4-4

「よし、お待たせ。行きましょう」

準備を終えたナターシャさんは昨日と違い女性らしい服装だった


「綺麗…」

「あら、ありがと」

思わず零したつぶやきに満面の笑みが返ってくる

ナターシャさんは感情をストレートに表に出す人だ


「サラサちゃんも可愛いわよ?」

「そんなこと…」

「あるわよ?レイもほっとけないみたいだし?」

「え?」

思いもしない言葉に固まってしまう


「ずっと家にいれば安心できるけどって言ってる。サラサちゃんそのうち出て行こうと思ってるんでしょう?」

「まぁ…流石に保護してもらってずっとって言うのは申し訳なくて」

「レイ相手にそんなの気にしなくていいのに」

ナターシャさんは笑いながらそう言った


「レイはあー見えて寂しがり屋だからね。そのくせ他人に対する警戒心が半端ない」

「ん?」

寂しがり屋は何となくわかる

でも警戒心が高いとしたら、私を保護して面倒見るものだろうか?


「不思議でしょう?」

私が引っかかった理由に気付いたらしくナターシャさんは続ける

「レイが保護したのはサラサちゃんが初めてじゃないのよ」

「それは聞きました」

「でしょう?でも、自分が面倒見るのはサラサちゃんが初めてよ」

「そう…なんですか?」

「今までならそのまま憲兵に後を任せてたからね。だから私たちもビックリしたの」

ナターシャさんは頷いてからそう言って微笑んだ


「あ、ここがおすすめのカフェよ」

商会の向かいでそう言うと中に入っていく

「ナターシャいらっしゃい」

「おはよ。私はいつもの。この子は後で頼むわ」

「了解」

店員にそう言って勝手知ったる感じで窓際の席に座る


「よく来るんですか?」

「そうねぇ…3日に1回くらい?」

「…かなりですね」

そう言うと顔を見合わせ笑いあう


「メニューはこれね」

「ありがとうございます」

受け取ってメニューを見るとかなり豊富な品揃えだ

ナターシャさんの注文したものが出てきたタイミングでコーヒーを頼んだ


「ねぇ、サラサちゃんはレイの事どう思ってるの?」

「え?どうって…?」

「レイと住み始めてもうすぐ1か月くらいでしょう?」

「はい…」

「レイはあの通り顔もいいし冒険者ランクも高くて稼ぎもいいわけじゃない?それで一人者ってことで超優良物件なわけよ」

超優良物件…その表現に覚えがある

別れた旦那が元々そう呼ばれる類の人物だった


「そんなレイと一緒に住んでてサラサちゃん的にはどうなのかと思って」

そう言うナターシャさんはかなり楽しそうに笑っている

いわゆるコイバナが好きなタイプのようだ


「…頼りになる人だなーとは思います」

それは正直な気持ちだ

私の不安に寄り添いながら助けてくれる

だからこそ居心地がいいのだから


「それだけ?惹かれたりとか…」

「そんなの恐れ多い。家においてもらってる時点で迷惑ばっかりかけてるのに…」

私はそう言いながら苦笑する

隠し事が多いだけに恋愛云々どころではない

そもそもそんな資格はないだろうとも思う


「すんごくつまんないんだけど」

「つまんないって…私たちで楽しもうとしないでください」

思わず言い返す

「そう言うつもりじゃないんだけど…」

ナターシャさんは納得いかないらしくジト目で私を見てくる


「そもそもですよ?ナターシャさんの言う超優良物件が、素性の分からない小娘を本気で相手にするわけないじゃないですか」

「え~」

「え~じゃないです。それより、ナターシャさんとカルムさんって長いんですか?」

納得しそうにないので話題を逸らすことにした


「そうねぇ…それなりに長いかな。15で冒険者登録して、最初は別のメンバーでパーティー組んでたのよ?」

「別の?」

「そ。今と逆で女3人、男1人。みんな同じ年で昔馴染み」

簡単に逸らした話題に乗ってきたナターシャさんは懐かしそうに言う

この世界では15歳で成人すると何らかの形で職を得るものの、教育制度が整っていないため7割以上が冒険者になるようだ


「2年くらいはそれなりに上手くやってたんだけどね、私を除く2人がその男を好きになっちゃったわけ」

「うわぁ…」

何となくその先は言われなくても想像できる気がした


「今サラサちゃんが想像したとおりだと思うわ。どんどん険悪になっちゃってそのままパーティーも解散」

「…じゃぁその後に弾丸に?」

「ううん。その後はしばらく一人でチマチマした依頼を受けてたの。それが半年くらい続いたころかな?森の中で弾丸と会ったのよね」

「森で?」

「そ。あの時は弾丸もカルムとアランとトータの3人でね、カルムがケガして立ち往生してたところに出くわしたの。私はヒールが使えたからその場で治療して…それから半年くらいは時々一緒に依頼受けたりしてたのよね」

「パーティーには入らなかったんですか?」

「何となく怖かったのよ。最初のパーティーの事があったから」

「あぁ…」

男女間のもめごとが原因だけに同じことが起こる可能性があるということだ


「でもね、依頼受けたりしてるうちにカルムとかなり気が合ってプライベートで一緒にいることが増えてね。結局プロポーズとパーティーの勧誘が同時だったわけ」

「同時?」

「驚くわよね。でもそれが私としては嬉しくて受けちゃった感じかな。トータとアランもそれで受け入れてくれてたしそのおかげで今があるって感じかな?」

そう言ったナターシャさんは穏やかな笑みを浮かべていた


「ちなみに、最初のパーティーメンバーの1人が彼女よ」

カフェに入ってきたときに話していた店員さんを指して言う

「本当に?」

驚く私にナターシャさんは破顔する


「いいわぁその反応。ちなみに彼女の旦那も最初のパーティーメンバーよ」

「じゃぁ彼女が勝った?」

「最終的にはそうなるわね」

「最終的には?」

「ええ。最初はもう一人の子とくっついたの。でも3か月くらいで別の男に乗り換えたらしくてね、その時に相談受けてしばらくしてから付き合い始めたみたい」

「それはまた…」

ベタな展開としか言いようがない

結局その後もナターシャさんを取り巻く人たちの恋愛談で時間が過ぎていった


この日を境に私とナターシャさんはカフェ友達としてよくカフェに足を運ぶようになり、そのつながりで知り合いが少しずつ増えていくことになる

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