第8話 孤独を乗り越えて

8-1

レイの家を出てから私は一人で迷宮にもぐっていた

レイと共に10階層までもぐったときはそれなりにサクサク進めていた

それがレイのおかげだと改めて実感する

それでも強くなりたかった


「っ!」

《ファイアボール》

怪我をしながらも何とか魔物を倒し続けようやく5階層にたどり着いた


「やっと最初のボスの部屋…」

ヒールで怪我を治してから扉を開ける


前回はレイが倒してくれたボスを倒すことができるのか…

倒せなかったらどうなってしまうのか

そう考えると背筋が寒くなる

それでも引き返すことは出来ない


「ボスの弱点は風…」

《ウィンドカッター》

放った魔法はあっけなくはじかれてしまった


「!」

一瞬で目の前まで迫った魔物に投げ飛ばされ体が壁にめり込んだ


「…っ!」

壁の一部が崩れる音と同時に一瞬息が詰まり声にならない声が漏れる

体中に激痛が走っていた


『グルッ…』

唸り声と共にゆったりとこっちに近づいてくる

逃げられないとわかった上での余裕

それがひしひしと伝わってくる

とっさに自身にヒールをかける


「…もう一回…」

1回でふさがる傷は知れていた

逆に言えば簡単に治せない傷をあっさりつけることのできる魔物


「…っ!」

必死で睨みつけながらヒールを繰り返し、なんとか体勢を立て直す


《ウィンドアロー》

《ウィンドアロー》

《トルネード》…

スキルは持っていてもまだまだスキルレベルは低い

単独ではなく合わせ技にして攻撃を繰り返すことで何とか打撃を与えることができた


《ウィンドカッター》

崩れた体勢を立て直そうとする魔物の前足に向かって魔法を放つ

支えを失った魔物はそのまま地面に倒れこんだ


《ウィンドカッター》

首元に向けて魔法を放つと何とか倒すことができた


「良かっ…た…」

ボス1匹にかなりの魔法を打ち続けたせいもあり、ホッとした瞬間意識を手放していた




翌朝目覚めて自分が迷宮の中で眠ってしまったことに気付く

「これ、ある意味正解なのかな?」

ボスを倒した後は部屋を出るまでという条件はあるもののどこよりも安全な場所かもしれないと思う

迷宮を出てしまえば魔物を警戒し続けなければならない

でもここでその必要はない


「睡眠だけは確保できそう」

呟いてから一度迷宮の外に出た

そしてすぐにまた迷宮に入る

1階層から5階層まで潜りボスを倒してそこで眠り、目覚めたらまた1階から進む

馬鹿の一つ覚えみたいに私はそれをひたすら繰り返した

それを半月続けるとスキルレベルがかなり上がっていた


「やっぱ使わなきゃ伸びないってことね」

それでも5階層まで簡単にクリアできるようになるとその後は階層を少しずつ増やしていく

流石に10階層まで一気に進めることは出来ないので5階層に戻りボスの部屋で休んだ後階層を進み、無理だと思ったら5階層に戻って外に出る

そして5階層まで進めて休む

無心でそれを繰り返していた


「…流石にヤバかったかも…」

何とか魔物を倒して階層を移る階段に逃げ込んだ

全身切り刻まれかなりの出血だった

「ゴホッ……」

咳と共に血が吐き出された

《ハイヒール》

散々使ってきたおかげでそのスキルレベルも上がっているようだ

一度だけで傷はふさがり全身が楽になる


「…レイはもっと苦しかったよね…」

骨の見えていた背中が未だに脳裏から消えない

チートと言われるスキルを貰いながら、なすすべもなかった自分を未だに許すことなどできないでいた


レイの家を出たから1か月半経つと主要属性のスキルレベルが50を超えた

それを確認して初めて私は迷宮にもぐるのをやめた

そのころには10階層まで簡単にクリアできるようになっていた

1人になった時に自分で決めたその目標レベル50をクリアしても得られたのは虚しさだけだった


迷宮から離れた小高い丘でしばらく町を眺める

抱え込んだ膝に顔をうずめレイと過ごした日々を思い返していた

たった半年と思えないほどにたくさんの思い出がある

その一コマ一コマにレイの笑顔があった

最後の一コマを除いては…


「レイ…」

思わず名前を呟いていた


二度と誰かを危険にさらさないためにも強くなろうと決めた

何度もくじけそうになりながらも目指したスキルレベルに到達できたのは目の前で血を流し続けるレイの姿が頭から消えないからだ

あんな思いを二度としたくない

その思いだけで迷宮に潜り続けた


「会いたいよレイ…」

自然と涙があふれてくる

側にいれるだけで幸せだったのだと嫌でも思い知る


誤魔化しようのない気持ちを自覚しながら、それでもレイの元に行くことは出来ない

その日からしばらく私はその場から動くことができなかった

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