10-3
食事の後片付けを終えると、さっきまでリビングから外を眺めていたレイが手招きしていた
「?」
「いいから来いよ」
そばに寄るとレイに背後から抱きしめられる
「どうかしたの?」
首をかしげる私の手を取ると何かを握らされる
「何?」
手を開くとラッピングされた小さなギフトがあった
レイからこういうことをされるのは初めてだ
「…開けてもいい?」
「ああ」
レイが頷くのを確認してラッピングを解く
出てきたのはタンザナイトとブルートパーズの小さな宝石が付いたネックレスだった
私の目とレイの目の色をした2つの宝石でシンプルだけどすごく洗練されたデザインだ
この世界で恋人同士の贈り物には自分の色を持つものがよく選ばれる
自分の髪や目の色のものを身に着けさせることで自分のものだと暗に主張するという
強い束縛、独占欲等と思ってみたりもするものの、それが当たり前のこの世界では普通に受け入れられる慣習らしい
ナターシャさんからその話を聞いたときは重そうだと、ただそう思っていた
でも目の前のそのネックレスを見た瞬間溢れ出したのは喜びだった
「レイこれ…」
思わずレイを見るとブルートパーズの目がまっすぐこっちを見ていた
「誕生日プレゼント」
そう言いながらケースから取り出したネックレスを着けてくれる
胸元にひんやりとした感触を感じ嬉しさがこみ上げる
「すごくきれい…ありがとう…!」
振り向いてレイに抱き付くと、同じように抱き返される
「そんなに喜ぶとは思わなかったよ」
「だって誕生日で何かを貰ったのなんて初めてだし…」
「初めて?前の世界で40年以上生きてたんだよな?結婚だって…」
レイは信じられないという目をしている
「モノの溢れる豊な世界は逆に心を蝕むのかもしれないね」
「え…?」
「満たされてるから、それがあって当たり前だから大切にする心をどこかに忘れてくるのかも」
「…」
「慌ただしくて忙しない毎日は心を蝕むには充分だから…私自身、まわりの人の気持ちなんて考えられてなかった気もするしね」
私はそう言って苦笑する
「だからレイの普段の些細な言葉にはすごく救われる…それにこの石…」
「この石、何?」
額や瞼に次々と口づけながらレイは先を促す
「…目の色…でしょ?」
そう言うとレイは優しい目で笑う
「よくできました」
囁くように言って口が塞がれる
頭に回された手に引き寄せられ少しずつ深くなる
「このままずっとここにいろ」
一度離れたと思ったら、耳元でささやかれて思わず身じろいだ
背筋がゾクリと泡立つのが分かる
「返事は?」
「…は…んっ…!」
問いながらも答える余裕は与えてくれない
耳たぶを食まれたと思うとそのまま抱き上げられ寝室まで運ばれる
降ろされたのはベッドに腰かけたレイの膝の上
そのままレイをまたいだ状態で膝立ちする高さまで体を持ち上げられる
「レイ…?」
戸惑っている私を楽しそうに見ながらレイの手は服の中に入ってくる
背中を撫でまわされた瞬間、背がのけ反ると胸元に口づけられる
「…んっ……やぁ……っ…」
直に触れられた肌は少しずつ熱を持ち、自ら零れる声に羞恥心が掻き立てられる
逃れようとした直後、腰を引き寄せられる
そのまま愛撫されると快楽に引きずり込まれていくのがわかった
「サラサ…」
レイが自分の望んだ反応を引き出すためにあらゆる手を尽くすせいで、私の体は自分でも信じられないほど敏感になっていく
おそらく私の体のことは自分よりもレイの方が詳しい
絶頂を迎える直前に止められる行為を繰り返されてしまえば私にはもうどうすることも出来ない
『答えるまで話さない』と言いながら何度も繰り返される質問に、変わらず答える余裕など与えられない
ようやく答えることを許されたのは体に力が入らなくなってからだった
レイに愛されることを知り、触れられる度に簡単に喜ぶ自分の体が少し恨めしい
そんな思いをあざ笑うかのように、今以上にレイの腕の中で疲れ果てて眠る毎日が訪れることを、その時の私は知る由もなかった
朝一で採取依頼を完了してしまった私は町をぶらぶらしていた
「サラサちゃんじゃない」
そう声をかけてきたのはナターシャさんだ
「ナターシャさんこんにちは。今日の依頼は大丈夫なんですか?」
「もう終わったわ。カルムとトータは迷宮に行ったけどね」
「アランさんは?」
「アランは家の用事があるっていうから一緒に戻ってきたの。町に戻るなり走って行ったわ」
そういえばアランさんの家族は仲がいいと聞いたことがある
「サラサちゃんが一人だなんて珍しいんじゃない?」
「最近依頼の後は町で待ち合わせしてるの。家まで結構遠いから」
「あぁ、そういうこと?」
納得したように頷く
「あれでまさかの過保護だしね…3時間の道のりを一人で歩かせるはずないか」
「まぁ…そういう感じです」
苦笑交じりに頷いた
「家でもべったりなんでしょ?」
「べったりって…確かに否定はできないですけど…」
「…私たちの前でもかなりのものだけど、あれでも大分抑えてるんでしょう?」
「…はい」
何となく居たたまれない…
「まぁ、私たちも人のこと言えないし、それが特別なことだとも思わないけど…」
ナターシャさんはそう言って辺りを見回した
同じように見回すといろんな場所で仲睦まじいカップルが見て取れる
キスしたり抱き合ったりなどは軽い方かもしれない
「依頼の後は昂ってたりもするからねー」
路地裏の薄暗い方に目を向けてナターシャさんが言う
その先では半裸の女性が見て取れる
それですらたいして珍しくもなく、私も既に見慣れた光景となっている
「でもまさかレイがねぇ…」
ニヤニヤ笑うナターシャさんを恨めしそうに見てしまう
「本当、サラサちゃんも大変ねぇ?抱きつぶされないように気をつけなさいよ」
「な…ナターシャさん?!」
慌てる私を見てナターシャさんが笑い出した
「キスマーク必死で隠してるの見てればイヤでもわかるわよ。それにサラサちゃん、最近すごくきれいになったもの。身も心も満たされてるなら当然よね」
本当にナターシャさんは容赦ない…
カルムさんとナターシャさんは人前だろうと関係なく、濃厚なラブシーンを披露しているだけに平気なのかもしれないけど、私は町中でこんな話をされると流石に恥ずかしすぎる
「ねぇ、良かったら一緒にお茶しない?」
このまま通りのど真ん中でからかわれ続けるよりはマシかと同意し、いつものカフェに入ることにした
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