13-2
丁度その時遠くからスタンピードが収まったことを告げる合図が聞こえてきた
迷宮核を戻すことが出来たのだろう
今は魔物の脅威がなくなった事にほっとした
「レイ…」
何とか声を出す
「なんだ?」
強張った声が返ってくる
「…口止め…お願い」
かなりの血液を失ってショック症状が出てきたのが分かる
寒気に襲われ指先の感覚はもうほとんどない
これ以上遅れると最悪の事態になるのが分かった
レイは私がチートスキルを使うことをさとったのか無言のままうなずいた
でもその目は不安げに揺れているように見えた
私は意識が途切れる直前に傷口のない自分の体を強くイメージした
ただでさえ血が足りないのに魔力まで一気に抜けていくのが分かる
『ドクンッ』と心臓が脈打った瞬間意識を手放していた
◇ ◇ ◇
「…なに…これ…」
サラサの体が光に包まれた
光の強さにみんなの目がくらむ
視界が正常に戻ったとき目の前のサラサを見てレイ以外のみんなが絶句する
「…一体何が?」
最初に言葉を発したのはカルムだった
「傷口が…消えた?」
信じられないことだった
誰の目から見ても助からないだろう状態だったはずだ
「どういうことだよレイ?お前何を知ってる?」
驚いた素振りもなく目の前で起こったことを受け止めているレイにカルムが尋ねた
「…サラサの力だ」
「は…?」
「詳しいことはここでは話せない。うちで説明する」
レイはそれだけ言ってサラサを抱き上げる
少し離れているとはいえ周りにはかなりの冒険者がいる
さっきの光に気付いた者が原因を突き止めるために動きだしたのもわかる
カルムはそれに気づき頷いた
「ナターシャ、その子供を頼む。俺らは馬だけ拾ってレイの家に行く」
「わかった」
ナターシャは3人を見送ると、恐怖と罪悪感で気を失った子供の傷口にヒールをかけ、通りがかった冒険者に声をかけ合流した
カルムとトータ、アランはソファに座りレイは床に座るとサラサの頭を膝にのせて寝かせる
顔色が限りなく白く冷たい
レイはインベントリから外套を取り出しサラサにかぶせると3人を見た
「サラサの力って言ったな?」
切り出したのはカルムだった
「ああ…」
レイは頷いてから少しの間沈黙していた
どう話したらいいものかと考える
以前、何かを言おうとして黙り込んだサラサもそうだったのかもしれない
「…これから話すことは信じられないかもしれない。ただ…納得してもしなくても全てここだけの話としてとどめて欲しい」
カルムはレイと出会ってから10年以上の間でそんな言い方をしたのを初めて聞いた
長い付き合いの中でその手の冗談やふざけたことを言わないことも知っている
「約束する」
カルムが言うとトータとアランも頷いた
「…サラサはこことは別の世界から来た転生者だ」
「転生?ごくたまに聞く生まれ変わりとかああいうやつか?」
カルムが尋ねるとレイは頷いた
「あれから2年弱か…以前異常な光の柱が問題になっただろう?」
「ああ。たしかあの頃にサラサを保護したんだよな?」
トータの言葉に頷く
「あの光はサラサがこの世界に転生した時のものだったらしい。サラサの称号には異世界転生者であることと、神々の加護を受けし者であることが表示されてる」
「鑑定したのか?」
「した。でも出会った頃に調べたときは隠蔽されてた。俺が知ったのはサラサが一度ここを出て行った時だ」
「1か月以上行方がつかめなくなった時だな」
カルムはレイがサラサを追い詰めたと落ち込み探し続けていた事を思い出していた
「その転生と、さっきの傷が治ったことの関係は?」
アランが尋ねる
「サラサは特殊なスキルをいくつか持ってる。その中に創造ってスキルがあるんだ」
「そんなスキル聞いたことないぞ?」
「どんなスキルなんだ?」
「…強く願ったりイメージしたスキルを取得したり新たに創り出したりするスキルだ」
「「「…」」」
口々に問いかけていた3人が呆然としたまま顔を見合わせていた
「…あの時サラサは魔法なんて使える状態じゃなかったよな?」
「ああ」
「じゃあ…傷が治った状態をイメージしたってこと…か?」
カルムのその言葉は少しかすれていた
「以前、俺が死にかけたときに似たようなことをしてるから間違いないと思う」
それまでの常識では考えられないことだった
でも実際に目の前のサラサの傷跡は消えていた
「あと…」
レイが言いかけると3人は顔を上げる
「サラサは全属性の魔法が使える。ソーサリーマスターも持ってるけどギルドマスターを脅して極秘扱いにしてる」
「ソーサリーマスターって数えるほどしかいないやつ?」
「ああ。多分実力で言えば俺と変わらないかも」
「まじか…」
カルムが絶句する
「でもサラサはCランクだったよな?ソーサリーマスターならランクアップ関係なくS確実だろ?」
「そんなことになったら目立つだろ」
「じゃぁそれもギルマス脅してるってことか?」
「ああ。ソーサリーマスターがない状態でのランクアップだな。まぁどれだけ上げてもAまでじゃないか?」
レイはそう言いながらサラサの髪を梳く
「ソーサリーマスターってことは時空魔法もあるよな?ひょっとしてインベントリも?」
「ああ。ナターシャは前の休息の時から知ってるけど、魔力量考えれば多分俺より容量がでかい」
「お前のでも大概なのにそれ以上?」
トータが天井を仰いだ
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