第13話 サラサの危機
13-1
穏やかな日々の中、その日は突然やってきた
「サラサ!」
私は依頼を受けずに家の周りの薬草を採取する予定だから、レイは一人で依頼を受けに出かけて行った
そのレイが早々に家に飛び込んできたことに戸惑いを覚える
「…何かあったの?」
「スタンピードだ。お前も出る準備しろ」
「っ…わかった!」
答えながら自分の準備を整える
以前から話に聞いてはいたものの遭遇するのは初めてだ
「レイこれ携帯食替わり」
緊急時用にと大量に用意していた小ぶりのサンドイッチやおにぎりなどの簡単に食べられる食料をレイに渡す
「助かる」
レイはすぐに自分のインベントリにしまった
「転移のほうがいい?」
「いや。馬が必要になるかもしれない」
頷いて差し出されたレイの手を掴んで馬に乗るとそのまま町に向かう
私がこの世界に来て1年10か月、初めて起こったスタンピードだ
ギルドが主導で町の守りを固め冒険者が続々と集まってくる
「Cランク以下は外壁の前、Eランク以下は壁の中で避難誘導だ。Bランク以上は10分後に出る!」
ギルドマスターの声にみんなが動き出す
「レイ、お前らは俺らと来い。サラサもだ。ランクは外れてるが実力的に問題ないはずだからな」
基本的にパーティーは一緒に行動する
カルムさんは当たり前のようにレイと私を引き入れた
「サラサちゃん、無理はしなくていいからね」
「ナターシャさん…」
「一番に優先するのは自分の命だ。それだけは覚えとけ」
「わかった」
カルムさんの言葉に頷く
遠くから砂煙が近づいてくる
冒険者は5人前後のグループで整列してギルドマスターの合図を待っていた
「行くぞ」
静まり返っていた場所にその声は驚くほど響く
次の瞬間雄たけびと共に冒険者が走り出していた
出来るだけ早く町から離れた場所へ
同時に魔物と向き合った際に備えて体力を温存しなければならない
既に所々で戦っているのが分かる
「来るぞ」
アランさんの言葉にみんなが立ち止まる
前方からブラックベアの群れが現れた
「5匹だ。ナターシャはサラサのフォロー」
カルムさんの言葉にみんなが気を引き締め、引き受けるブラックベアを他のブラックベアから引き離すように攻撃する
《ファイアボール》
少しきつめの攻撃をして様子を見る
攻撃を食らったブラックベアは怒りを持って反撃をしてきた
「サラサちゃん足止めできる?」
「やってみます」
《ファイヤウォール》
同じ魔法を4度放ちブラックベアを火の壁で囲いこんだ
「最高!」
《レイザー》
ナターシャさんが身動きの取れなくなったブラックベアの首元をめがけて魔法を放った
断末魔のような声と共に倒れこむのが分かった
他の4匹も倒しおえてるようだ
「レイは回収、ナターシャはトータの治療」
「「了解」」
「すんだら先に進む」
あたりを警戒しながらカルムさんの指示が飛ぶ
そしてカルムさんの指示にはみんなが素直に従っていた
普段からの信頼関係があってのものだろう
魔物を前に仲間割れなど殺してくれというに等しい
そう考えれば今の状況は最高の状況だろうと思う
何度も3匹~7匹の群れと遭遇し、それでも危なげなく確実に仕留めながら進んでいた
すでに3時間以上が経っていて時おり見える他の冒険者にも疲れが見えてきている
魔法やポーションで体調を整えながら進んでいた時だった
『ガサッ…』
草を踏みしめる小さな音にみんなが立ち止まり警戒する
周りを警戒したまま音のした方向に注意を向ける
「…子ども?」
やせ細り身体中怪我を負っているが身に着けている衣服や首輪で奴隷だとわかる
「おとりとして捨て置かれたか…」
助けてやりたくても状況を考えると難しい
子供を抱えて魔物の群れと対峙し続けるのは簡単なことではない
どうするか決めかねていた時再びブラックベアの群れが現れた
この状況で悩む時間は与えてもらえないらしい
「とにかくこっちが先だ。この4匹とっとと倒すぞ。そこのチビ!お前はそこから動くな」
カルムさんの言葉にそれぞれが倒しにかかる
子供は勢いに飲まれたまま首をコクコクと縦に振ったままフリーズしたように立ち尽くしていた
私は最初の時同様
「もっかい来るぞ…ったく群ればっかり次々と…」
レイが回収を終えた直後、さらに5匹が襲い掛かってくる
これが続けば本当にシャレにならないと思いながらも目の前の魔物を真っすぐ見据えた
「!?」
魔法を放とうとした瞬間何かに足を取られて倒れこむ
反射的に足元を見るとさっきの子どもがしがみついていた
「な…」
何が起こったか把握するのは簡単だった
でも次の瞬間、自分の周りが暗くなる
顔を上げるとブラックベアが今にも前足を振り下ろそうとしていた
「危ない!」
咄嗟に子供をかばっていた
「サラサちゃん!!」
ナターシャさんの悲鳴のような声が上がった直後左腕と腹部に強烈な痛みが走った
「っ…!」
熱さと痛みに飛びそうになる意識を必死でつなぎとめる
駆け寄ったナターシャさんがヒールをかけつづけてくれているのが分かった
「サラサ!」
その場にいたブラックベアが全て片付いたのを確認してからレイが駆け寄ってきた
「一体何が…」
「その子がサラサちゃんの足にしがみ付いて…襲われる瞬間に庇って…」
当の子どもはそばでうずくまり震えながら泣いている
「サラサちゃんがその子に覆いかぶさった瞬間攻撃されて…」
私の左腕は二の腕の辺りで内側の皮とわずかな肉でかろうじてつながっていた
腹部も抉れるように損傷している
体中から急激に血が失われていくのを感じるからひょっとしたら内臓が出ているかもしれない
「大丈夫か?!」
他の3人も駆け寄ってきた
誰の目から見てもナターシャさんのヒールで治るような傷じゃないことが分かったのだろう
トータさんとアランさんは悔しそうに顔をそらし、カルムさんはそばの木を殴りつけた
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