4-3

翌日目を覚ますとまぶしい光に包まれていた

「すごくいい天気」

窓を開けると真っ青な空が広がっている


「空とか見上げてる分には前世と変わらないなぁ…」

そんなことを思いながら暫くぼーっと空を眺めていた

でも前世でこんなにのんびりと空を眺める時間を持っていただろうか?

少なくとも記憶にある限りなかったように思う

せわしない日常に追われるようにただ目の前の事を片付けるだけの日々

誰かを思いやるようなゆとりも、自分を見つめなおすような時間もほとんどなかったかもしれない


「なんかいいな」

不安は遠慮したいくらい沢山あるもののゆとりのある時間がどこか心地いい

それが今の私を取り巻く日常だ


階下に降りるとすぐに朝食の準備に取り掛かる

まずはと、リビングの窓を開けると気持ちのいい風が吹き込んできた

「森の香りはやっぱいいわ」

胸いっぱいに吸い込むと気持ちいい

地球と同じようにマイナスイオン効果はあるのかな?

前世で森の中を堪能したことは無いのにそんなことを思ってしまう


「いい匂い」

そう言って玄関から入ってきたのは汗だくのレイだった

レイは毎朝のトレーニングを欠かさない


「お帰り。もうできるよ」

「マジ?助かる。さっきから腹なっててさ…」

レイは生活魔法で汗を流してサッパリするとコーヒーを手に席に着く

それを見ながら本当に魔法って便利…と感心してしまう


「ん?」

視線を感じたらしく首を傾げられてしまった

「何でもない。すぐ仕上げるね」

誤魔化すように言いながら朝食を仕上げてしまう


相変わらず大量に作るもののそれが残ったことはない

私的には朝から肉を大量に食べること自体が無理だけど…


「今日は米?」

「そうだよ。パンのがよかった?」

「いや。どっちでもいい。米ならあれ出してくれよ」

「あれ?」

「…小魚のやつ」

レイは名前が思い出せなかったようだ


「小魚…あぁ、しらす?」

「それ。あと卵」

「了解」

私はインベントリから生卵としらす、醤油を取り出した

レイは卵かけご飯にしらすを載せるのが気に入ったらしい

お米を炊いたときは結構な頻度でその食べ方をする


「やっぱうまいな」

流し込むように口にほおばりながら食べている

どう見ても味わっているようには見えないのに味が変わったらちゃんと気づくから不思議だ


私も軽く朝食を済ませてテーブルを片付ける

レイはいつものように本を読んでいた

暇さえあればこうして本を読む当たり本当に読書が好きなのだろう


「レイ、準備できたよ」

「ん。ちょっと待って」

珍しく切り上げないレイに思わず背後から本を覗き込む


「…この国の収支報告?」

派遣で経理事務をしていた時に見慣れた記載に思わず尋ねてしまう


「ああ。よくわかったな」

そんなものも入手できるのかと思いながら訪ねると背後から掛けた声に少し驚きながらも頷いた

レイはそこから数ページめくりきりのいいところでようやく本を閉じた


「よし、行くか」

そう言って立ち上がると外に出て馬を出してくる

いつものように引き上げられるとすぐに走り出した


「最近スピード上がってない?」

「ああ、お前が慣れたみたいだからな」

あっさり返される

初めて乗ったときよりも町までの時間がかなり短い

それだけスピードが出ていても安心して乗っていられるのが不思議でならない


「行くぞ」

町に着くなり商業ギルドに向かい、レイは以前のように会長を呼びだした


「また登録」

「ありがとうございます。今日はどのようなものを?」

会長は満面の笑みで迎えてくれる

レイがインベントリからクッションを取り出した

そしてさらに別のものを取り出す


「え、これも?」

テーブルに置かれたのはカーテンタッセルだった


「これも便利だからな」

レイはそう言いながら使い方を説明する

クッションもカーテンタッセルも会長は大喜びで登録してくれた


「カーテンはあるのにこれは無かったんだ…」

私の中では完全にセット商品と化しているだけに驚きの方が大きい


「本当に遊び心がないんだね…」

「遊び心?」

「…ちょっとしたひと手間…とか?カーテン見る限り必要最低限しかない?」

「あ~確かにサラサが作るの見てるとそんな感じはするな。何でなかったのか不思議なものの方が多い」

考えながら言うレイに思わず笑ってしまう


会長が裏で手続きを終えて出てくるとしばらく世間話をしてからギルドを後にした


「次はカルムの家だな」

外に出るなり伸びをしながらレイは歩き出す


「近く?」

「ああ。ここから冒険者ギルドに行くより近い」

「そうなんだ」

レイと並んで歩きながらあたりをキョロキョロ見てしまう


「おい」

突然腕を引っ張られる


「キョロキョロすんのはいいけど気をつけろ」

「ごめん。ありがと」

レイに引っ張られていなかったら人とぶつかっていたようだ


「ここだ」

数軒固まっている建物の一つの前で立ち止まる


「カルム!」

レイが中に向かって呼ぶとすぐに扉があいた


「早かったな?登録はもう終わったのか?」

「ああ。済ませてきた。ナターシャは?」

「まだちょっとかかるな。上がれよ」

カルムさんに促されて2人なかに入る


「サラサちゃん、ちょっと待ってね」

「はーい」

すぐそばをナターシャさんは行ったり来たりしていた


「ナターシャ、俺ら先出るからな」

「分かった。商会の前のカフェに行くから終わったら来て」

「おー」

2人のやり取りが終わるとカルムさんとレイは出て行った


「ごめんね~」

「気にしないでください」

そう答えて家の中を眺める

レイの家と同じで洋風の作りでやはり広々としている

部屋の隅に迷宮で入手したのだろうモノが固めておいてあった


「それ、見栄え悪いでしょ?」

「え?」

「レイみたいにインベントリがあればいいんだけどね。依頼出た時のために置いてあるんだけど結構場所取るのよ」

ナターシャさんは私が見ていた迷宮品の事を言っているようだ


「迷宮品ってその日に売ったりしないんですか?」

「ん~ランクの低いうちはすぐに売ってたかな。でも今は皆かなり余裕があるからこの状態」

「そのまま売るより依頼の方が売値が高いってこと?」

「それもあるけど依頼はランクアップに直結するからね。まぁカルムもレイもランクアップには興味がないからあんまり関係ないんだけど、トータとアランはBだから上げたいみたい」

半ば呆れたように言うのを見て、肉の事でレイとしたやり取りを思い出してしまった

もしレイがソロではなく弾丸のパーティーに入っていたら、ここに積まれている迷宮品は間違いなくレイのインベントリに格納されるんだろうなぁ…

苦笑しながらそんなことを思っていた

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る