなくどれだけ不安だったのだろうか
「こんな気持ちだったんだな…」
インベントリから取り出したポーションを口移しで飲ませるとサラサを抱きしめたまま目を閉じた
◇ ◇ ◇
翌朝髪を梳かれる感覚に目を覚ます
「…レイ…」
覗き込む心配そうな目に記憶をたどる
「みんなと子供は…?」
「大丈夫だよ。大丈夫じゃなかったのはお前だけだ」
そう言ったレイが私を抱きしめる腕は少し震えていた
「ごめん…ね?」
「何が」
「油断したつもりはなかったんだけど…」
魔物の群れを前に子供が飛び出してくるなど思いもしなかった
「わかってる」
レイからそれ以上の言葉は出てこない
私が何も言えずレイの胸に顔を埋めると強く抱きしめられた
「取り返しのつかないことにならなくてよかった…」
その言葉にただ頷く
途切れそうな意識を必至でつなぎ留めながら、自分に起こったことを理解するのは容易ではなかった
イメージできたのもギリギリのタイミングだったはずだ
それでもあの瞬間…
「色んなことがばれるよりも…レイといれなくなる方がイヤだったの」
創造を使うことに迷いはなく、ただ死にたくなかったのだ
「国や貴族の道具になる可能性もあるってわかってる。でも死ぬよりましだって思ったの…」
「ああ」
レイは私を抱きしめたまま、ただ頷いた
「あいつらにはちゃんと説明したよ」
「…」
「言いふらすつもりもないし、お前を国や貴族に渡す気もないらしい」
「…そう…」
「まぁどっちかと言えばお前の料理が食えなくなる方がイヤっぽかったけどな」
半分呆れたようなレイに思わず笑ってしまう
「とにかく、今日はゆっくり休んでろ」
そう言いながらベッドから出るレイの腕をとっさにつかむ
「どうした?」
「…レイのそばがいい…」
わがままだとわかっていた
でもレイの温もりを感じていたかった
「ダメ…?」
声がひどく震えた
「…そんな甘え方されたらちゃんと応えないとな」
からかうような言葉なのにその目はどこまでも優しい
恥ずかしさに顔が熱くなるのがわかる
「でも服は着替えないとな」
引き裂かれたままの服は確かにいただけない
適当に見繕って取ってきてくれた服に着替えると気分的にも楽になった
私を抱き上げたままリビングに移りソファにおろされる
「飯どうするかな…」
「大丈夫」
私はインベントリから取り出した料理を並べる
ストック料理は結構豊富にそろえてある
「…そういう奴だったな」
苦笑交じりに言われた
「でも助かる。飲み物だけ取ってくるよ」
レイはそう言ってキッチンでお茶を淹れてきてくれる
「ありがと」
手渡された暖かいお茶を飲むと体の中が少し暖かくなる
血がまだ足りていないためか少しボーっとしたりふらついたりするものの体調的にはさほど悪くないようだ
レイはこちらを気遣いながらも大量に並んだ料理を平らげていく
その姿を見るのが好きだと改めて思う
「どうした?」
「え?」
「何笑ってんだ?」
無意識のうちに表情に出ていたようだ
「レイがそうやっておいしそうに食べてくれる姿見るの好きだなーって思っただけ」
「…」
レイは聞くんじゃなかったとでも言うように視線を逸らす
耳が少し赤い
「照れてる?」
「黙れ」
会話になっていないなーと思いながらもこれ以上言えば返り討ちにあうことが分かっているのでやめておく
食事の後本を読もうと思ったら取り上げられた
「お前は横になってろ。嫌なら上に戻す」
言葉はそっけないのに心配してくれているのが伝わってきた
素直にレイの膝を枕にして横になると、自分でもよく本を読もうと思えたものだと驚くほど簡単に睡魔に襲われていた
そのまま夕方まで眠り続けたおかげか翌日には普段通りの生活を取り戻すことができた
でもこのあとレイに異変が起きるなんて予想もしていなかった
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