6-4
火魔法が使えるようになったことで私の行動範囲はかなり広くなった
一人で出かけるときは家の周りの採取くらいしかできなかったのが、今では森の中の結構広い範囲を動き回っている
とは言っても体力はチートではなかったらしく歩いて30分程度の距離までしか行かないけど
この辺りは世界地図が非常に役に立つ
《PiPiPi》
適当にぶらついているとアラーム音が鳴った
「そろそろか…」
世界地図を確認するとレイの家を中心に描かれた円の際に自分がいるのが分かる
自分の望む機能を追加できることを知ったのは最近の事だ
夢中になって採取していた私は歩いて1時間以上の距離まで動いていたらしく帰るのに苦労した
その時に移動制限を付けられないかと考えていると、スマホで新着通知が届いたような電子音が響き新しい機能が追加されたことを知った
「まじチート…」
驚きと呆れを同時に感じたのを覚えている
「こんなところにいたのか…」
振り向くと馬に乗ったレイがいた
「レイ?どうかした?」
「腹減った」
レイはそう言いながら私に差し出した
「もうそんな時間だった?」
驚きながらもレイの手を掴むと一気に引き上げられる
そして自然な流れで一度抱きしめられる
少し前から始まったそれにレイは自覚があるのかないのか…
次の瞬間には何事もなかったかのように馬を走らせる
歩いて30分の距離をレイの馬ではわずかな時間で移動する
あっという間に家に着いて思うのは楽だな~といことだった
「ほら」
馬から降りるとき最初の頃は乗るときと同様手を差し出されるだけだった
でも今は両腕に抱き留めるように降ろされる
いやらしさ等なく、ごくスマートな仕草に内心ドキッとするのがばれないで欲しいと願う
家にいる間もわずかなスキンシップが明らかに増えていた
元々距離感が近くて面倒見のいいタイプではあったけど
「…気のせいじゃ…ないねぇ」
「は?」
振り向いたレイに声に出してしまっていたと気づき思わず口を塞いでしまった
「何が気のせいじゃないって?」
はっきり聞こえていたらしい
「な…んでもないよ」
笑ってごまかそうとしたけどこっちを見るレイの目はそれを許さないと言っていた
「…レイのスキンシップが増えた気がするなって…」
「え…?」
その戸惑った顔に私の方が驚いた
本当に無自覚だったのか?
「気のせいだろ。単にお前が心配なだけだ」
レイはそう言うと先に中に入ってしまった
「…ここからどうしろと?」
気まずさと共に取り残されてしまった私はどうしたものかと空を仰ぐ
「イヤじゃないのがむしろ問題か…」
誤解してはいけない
レイに対して特別な好意を持つ資格などないのだから
そう自分の中で繰り返し気持ちを落ち着けた
◇ ◇ ◇
レイはまっすぐ自分の部屋に向かった
ソファに身を預け天井を仰ぐ
「参った…」
呟きと共に自分の顔を両手で覆った
サラサに好意を持っている自覚はある
出来ることならこのまま自分のものにしてしまいたいと何度も思った
「でも…ダメだろ…」
自ら作った自分の中の枷がその気持ちを引き留める
それと同時にサラサの選択肢を奪う真似はできないと自分に言い聞かせる
「気を付けないとな…」
目の前に持ってきた自分の両手をじっと見る
その手は今この時でさえサラサの温もりを求めているのが分かる
少し遅れて中に入ってきたサラサの動く気配を感じながらなんとか自分の心を抑え込む
「この気持ちを知られるわけにはいかない」
暫く目を閉じたレイは何度も心の中でそう繰り返していた
◇ ◇ ◇
「レイ!ごはんできた」
階段下から呼んで少しするとレイは降りてきた
「待ちくたびれたぞ」
そう言いながらテーブルを覗き込む
「うまそ」
レイはさっきの事など何もなかったかのように食べ始めた
変に感じたのは気のせいだったのだろうか?
そう思うほど普通で、気づいたら私の中でも自然と忘れ去られていった
些細な変化に気付くのはいつもふとした瞬間だ
明確にならない小さな違和感
普段通りの日常が続いていると思い込んでいるからこそ気になり、そして明確じゃないだけにそのまま忘れ去っていく
「?」
まただと思った
でもその違和感の正体が分からず小さく首をかしげてそのままやり過ごす
「どうかしたのか?」
首をかしげたところを見られたようだ
「ん~なんかよくわかんない」
「は?」
「なんか変だなーって感じるんだけどその何かが何なのかわかんないんだよね」
「…俺はお前の言ってることが分かんねぇよ」
レイは苦笑しながらそう言った
ごもっともだと思いながら苦笑で返す
「そういやナターシャが驚いてたぞ」
「何に?」
「こないだまで魔法使えなかったとは思えないってさ」
「本当?嬉しいなぁ」
数日前、初めて弾丸とレイと一緒に依頼を受けた
ナターシャさんはその時の事を言っているのだろう
「カルムとトータは飯に喜んでたけどな」
「え?でもただのストック品だったよね?」
あの時は確か少量しか残っていないものを全て吐き出したはずだ
「…そろそろ自分が規格外だって自覚を持った方がいいんじゃないか?」
レイはそう言いながら私の頭をグリグリと撫でまわす
でもその手が一瞬強張り、そのまま離れていった
「?」
どうしたのだろうと首をかしげる
「何でもないよ。コーヒーくれ」
「あ、うん」
立ち上がりながら言ったレイに頷くと、レイはそのままリビングで本を読みだした
このふとした瞬間に感じる些細な違和感がきっかけで、レイを失いかける事になるなどこの時の私は思いもしなかった
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