9-4

「私が来たのはその時だったのね」

「ええ。動ける子にお医者さんを呼んでもらおうと思ってお願いしてたんだけど…」

「あんな状態では動けないわよね…」

部屋に駆け込んだ時、恐怖で泣いていた子供たちを思い出す


盗賊への恐怖

自分達を守ってくれる先生達が傷つき倒れていることへの恐怖

『トラウマにならなければいいけど…』

そう願わずにいられなかった


「今日、この依頼受けて正解だったわ」

「依頼?」

ハンスさんが首をかしげる

「あーそう言えば家具の修繕の手伝い…」

アルトさんが思い出したように言いながら私の方を見たので頷いて返す


「そのために来たんだけど声かけてもだれも出てこなかったから」

「そうだったのね…」

「いや、なんていうか…本当に助かった」

4人が揃って頭を下げてくる


「頭上げてくださいよ。大した事してないし」

「でも…本当ならお医者さんですごいお金がかかったのに…」

「お礼したくても金に余裕もないしな…」

「お礼何ていらないし、私は皆が無事で良かったと思う…この話はこれでおしまいでい」

「でもサラサは魔力切れになるまで…」

口々に言われるもののとても居心地が悪い


「実は私も孤児院のようなところで育ったんだよね。その時お世話になったお返しの代わりじゃダメ?」

「…わかった」

その後しばらく押し問答したものの、アルトさんが根負けしたように言う

「そうね、これ以上はよけい困らせちゃいそう」

ジェシーさんも言い何とか納得してもらえたようだ


「さて、体も楽になったし本来の依頼に戻りましょう。ジェシーさんベッド、ありがとう」

「もっと休んでてくれてもいいんだけど…」

「大丈夫。これでもたくましい方なので」

笑って言うと呆れたような顔をされた


家具の修繕はダレルさんとアルトさんから説明を聞いて手を付けていく

DIYをしてたおかげか慣れたものでかなり驚かれた

それでなくともクラフトマスターを持ってる私にとったら大した作業ではなかった


「そういえば子供たちは遊んだりしないの?」

部屋のあちこちで小さなグループで話をしている子供たちを見て尋ねる


「遊ぶって言ってもな…」

ダレルさんが言葉を濁す

「町で子供たちが遊んでるのを見かけるけど、俺たちはそう言う育ち方してないから遊び方も知らない」

そう補足したのはアルトさんだった

町の子の遊びも追いかけっこくらいしか見たことないけどとダレルさんが続けた


「…家具の修繕終わりよね?」

「え?あぁ…」

「じゃぁみんなで遊びましょう」

私は2人を促して子供たちと外に出た

町はずれだけあって広さだけは充分にある


「これだけ広くて大勢いたら鬼ごっこかしらね」

「「鬼ごっこ?」」

「あのね、鬼を決めて、鬼は目を閉じて10秒数えてから他の子たちを追いかけるの。で、捕まったらその子が鬼になる。そしたらまた目を閉じて10秒数えて追いかける」

私は2人に簡単に説明する


「へぇ…」

「面白そうだな?それに準備もいらない」

「そうでしょ?あ、でも誰が鬼かすぐにわかるようにした方がいいかな…」

「帽子とか?」

「それいいかも」

「こんだけいたら鬼も3人くらいいてもいいかもね」

人数的に1人で追いかけるのは厳しいものがあるし逃げる方がつまらない

複数鬼がいればその分スリルも高くなり楽しくなったことを思い出した


「じゃぁ3つ取ってくるよ」

アルトさんが建物の中に走っていくとダレルさんが子供たちに遊び方を説明し始めた


「早くしよ~」

子供たちが早く始めたくてウズウズしている

すでに鬼まで決まっているようだ


「アルトさんが戻ってきたら始められるよ」

「じゃぁ迎えに行ってくる!」

何人かが走っていった


「お前らちょっと落ち着けよ。で、鬼は決まってるのか?」

「決まってるよ」

答えるなり鬼の子たちがアルトさんの手から帽子を奪うように取っていく


「はじめていー?」

「ああ、いいぞ。10秒数えられるか?」

「「「うん」」」

鬼の3人が数え始めると、他の子たちが走り出した

遠くまで走っていく子

側の木陰に隠れる子

木に登ってしまう子

建物の中に入っていく子

みんな自分なりに考えて動いているようだ


「元気だなー」

アルトさんがぼそっと言う

「ただ追っかけっこしてるより楽しそうだな」

「ああ。鬼を増やせば体力づくりにもなりそうだ」

一人目の鬼を交わしたと思ったら次の鬼が来る

鬼を増やせば増やすほど逃げる者の人数が減りどちらも大変になるのだ


この鬼ごっこは実際、後に冒険者になる子たちの体力作りに一役かうことになる


子供たちが遊んでいる間に帰ると伝えると4人で見送ってくれた

「ありがとなサラサ」

「どういたしまして?」

おどけて返すと4人とも笑い出す


「よかったらまた顔出してくれ。あいつらも喜ぶから」

「そうさせてもらうね」

「サラサさん、約束ね?今度カフェに行くの」

「もちろん。楽しみにしてる」

仲良くなったジェシーさんにそう返して私は孤児院を後にした


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