8-3
「は?」
予想もしなかったのか気の抜けた声だった
確かにレイにとっては信じられないことだろう
私は自分のステータスから隠蔽を解除した
念のためレイの鑑定レベルに合わせて自分を包む魔力も弱める
「神様の加護で普通じゃないスキルがあるって伝えたでしょ?」
レイに拒絶されるかもしれない恐怖から声が震える
「私を鑑定してみて。全部見れるようにしたから…」
その言葉にレイは私を見た
その目には明らかに戸惑いが浮かんでいた
隠蔽しているはずのスキルを使えと言われたのだから当然だろう
それでもレイは鑑定した
「…何だよこれ…」
表示されたスキルに呆然としているのが分かる
元々超人レベルだったスキルに加え本から取得したスキルが大量にあるのだから当然だ
「最初に会った時に私もレイを鑑定したの。だから第3皇子だってこともそれを隠蔽してることも…」
「…鑑定も隠蔽も超人レベル…だから俺の鑑定にはかからなかったってことか。使えるスキルが見えてなかったし最初から不思議ではあったんだ」
レイは思い出すように言う
「ごめん…」
「いや。こういう事情なら仕方ないのは分かる…ただ…このスキルの量は一体?」
羅列されるスキルの量は明らかに異常である
見れば見るほどありえないという気持ちが働くのだろう
だからこそ私も簡単に話すことなどできなかったのだから…
でも今の私に話さないという選択肢はない
私は大きく深呼吸してからまっすぐレイを見た
「この世界の複製スキルは自分が受けたスキルしか覚えられないの」
どこから説明すべきかと悩みながら口にする
「え?けどお前は見ただけで覚えてたよな?詳しいことは知らないから不思議にも思わなかったけど…」
レイの言う通りこの世界で複製のスキルは殆ど知られていない
複製スキルを持つもの自体がこの世界で数名しかいないためだ
世界辞書でそれを知った上で私は誤魔化し続けてきた
「私のスキルは複製・上級になってるでしょ?それがチートスキルって言われる神の力が加わった特殊なスキルで…対象の魔法を認識できれば取得できるの」
「認識できれば?」
「例えば本にある挿絵からイメージ出来ればそれだけで取得できる」
レイは少し考え込んでいた
「じゃぁ魔法書をやたら読んでたのは…?」
「スキルを取得するため」
即答した私にレイはさらに問う
「…俺の傷を治したのは?」
その声には複製ではありえないだろうと確信めいたものが含まれていた
迷宮の前での治療が魔法書を読んだだけで間に合うものだとは到底思えないのだろう
その感覚的な判断は流石だなと思う
「それは創造のスキルのおかげ」
「創造?」
「一番化け物じみたスキルなんだけど…強く願ったりイメージしたスキルを取得できるスキル。存在しない場合は新たに作り出すことも出来る。」
「…は?」
開いた口が塞がらないという言葉そのままのレイに心の中で苦笑する
「あの時私はヒールとハイヒールしかスキルとしては持ってなかったの。だけど光魔法のスキルレベル自体が覚えたばかりで1桁だったからハイヒールを何回かけても血が止まらなかった…それでも血が止まることを願った」
「まさか…」
「スタピライズ(止血)。さすがに傷跡までは気が回らなかったけど…」
レイは一瞬止まり大きく息を吐きだした
「創造の発動時の魔力はそれぞれの魔法属性のスキルレベルじゃなく創造のスキルレベルに準じるみたいなの。だからあの一瞬で止血できたんだと思う」
「…」
レイは私のステータスを確認して黙り込む
「もしスタピライズを本で取得してたら、私にはレイを助けることができなかった。だからあれは本当にたまたまだったんだって…」
「サラサ…それでも俺がお前に助けられたのは事実だ。今こうして触れられるのもサラサのおかげだ」
その言葉にどこか救われた気がした
「止血の事は分かった。でも部屋で寝てたのは?」
「レイを家にって…」
「まさか…転移?」
その問いに頷く
「とんでもないスキルだな…だからあの時…」
何も答えなかったのかという言葉は声にはなっていなかった
「…どう話していいか分からなかった…転生したことが前提で、もしそれが受け入れられなければって…」
そう言いながらうつむいた
あふれ出してしまいそうな涙を必至でこらえる
「お前が何かを隠してるのは気づいてたけど…まさかこれだけのことを一人で抱え込んでたとはな…」
レイは自分の中で色んなことを整理するかのようにしばらく黙っていた
「この家出てからはどうしてたんだ?」
少しして再びレイは問いかける
「…迷宮に…」
「迷宮?一人で?」
驚きと共に発せられた言葉に頷く
「強くなりたくて…スキルがあってもスキルレベルが低いままだと何もできないって思い知ったから…」
レイは再び鑑定で私のスキルを見ていた
「主要属性が全部50以上か…一体どうやって?」
「5階層まで潜ってボスの間で寝て…起きたら一旦迷宮から出てまた5階層まで…それをずっと繰り返してレベルが上がったら10階層まで…」
「…迷宮にいたんじゃ見つからないはずだ…」
大きなため息とともに吐き出された言葉に申し訳なくなる
「ごめん」
「いや。でもよく耐えたな…」
いたわってくれているのが伝わってきて、私はまた泣きそうになっていた
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