6-2

「ランクアップしたって?」

ソロの依頼を終えたレイが帰ってくるなりそう言った


「何で知ってんの?」

「ギルドで聞いた」

ふと個人情報の保護はどこにいったのかと疑問に思う


「たまたま同じやつが対応したみたいだな。そう言えばって教えてくれた」

そう言いながらレイはいつものように肉をテーブルに出していく

相変わらずかなりの量だ


「ランクアップ祝いに何か買ってやろうか?」

「お金はあるからいいよ。欲しいものも特にないし…でもお願いはあるかな」

「?」

「魔法の使い方教えて欲しいなって」

「魔法?」

「火魔法のスキルは持ってるけど使ったことは無くて…」

本当は火魔法だけじゃないけどと思いつつ明かしてある火魔法だけを口にする


「別に構わねぇけど…何で突然?」

「ランクアップして依頼ボード見たんだけど…」

「あぁ、討伐がメインになってるからか?」

「そう」

「なるほどな。そういうことなら教えてやるよ。サラサなら商業ギルドだけで問題ない気もするけどこの辺でも少しは魔物が出るからな」

レイはそう言いながらうなづいている


「明日は休みだし早速やるか?」

「うん。ありがとう」

笑顔で返すとレイが一瞬固まっていた


「?」

「…なんでもない。それにしてもランクアップが思ったより早かったけどどんな依頼受けてたんだ?」

「どんなって…採取依頼ばっかりだよ?あとちょっとした雑用」

「何の採取?」

「ん~この辺の薬草。散歩したときなんかに少しずつ採取してるくらいだけど」

そう言いながら何種類かテーブルに並べてみる


「…お前これ…」

「Cランクだから依頼としては受けれなくてインベントリの肥やし」

「いや、こんなのこの辺にあったか?」

「けっこうあるけど…もっとランクの高いのも見つけたけどそのまま放置してる」

そう言った私をレイは信じられないという目で見てきた


「周り見ててもFランクの人たちは4~5個の依頼を同時に受けてるみたいだったから、私もEランクメインで3回~5回ずつくらいだよ?」

「…そりゃ上がんの早いわけだ」

「え?」

「Eランクの薬草、あんま見つかんねぇ」

レイはため息交じりに言う


「え?でもこの付近にいっぱいあるけど…」

「低ランクは大抵町から反対側、つまり草原の方に出ることが多い。森にある薬草が草原にあるわけがない」

「それは…確かにそうだね。でもそういう情報って出回らないの?」

「…この森はあまり人が入らない。迷宮にも山側から入るのが普通だ」

なるほどと思う

人が通らないなら見つかることもほとんどない

まして迷宮に行く人が低ランクの採取対象を気にすることもほとんどない

必然的にランクは低いのに入手しにくい薬草という位置づけができたわけだ


「採取や討伐のランクはこの辺だけじゃなく国の中で一律だ。環境の差は考慮されないからな」

「じゃぁFランクの人は大抵Fランクの採取と雑用だけになるってこと?」

「そうだな。FからEへのランクアップ条件は雑用10回、採取依頼50回、そのうち5回をEランクで受ける必要がある。採取回数自体は問題ないけど、Eランクの依頼達成に苦戦してみんな中々上がれない。討伐依頼はEランクに上がってからしか受けられないから生活も苦しい」

育ってないエリアを探すのだから無理もない


「この国、特に王都ではFランクからのランクアップが遅いのが問題になってる。そこでだサラサ」

「?」

「生息地に関する情報はギルドに提供してもいいか?」

「別にいいと思うけど…?」

なぜ尋ねられるのかが分からない


「討伐に関するもの、迷宮の攻略情報もだけど採取に関する情報もギルドは買い取ってる」

「えー?」

「それで冒険者が少しでも安全に依頼を達成できるようになるならっていうのと、情報があることで攻略するものが増えるってこと。そうなれば素材が市場に流れやすくなる」

「なるほど…それで経済が回ると…そういうことならいいよ」

ここにきてようやく納得して頷いた


「サンキュ。これで成人したてのやつらが少しは楽になる」

「…そんなにきついの?」

「そうだな…依頼中の寝起きする場所と食うもの、装備なんかも揃える必要がある」

レイは簡単に説明してくれる


「Fランクの採取依頼は1回分が200G、雑用もよくても300G、採取5回分できても1,000Gにしかならない。パーティー組んでるやつらはテント買ったりして宿代は節約してるけど、その分依頼料も人数割りになるからきついだろうな」

「そっか。採取っていっても1回分が10本だもんね」

「そういうこと。だから採取と雑用に分かれて依頼をこなしたりするんだ。あとは草原で倒した魔物の素材を売れれば少しは楽になる」

「討伐依頼は受けれないでしょう?」

「依頼は受けれないけど素材を売るのは自由だ。俺らみたいに余裕があれば依頼を受けるけどな。同じ素材でも売ったらただの素材だけど、依頼を受ければランクアップの対象になるから」

「それナターシャさんが言ってた。だから家に迷宮品が溜まってるって」

「ああ。俺もだけど弾丸も依頼の後に迷宮に寄ることが多いからな」

迷宮をついでのように言うあたりレイや弾丸のレベルの高さを表してるんだろうと思う

ましてレイはソロで活動しているから余計だ


「Eからのランクアップには魔物の討伐数も関係する」

「討伐数?」

「ああ。依頼を受けようとそうでなかろうと関係なく、自動でカウントされてカードに記録される」

どんな原理だろうと思うもののカードに血液を使った当たり理解できない何かが存在するのだろう


「ランクごとの累計討伐数がランクアップ基準に入ってる。だから素材として売ったとしても全く意味がないわけじゃない」

「なるほどね。依頼として受けたほうが効率はいいけど背に腹は代えられない?」

「そ。討伐すりゃレベルアップのポイントも稼げるからな。素材売った金で少しでもいい装備や武器を揃えて、少しでもランクの高い魔物倒しての繰り返しだな」

「…がんばろ」

少し考えてそう言うとレイが笑い出す


「お前の気の済むようにすればいい。金はある。魔物が倒せれば身を守ることも出来る。そうなれば自立する時の不安も抑えられるんだろ?」

「…!」

真意を見抜かれたことに思わずレイを見る

少し寂しそうな目をしたレイが私を見ていた


「そうなってからゆっくり考えればいい。自立できる力を持ったのを確信した上でここにいるのもいいし…ここを出て一人で生きていくとしてもちゃんと応援してやるから」

レイはそう言いながら私の頭をなでると2階に上がっていった

そんなレイを見送りながら胸が締め付けられた

私はそれが罪悪感からのものだと思い込もうとしていた

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る