4-2

レイが話していたパーティーを連れてきたのはそれから1週間ほどした頃だった


「こいつらがパーティ―弾丸のメンバー。俺も時々一緒に依頼を受けてる」

そう言ったレイの後から3人の男性と1人の女性が入ってきた


「リーダーのカルムとその嫁のナターシャ、2人ともお前の5つ上。その1つ下のトータに俺の1つ上のアランだ」

「初めまして。サラサです」

私は4人に向かってお辞儀する


「初めまして、ではないけどな」

「え?」

記憶をたどるとその顔には確かに見覚えがあった

「…あ、ギルドに登録した時に…」

登録した時に一緒に依頼を受けようと誘ってきた相手だ

確かあの時レイはしばらく話をしていたはず…


「そ。俺ら時々お邪魔してるんだ。これからよろしくな」

カルムさんがそう言って笑った


「よろしくお願いします」

「そんなかしこまらなくていいぞ。こいつら飲み散らかしに来てるだけだから」

レイはそう言いながら皆を中に促した


「あれ?レイ部屋が…」

ナターシャさんが呆然としている

私がお世話になり始めたころはカーテンやカーペット、クッションなどもなく部屋自体がかなり散らかっていたのを思い出す


「サラサが来てから快適になった。もともと不便ではなかったはずなんだけどな」

人間上から下へは戻れないということだろう


「この枕みたいの何?私も欲しいんだけど!」

ナターシャさんがソファに座りクッションを抱きしめていた

「それはクッションと言うらしい。サラサが作ったんだ」

「クッション?サラサちゃんの手作り?」

「…落ち着けナターシャ」

前のめりになるナターシャさんをカルムさんが押さえていた

皆が苦笑しているのを見る限りこれが平常運転のようだ


「だってカルムこれ本当にいいわよ?」

ナターシャさんはカルムさんにクッションを渡す

「あぁ確かに楽だな?」

背中にあてがうとカルムさんはご機嫌だった


「…サラサ、明日商業ギルド行くぞ」

「え?」

「それ登録しに行く」

レイはクッションを指して言う

この流れは竹細工のオーナメントと同じだ

私自身が考えたものでないだけに心苦しいのは気のせいか?


「それは是非してちょうだい。すぐにでも買いに行くわ」

「あ、俺も~」

「アラン、メリッサ通して確保しといてくれ」

皆が口々に言うのを見て断わるのは無理そうだと悟る


「メリッサさんって?」

「アランのカノジョ」

トータさんが答えながら何かを取り出した


「それより、今日の酒とつまみはこれだ」

そう言いながらソファーテーブルに並んだのは大量のお酒とサンドイッチに干し肉だった


「あれ?」

並んだサンドイッチを見て思わずレイを見る

「あ…」

レイは髪をかきあげながら目を反らした


「レイ?」

「…黙ってたのは悪いな。でも昼飯代わりに食いたいからギルドの近くにあるパン屋に持ち込んだ」

「言ってくれたらいくらでも作るのに」

「いや、それは流石に…」

「レイにはお世話になってるから役に立てる方が嬉しいよ?」

「…じゃぁ今度頼む」

「喜んで」

私は苦笑しながらうなづいた


「何々?」

話が見えずナターシャさんが入り込んでくる


「あ~そのサンドイッチ、サラサの案」

「え?これも?」

「まじか…」

4人が私の方を見ていた


「えっと…お昼ご飯に作ったときにレイが気に入ったのは知ってたけど…」

「え?じゃぁ登録とかしてない?レシピは?」

食いつくように言うナターシャさんに首を横に振る


「レイそれは…ダメなんじゃない?」

「あ、いいんです」

「でも!」

「ほら、それは見ただけで作り方とか分かっちゃうし…実際そんな大したものでもないし」

正直これで登録するほうが気が重い


「サラサちゃんがいいならもう言わないけど…」

そう言いつつもナターシャさんは納得いかない顔をしている


「まぁでもさ、そのおかげで俺らもこれにありつけるんだしさ」

トータさんがサンドイッチを口にほおばりながら言う


「確かに今までなかったのが不思議なくらい作り方もわかるもんな…それに携帯食のバリエーションが増えるのはありがたい」

「値段も安いし人気あるんだろ?」

「ああ。稼ぎの少ない冒険者は特に重宝してるみたいだな。飯に金かけれないだろうし」

「あいつら狩れる魔物も大した肉取れねぇもんなぁ…まぁ、誰もが通る道だけどさ」

皆は自分たちが冒険者になりたての頃を思い返しているようだ

懐かしい話題に盛り上がっているのをちょっとうらやましいと感じた


「そろそろお開きね」

散々飲んだ後ナターシャさんがそう切り出した


「そうだな酒も切れたし帰るか」

「お前ら明日は町に来るんだろ?ギルドの登録で」

「ああ、そのつもりだけど?」

「前に頼んでた武器がそろそろ出来上がる」

「マジ?」

カルムさんの言葉にレイが嬉しそうな顔をする


「レイが武器見るならサラサちゃん、明日私とお茶しましょう」

私の方はナターシャさんに突然誘われる

困惑してレイを見ると頷いてくれた


「あ、じゃぁお願いします」

「もちろんよ。レイ、登録終わったらサラサちゃんを家に連れてきて」

「了解」

何となく次の日の予定が決まり解散となった


「悪い奴らじゃなかっただろ?」

馬で帰る4人を見送った後レイが尋ねてきた

カルムさんの実力を踏まえて弾丸には2頭の馬が許されているようで、2人ずつ分かれて乗って行った


「うん。楽しい人たちだね」

それは正直な気持ちだ


「今日みたいな感じで時々溜まるんだ。あとは年に1回弾丸が1か月の休息を取るときだな」

「1か月も?」

「ああ。あいつらの変なこだわりだな。その1か月の間ここに泊まる」

「え?」

「1階の空いてる3部屋はあいつらの部屋なんだ」

そう言われて本部屋を含めて1階に4つの部屋があると言っていたのを思い出す


「それ以外の時でも酔いつぶれた時は泊っていってるんだけどな。だから客間と言ってもあいつら専用の部屋になってるって言った方が正しい。勝手に荷物も持ち込んでるから」

あっさりと言っているがこれはこの世界では普通の事なのだろうか?

よくわからないもののそれだけ気心が知れた関係なのだろうと無理矢理自分を納得させた

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