11-2
豚汁の出汁を取るためにカツオと昆布を準備しているとナターシャさんが興味深げに覗き込んでくる
「これは?」
「魚の出汁。カツオを煮たり干したりした後に乾燥させたもの」
「カツオってあの海でとれる?」
「うん。この状態のを商会で売ってるの。こっちの昆布も売ってるんだけどね」
簡単に説明してから昆布とかつおを使って出汁を取る
「出汁を取ったスープは色んなものに使えるから便利ですよ」
「すごくいい香りね?味も優しい」
味見用にと小皿に少しとったスープを飲んでナターシャさんはどこかほっこりしている
その間に根菜類と豆腐、オークの薄切りを準備した
「出汁もそうだけどオークを塊以外でなんてびっくりだわ」
たしかレイにも言われたなと思っていると…
「お前今、俺も同じこと言ってたとか思ったろ?」
背後からレイが現れた
「そんなこと思っ……たよ?」
否定しようと思ったもののジーっと見られ観念した
下手に誤魔化して後からどうなるか考えてしまった事に気付いたのかレイが意味ありげに笑っていた
「で、この状態ってことはナターシャにはインベントリのことばれてるな?」
テーブルの上に食材が並んでいるのを見てレイが言う
「うん」
「大丈夫。誰にも言わないから」
「あーまぁここにいる奴らなら別にいいんだけどな。こいつがこうやって無意識に使う方が心配」
レイの言葉にいたたまれなくなる
実際ナターシャさんの前でやらかした後なので反論のしようもない
「そういうことならカルムたちも知ってた方が逆に安全かもしれないわね。阻止したりごまかしたり?」
「確かにその方がいいかもな」
笑いながら言うナターシャさんとレイに凹んでしまう
「まぁ落ち込むな。それよりすぐつまめるもんない?」
「ちょっと待って」
私がストックしていた総菜をお皿に盛りつけるとレイはつまみ食いしながら持って行った
「…あれがあるから気づかなかったのね」
「はは…」
2人で顔を見合わせ笑いながら、鍋をもう一つ準備して豚汁を仕込み始めた
「あとはご飯にのせる肉とサラダだから…」
インベントリから牛肉と野菜を大量に取り出した
肉はナターシャさんが普段する串焼きの肉をそのまま使うことにする
「ナターシャさんいつも通りお肉焼いてもらっていい?大きさはいつも通りで厚みだけ1/4くらい」
「了解。とんでもない量になりそうね」
ナターシャさんはなれた手つきで肉をさばいていく
そう言えばレイも肉をさばくのは上手いのに料理スキルは低い
ということは肉をさばくのは料理ではなく解体としてとらえられてる?
そんなことを考えながら、キャベツの千切りとトマトの串切りを準備する
それとは別にレタストキュウリ、赤いパプリカを刻みツナと一緒に混ぜ合わせてから塩コショウとマヨネーズで味付ける
その工程をナターシャさんは切り終えた肉を焼きながら見ている
時々質問されるものの答えるとすぐに理解しているようだ
おそらく料理のセンスは持っているのだろう
少しよけておいたお出汁を使ってしょうゆベースのたれを作ると食欲をそそる香りが漂う
全体量の一部という意味では少しと言っても結構な量だけど
「滅茶苦茶いいにおいがしてんだけど?」
そう言いながらレイが覗きに来た
「出た!つまみ食い男。まだあげないわよ?」
ナターシャさんが釘をさす
「俺の特権だから却下。それにサラサはそんなこと言わない」
レイはあっさり返し、すでに焼けている肉を一切れ手に取ると私の手元にあるタレを見た
「それつけんの?」
私に向けられた目が『つけて』と言っている
なんなら後ろでブンブンと大きく振られている尻尾まで見える気がする
「しょうがないなぁ…」
苦笑しながら少しだけたれをかけるとレイはすぐに口に運んだ
「お、うまい。それだけでずいぶん変わんのな?」
嬉しそうに言われると怒ることも出来ない
むしろ喜んでしまう自分が恨めしい
「口に合うならよかった。サラダ出来てるから先に持ってって」
「了解」
取り皿と共に渡すとレイは満足げに頷いてサラダを持っていった
「レイに甘すぎじゃない?」
「だってしっぽ振った子犬みたいなんだもん…」
「確かに…」
何となく分かるがそれを認めたくないといった感じだろうか複雑そうな表情だ
「カルムがあんな調子で来たら私も負けると思う。思うけど…認めたくないのは何故かしら…」
大きなため息をつきながら言うナターシャさんに苦笑しながらその気持ちは分かるなぁと思ってしまった
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