8-4

それから暫くお互いの空白の時間の話をしていると魔道具が来客を告げた

「俺が行く」

そう言ってレイはすぐにエントランスに向かった


少しの間エントランスで話していたレイに呼ばれるままエントランスに出るとカルムさんがいた


「カルムさん…」

「元気そうだな?」

カルムさんは安心したように笑っていた


「ご心配おかけしました」

「気にすんな。でも俺はともかくレイが…」

「ちょ…カルム!」

レイはカルムさんの口を手でふさぎそれ以上言うなとくぎを刺す


「…ま、おさまるとこにおさまったならよかった」

「言い方!」

手をどけながら言ったカルムさんにレイがすかさず突っ込んでいた


「サラサがここにいるってことはちゃんとお互いに気持ち伝えたんだろ?」

肯定的に尋ねられてレイと顔を見合わせる


「その辺はまた一緒に飲んだ時に聞くとしよう。うまい酒になりそうだ」

「…その時はいっぱいごちそう作ります」

「ああ。楽しみにしてるよ」

カルムさんは笑いながら帰っていった



「ったくあいつは…」

呆れたように言うレイに思わず笑ってしまう


「レイ」

「ん?」

「またここに入れてくれてありがとう」

レイの目を見て伝える


この世界に来てから与えられていた居場所

一度手放してしまったのにレイは連れ戻してくれた


「当たり前だ」

手を引かれそのまま抱きしめられる

ドクンと心臓が脈打つのが分かった


「…覚悟しろ」

「え?」

何を覚悟すればいいのかわからない


「もうお前を離さない。自分の気持ちを押さえる気もない」

「…!」

心臓が早鐘のように打っているのが分かる

嬉しさと気恥ずかしさが入り混じっていた


「愛してる。これからは恋人として堂々とお前を守る」

耳元で発せられたのは極上の甘いささやきだった

レイが意図的にそうしているのが分かる


その時、選べる立場だとエマリアが言っていたのを思い出すと少し複雑な気持ちになった

さりげないエスコートも、昨夜抱かれたときも、レイの動きに迷いは一切なく慣れているのがわかる

まぎれもなくこれは嫉妬だ


「どうした?」

「…」

正直に気持ちを伝えるのは癪だと無言のまま首を横に振る


「…言うまで離さないけど?」

「え…?!」

突然レイに抱き上げられた

リビングに戻りソファに座るレイの膝の上におろされいきなり耳を食まれる


「ひゃ…っ」

身体がゾクッとして自分でも驚くような声が漏れた

逃れようにもレイの腕に包み込まれてかなわない


「ん…」

口づけと共に体に触れる手に敏感な場所を刺激されると昨夜何度も抱かれた体は簡単に反応してしまう


「言う…から…」

服の中に入り込んできた手に観念するしかないことをさとる


「言ったろ?離さないって」

その言葉にゴクリとのどが鳴る

逃げ道はない


「…レイが…」

「俺が?」

「慣れてるから…!」

半分やけで口にした言葉にレイの動きが止まった


「レイがモテることも女性を選べる立場だってことも知ってるけど…そんなこと気にしても仕方ないってわかってるけど…なんか悔しくて…」

言いながら半端ない恥ずかしさに襲われる

次の瞬間レイから吐き出されたのは大きなため息だった


「…っとに…」

「え…?」

苦し紛れに吐き出されたような言葉に戸惑う


「お前が嫉妬するような付き合いはしてきてないよ」

ため息交じりに言いながら自らの髪をワシャワシャトかき乱す


「確かに遊びだけの付き合いはしてきたけど、お前を保護してからは一度もない…最初からお前は特別だった」

「うそ…」

思わずそう返した

でもレイの耳が少し赤くなっているのに気づき自分の顔に熱が集まるのが分かる

返り討ちにあったような気分だ


「…こ…コーヒーもっかい淹れ…!」

いたたまれなくなりキッチンに逃げようとして失敗する

ソファにもたれたレイの腕の中にしっかりと抱きしめられていた


「レイ…?」

「お前がここにいるって実感させろ」

命令口調なのに強制力は感じない


でも私は答える代わりにレイの首に腕を回して首筋に顔を埋める

レイは私を確かめるように抱きしめていた



 ◇ ◇ ◇



「…めんなさ…」

「…」

自分の腕の中から聞こえてくる声にレイは目を覚ます


「おねが…止まっ…!」

サラサの目からは涙がこぼれている

迷宮を出た直後の夢を見ているのだとさとる


出て行った後見つけてから1か月以上が経っている

死にかけたあの日からはもうすぐ3か月だ

でもサラサは週に1度くらいその夢にうなされる


「サラサ…」

レイは涙をぬぐい強く抱きしめる

見つけるまでの間、迷宮の中で一人どんな思いで過ごしてたのだろうかと、そう思うだけで息が詰まる


「大丈夫だ。血はすぐに止まる。そばにいるからゆっくり休め…」

そう耳元でささやいくとうそのように表情が穏やかになった


最初のうちは毎日うなされ、毎回起こしていた

でもそのたびにサラサが自分を責めることに気付き起こすのをやめた

少しずつ頻度が減ってきていることを考えればこれで正解なのだろうとレイは勝手に納得していた


「お前さえ守れればいいと思ってたけど…それじゃダメなんだな」

自らのつぶやきに驚くほど納得できてしまう

おそらくこの先また自分の身を呈してサラサを助けても、サラサは喜ぶどころかこうして自分を責め続けるのだろう


「ずっとお前の側で守り続けるよ」

それはレイ自身に対する誓いのようでもあった



 ◇ ◇ ◇

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