第3話 町へ
3-1
色々考えてしまい眠れないまま朝を迎えた
空が明るくなるのを待って朝食を用意することにした
酒を多めに使用してお澄ましもどきを作るとネギと白身の魚を入れた
オーク肉を薄く切り、ベーコン代わりにして目玉焼きを作り始めたときレイが起きてきた
「おはよ」
「ああ…眠れなかったか?」
「…」
「…まぁ仕方ねぇけど、無理はするなよ」
レイはそう言いながら調理中の料理を覗き込む
「この薄いのは?」
「オーク肉だよ」
「肉って塊で食うもんじゃねぇの?」
「え…」
思わず言葉を失う
「普通串焼きかステーキだろ?あーでも携帯用の干し肉は薄いのか?」
「…」
高級肉であれば確かにステーキでも充分美味しいとは思うものの納得がいかない
「…食べてみる?」
丁度ころ合いのオーク肉を箸でつかむとレイに差し出す
するとレイはそのままオーク肉を口に入れた
!?
箸ごともっていくかと思っていた私は驚くしかない
「お、うまい。それもっと大量に焼いてくれ。昨日の肉と同じくらい」
レイは特に何も意識した様子もなくそう言うと椅子に座って私の方を見ていた
焦る気持ちを何とか抑えてオーク肉を薄切りを大量に調理していく
見た目年齢は17歳でも中身はアラフォーの記憶持ちだ
前世の自分の半分ほどしか生きていないイケメンに振り回されている事実に戸惑う
でもふと気づく
元旦那がイケメンの部類でその彼からDVを受けていた私はイケメンを嫌悪していた
それこそレイのような男性とは年齢にかかわらず話すことすら嫌だった
どうやら記憶はあるものの今の感情などとはイコールではないらしい
言葉遣いも勝手に年相応のになっている
そう考えると17歳の少女が20歳のイケメン男性に振り回されてもおかしくはないのか?
そう無理矢理結論づけて今あったことは記憶の片隅に追いやってしまう
「これくらいで足りる?」
出来た料理をテーブルに並べながらそう訪ねるものの、流石に作りすぎたかと心配になった
オーク肉の薄切は昨日の肉の小山より少し大きくなっている
「ああ」
心配は無駄だったらしく、レイは頷くなり食べ始めた
「いただきます」
「それ…」
「え?」
「手―合わせていただきますって何?」
問われて初めて考える
地球にいたときから習慣になっていた行為でしかないものがここでは不思議な行為のようだ
確か『食事に携わってくれた人への感謝』と『食材への感謝』だっただろうか
あまりにも当たり前に使っていた言葉だけに改めて問われると不思議な感覚に陥る
「…なんとなく?」
前世の説明するわけにもいかず適当にごまかすことにした
「それも無意識ってことか。変わってんな」
特にそれ以上何も言われなかったため大きな問題ではないのだろう
「そーいや身分証明書はあるか?」
その問いにインベントリを確認してから首を横に振る
「じゃぁギルドで登録しといたほうがいいな。ギルドカードは身分証にもなる」
レイはいろいろと考えてくれているようだ
「とりあえずギルド行ってから主要な店は教えとく。食い終わって一息ついたら行けるか?」
「うん」
話してる間にもレイは山盛りのオーク肉を平らげていく
「…その細い体のどこに…?」
「?」
何のことだと言わんばかりにキョトンとした表情だ
「やせの大食いってなんかずるい」
「サラサも充分細いだろ?むしろ痩せすぎだ」
「そんなことないし…」
「いや、マジで運んで来た時びっくりしたから」
そう言われて昨日の事を思い出す
自分の顔に熱が集まるのがイヤでもわかる
自分から始めたとはいえ体重の話は避けるべきだった
ひそかに反省し、その後は無難な話題に切り替えて朝食を終えた
「レイ準備できたよ」
「ああ」
リビングで本を読んでいるレイに声をかけると本を置いて立ち上がる
本を読んでいる横顔があまりにも綺麗で少しの間固まってしまったのは内緒だ
「町って近い?」
「近くはないな。歩いたら3時間くらいか」
「…」
そんなに歩けるだろうかと一人考え込んでしまう
「心配すんな。馬で行く」
「馬?私乗ったことないけど」
「複製あんだろ」
あっさり言われて納得する
おそらく町に着いた頃には騎乗スキルを取得しているだろう
「まぁでも、当分馬に乗る必要があれば俺が乗せる」
「え?」
「移動用の馬は貴重なんだよ。冒険者の場合はギルドの許可が必要でその許可も中々おりない」
「そうなんだ?」
「ああ。少なくとも登録したての冒険者に許可が出ることはまずない」
それはつまり当分一人で乗ることは出来ないということだろう
「ほら手」
「?」
言われるまま手を出すと馬の上に引き上げられる
「え?!」
「なんだよ」
私の戸惑った声にレイの方が驚いている
「これはちょっと恥ずかしい…」
レイの前に載せられ右腕で私の背が支えられていた
「くだんね―こと言ってんじゃねぇよ。出すぞ」
「ひゃっ!」
突然走り出した反動でレイの服を掴む
「そのままつかまってろ」
頭上から届く声に鼓動が早くなるのが分かる
不思議なもので馬上に慣れてくると景色を楽しむ余裕が出てきた
それと同時に恥ずかしいという気持ちがどこかに飛んでいったようだ
気づけば景色に引き込まれ、馬上の風を切る感覚に気分が高揚していた
「レイすごい綺麗!」
「楽しむ余裕があるのはいいけどちょっと落ち着け」
それなりにスピードが出ている馬上ではしゃぐ私をいつの間にかレイが抱き寄せるようにして支えていた
「え?あ…ごめんなさ…」
抱き寄せられていることに気付きどうしていいかわからない
「森抜けるからスピード上げる。そのままおとなしくしてろ」
そう言うなり文字通りスピードが上がった
「ちょっと待っ…」
驚いたもののすぐにスピードに慣れてくる
「景色がどんどん流れていく…馬で走るのって気持ちいいんだね!」
「…お前の順応性すげーな」
「?」
「このスピードに簡単に慣れるとはな」
レイはそう言いながら笑い出す
「…それってちょっとひどくない?」
「気持ちいいんだろ?」
「…うん」
何が悪いという感じで言われどこか納得いかないながらも頷いてしまう
お世辞抜きで気持ちがよかったのだから仕方がないのだが
そう言えばと思い出す
前世で乗馬体験に行きたいと思っていたことを
でも、資料を集めて検討していた時に旦那に見つかって全て無駄になったのよね…
そして同時に思い出す
その日の晩、虫の居所の悪かった旦那に『出来損ないの嫁が遊ぶことなど二度と考えるな』と暴力を振るわれ内臓損傷で入院したことを
あれがきっかけでやっと離婚できたんだよね…
ずっと離婚に反対されてたものの警察が介入した時点で接近禁止令まで出してもらえたのは救いだった
漠然とそんな記憶をたどっていると大きな壁が見えてきた
新しい街にワクワクしてる自分に驚いた
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