3-2

「レイがこの時間から来るなんて珍しいな?」

門番だろう憲兵にからかわれながら私をおろしてくれる


「たまにはな。馬頼む」

「了解。で、そのかわいこちゃんは?」

憲兵は私の事をジロジロと見てくる

仕方ないのだろうけど…不愉快だ


「そんな顔すんな」

かなり表情に出ていたらしくレイに窘められる


「田舎から出てきたらしい。事故に巻き込まれてたのを保護した」

「そりゃ災難だったな。もう大丈夫なのか?」

憲兵が心配そうに声をかけてくる


「おかげさまで」

何とか表情を戻して当たり障りないよう答えを返す


「当分の間俺が面倒みる。こいつが一人の時になんかあったら俺の名前出しといて」

「お前が?それはまた珍しい…」

「悪いかよ?」

「別に?まぁでもお前がついてるならかわいこちゃんも安心だな」

憲兵の言葉に首をかしげる


「こいつ、Bランクだけど実力はS以上ってことみんな知ってっから」

「S?」

「そ。ギルド側は上にあげたいのにこいつが拒んでるだけ」

憲兵はペラペラと説明する


「もういいだろ?こいつ、身分証がないからこのままギルドで登録させる。これ通行料な」

呆れたように言いながらお金を渡す


「おう。一応これ持って」

水晶のようなものを受け取ると白く光った


「大丈夫だな。お前が一緒なら仮のタグは省略しとくよ」

「サンキュ。サラサ行くぞ」

「あ、うん」

私は憲兵たちに軽くお辞儀してレイを追いかけた


「まずは登録だな」

レイはそう言うと大きな通りをまっすぐに進む

両サイドには店が立ち並んでいてそれなりに賑わっている

でも通りにいるのは一般の人より冒険者らしき人の方が多く感じる


「この町は冒険者の方が多いの?」

「ん?」

「周り見ても冒険者の方が多いみたいだから」

「ああ、この時間だからだな」

レイは納得したように頷きながら言う


「この時間は依頼を受けて町を出る冒険者が多いんだよ。そのために開けてる店も多い」

「へぇ…」

「普通の奴らはもっと後の時間に出てくる。その方が冒険者同士のくだらない争いに巻き込まれなくて済む」

「争い?」

「そ。争いってよりは喧嘩?」

その言葉に納得する

気性の荒い者たちだけに些細なことでぶつかり合うことも少なくないらしい


「ここがギルドだ」

レイが大きな扉を開けると中はかなりざわついていた

依頼書を貼ってある壁の前に冒険者が殺到している

その依頼書も最初はきれいに隙間なく貼られていただろうことがわかるものの、すでにかなりの歯抜け状態になっていた


「ようレイ。お前がこの時間にギルドにいるなんて珍しいな?」

レイは寄ってきた男に無言で返す


「レイ、依頼受けるなら一緒にどうだ?」

「今日は別件だ。また今度な」

今度は親しい相手なのか一瞬立ち止まって少しの間話をしていた


そのそばで圧倒されてもみくちゃになりそうな私の腕をレイが引き寄せる

「大丈夫か?」

「うん。でもすごい人だね?」

「朝だからな」

レイは苦笑しながら言う


「レイおまえいつの間にこんな上玉捕まえたんだよ?」

「うわーレイにもついに女が…」

口々に発せられる言葉に私はいたたまれなくなる


「いちいち気にすんな。おい、マーク冒険者登録」

「え?」

マークと呼ばれたギルド職員はレイと私の顔を交互に見ていた

そのマークさんの前にはよその列と違って人が並んでいない


「田舎から出てきたところで身分証もない」

「なるほど。じゃぁこれに記入…」

田舎から出てきたと聞いた手前読み書きができるか探っているような感じだった

「もしかけなければ代筆しますが…」

続けられた言葉に予想通りだと心の中で笑う


「大丈夫です」

私は全言語理解ってすごいと思いつつ書類に最低限の内容だけ記入する


「サラサさんですね。次はこの装置にあなたの血液を垂らしてください」

マークさんはそう言いながら何かの装置とカードを1枚取り出した


「え…っと…?」

言葉は理解できた

でもその意味が分からずレイを見る


「その先のとがったところに指置け。ちょっと痛いかも」

私はレイに言われるまま目の前の装置の先端に指を置く


チクッとした痛みの後に血液が流れて装置が光った


ちょっと触れただけなのに血が出るって…

驚きながらカードを見ると顔写真のようなものまで転写されていた

魔道具おそるべし


「もういいですよ。指、失礼しますね」

マークさんはそう言って私の指に向かって自分の手をかざすと《ヒール》とささやく

次の瞬間傷口がなくなっていた


「ありがとうございます」

お礼を言いながらステータスを確認するとヒールが追加されていた


「…どういたしまして。これで登録は完了です」

そう言いながらマークさんに差し出されたカードを受け取る


「カードの内容を確認して秘匿したい部分はご自身で設定してください。項目をタップすればメニューがでますので」

「あ、はい」

私はすぐさまスキルと称号を非表示に切り替えた


「ギルドに関する説明は…」

マークさんは私ではなくレイを見ていた


「俺がする」

「了解。では以上で終了です」

「ありがとうございます。これからよろしくお願いします」

私はマークさんに軽くお辞儀をするとレイと共にギルドを出た

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る