6-3

翌日、私は早速レイと森に入っていた

獣道程度の整ってるとはお世辞にも言えない細い道をひたすら歩きたどり着いたのは少し開けた場所だ


「ねぇ、ひょっとしていつもここで鍛錬してる?」

所どころ抉れた地面がただの空き地でないことを物語っている

多少魔力が暴走しても周りには何の影響もなさそうだ

「ああ」

レイはあっさり頷きいくつかある大きな岩の1つにもたれかかった

その岩も所々砕けたり途中まで切り口が入っていたりする

一体どんな鍛錬をすればこうなるのかさっぱりわからない


「よく考えたら魔法の使い方って言ってもお前普段使ってるよな?」

レイが今さらながら初めて気づいたように口にした

「インベントリもエイジングも普通に使ってるし使えんじゃねぇの?」

もっともな質問ではある


「その辺は無意識に使ってるみたいで自分でもどうやってるかわかんないんだよね」

「はぁ?」

意味わからんとつぶやきながらレイは髪をクシャっと掻き上げた


レイがそう思うのも仕方がないとは思う

私自身意味がわからないから余計に…

元々いただいたスキルなのに使い方が分からないとか何なんだろう一体?


実際のところあれだけスキルを与えられているのに使えているのはインベントリと複製、鑑定、隠蔽と出来ちゃったエイジングのみだ

それ以外の時空魔法や闇魔法、火魔法、創造に加えて本から取得したスキルも使えない

包丁で指を切った時にヒールを使おうとして使えずかなり凹んだし、誰にも言えないことでさらに凹んだ

生活魔法は使えるけどライター程度の火が魔物討伐に使えるはずもない

宝の持ち腐れとか豚に真珠とか…そんな言葉がいっぱい浮かんできたて苛立ちまで覚えた

もちろんその苛立ちをぶつける先もなかったけど…


「まぁいいか。サラサに普通を求めるのが間違ってるな」

「え…っと?」

それはそれで解せない

かといって反論する材料も持ち合わせてはいないので聞き流すことにした


「自分の魔力は感じ取れるか?」

「どういうこと?」

「…そこからだな」

返答で理解したらしい


「まずは体の中の魔力を感じとることからだな」

「体の中の魔力?」

「ああ。魔力は体内に広がってる。自分の体の中に集中して暖かいものを探すんだ」

「暖かいもの…」

どうもぴんと来ない

前世で少しではあるもののヨガを嗜んでいたので瞑想はできる

でも瞑想は呼吸を感じるものだしちょっと違うよね?

そう思いながらもひとまず集中するためのツールとして瞑想を使うことにした


呼吸を辿りながら体内の血の流れをイメージする

30分ほどしたころだろうか

「あ…」

血と共に体の隅々まで広がるそれをとらえる

循環しているという感じとは少し違うようで、レイの言う通り暖かさを感じる

それが確かに体の隅々まで存在しているのが分かった

一度気付くとそれが当たり前のような感覚に変わっていく


「これが魔力?」

そうつぶやき目を開けるとレイが驚いたようにこっちを見ていた

「早すぎだろ」

ため息交じりに吐き出された言葉をどう受け止めるべきだろうか?

「まぁ、お前だしな…」

それで片付けるのはやめて欲しい


「魔力感じられたら次は意識して動かす。まずは手のひらに集めて手のひらの上に火種があるのをイメージするんだ」

レイはそう言いながら自分の手のひらの上に火種を作って見せた

「動かすってどうやって…?」

「人によって色々あるみたいだけど…俺の場合はそこに魔力を集めるようなイメージ」

「集める…」

「ああ。身体強化も同じ原理。足が鋼になったイメージとか?これこそ個人差が大きいだろうな」

イメージがカギとなるということか

それには妙に納得することができた

生活魔法もそうやって使うように教えられたのを思い出す


理解できるとあとは早かった

火種はすぐに作り出すことができたため後はその操り方を実践でのアドバイス付きで教えてもらった

レイは思いのほか良い先生らしい

おかげでその日の夕方には普通にフォレストドッグを仕留めることができるようになっていた


「ありがとねレイ」

「?」

「すごくわかりやすかった」

「あー」

レイは顔を反らしてしまった

少し耳元が赤い感じがするのは気のせいだろうか


「…帰って飯。今日狩ったフォレストドッグそれで何か作ってくれ」

「ふふ…まかせて」

自然と笑みがこぼれる

高級食材並みの肉が大量にあるにもかかわらずそうリクエストしてくれることが嬉しい

Fランクのこのお肉をいかにおいしく調理するか

レイと歩きながら早速考え始めていた


「お前ずっとメニュー考えてた?」

「え?何で?」

「話しかけても返事なし」

「嘘?」

驚いて辺りを見ると既に家の前だ


「いつの間に?」

唖然とする私を見てレイが笑っている

「今日の飯も期待できそうだ」

クツクツと楽しそうに笑って中に入っていく


「…自分でハードル上げた…かも…?」

自らの言葉に脱力しながらレイの後を追う


とりあえず種類を豊富にすることで色んなことをごまかしたおかげで、レイを喜ばせることには成功したようだ


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