2-2

どんなものが出てくるか色んな意味で楽しみにしていた私はテーブルを見て固まった

串に刺した大きな肉、具のないスープ、パン

しかも肉の量が半端なく多い

テーブルのど真ん中に軽い小山ができている

毎食サラダを欠かさなかった私としては衝撃である


それが当たり前なのだろうレイは椅子に座るなり肉をほおばる

私も戸惑いながらも手を合わせた

「いただきます」

「?」

不思議そうな顔をされた

でも何も言われなかったので、疑問に思いながらも食事をすることにした


最初にスープをいただく

塩味。ほかの旨味は一切ない

具がないだけに当然ではあるのだが…

まずいとまでは言わないが海水を薄めたものを飲んでいる感覚だった


次にパンを口にする

シンプルなコッペパンのようなものだったが少しパサついてる感はある

なぜか給食を思い出した


そして肉

一切れがかなり大きいため串から抜いてかぶりつく

「やわらかい…」

思わず口から漏れた

見た目に反してとろけるような食感だった

塩味のみだが素材がいいのか極上のステーキを食べている感じだ


この世界には塩以外の調味料はないのだろうか?

そう考えたとき目の前に画面が表示された


***

《調味料》

ミュラーリアでは主に塩が用いられる


地球にある調味料はほぼ入手可能。名称も地球と同じ

砂糖:スイートウッドの樹液

醤油:ソイウッドの樹液

味噌:ミーソウッドの実

酢:スーウッドの樹液

みりん:スイートウッドの実

酒:オーサウッドの樹液

塩:海水から精製、岩塩もある

その他だしとしても利いられる昆布、カツオも海産物より入手可能

***


『vs地』の意味を初めて理解した

ある意味非常に便利な辞書である


私としては大半が樹液や木の実であることに違和感しかない


「レイ」

「?」

「調味料は塩だけ?」

「醤油と酒はある」

なるほど

私は少し考える


「あの…」

「?」

「お世話になるお礼にお食事の準備と家のお掃除させてもらってもいい?」

お伺いを立ててはいるがむしろさせて欲しい

この食事が続くのは正直辛い


「それは…俺はその辺苦手だから助かるが…」

少しばつが悪そうな顔をする

スキルレベル1桁だけに自覚もしているのだろう


「でも記憶がなくてもできるか?」

心配と本当に大丈夫なのかという不安かな?


「何となく大丈夫そう…今試してみてもいい?」

私としてはとりあえず塩味のスープだけでも今すぐ何とかしたい


「かまわない。必要なものは?」

「調味料と…何かお野菜ってないかな?」

「野菜…今あるのはタマネギにハクサイ、ネギだな」

そもそも名前と物は一緒なのだろうか


***

《野菜》

地球にある野菜はほぼ存在するがミュラーリアではあまり利用されていない

名称や特徴は地球と同じだが栽培方法は異なる

***


同じ神の世界だからだろうか?

食材に関して困ることはあまりなさそうだ


「じゃぁタマネギとハクサイください」

そう答えるとレイはインベントリからタマネギとハクナサイを出してくれた


私はキッチンを借りて串から抜き取った一切れの肉を細かく刻むと、タマネギの串切りとハクサイを細目にそいだものをスープに入れた


煮込む魔法ってあるのかな?

スープやカレーを煮込むイメージをするとスープの中の野菜が一気に煮込まれた姿に変わった

ステータスで確認すると時空魔法のスキルにエイジングが追加されていた


「…今なにした?」

スープの鍋を覗いていたレイが訪ねる


「えっと…エイジング?」

「時空魔法が使えるのか?」

そういえばさっき魔法スキルの事は言っていない


「無意識に使ったかも…」

「さっきスキルでは言ってなかったよな?ほかの魔法も使えるのか?」

「あ…火魔法と闇魔法、複製が…」

少し考えてから何かの拍子に出てしまいそうな魔法を告げる

あえて複製を告げたのは勝手に取得できてしまったりイメージしただけで利用できるようになってしまうからだ


「火魔法はともかく時空魔法に闇魔法に複製…確かスキルが増えるやつ?ひょっとしてインベントリも?」

闇魔法が使える者はほぼ例外なくインベントリを覚えると、刷り込まれた知識が浮かぶ


「うん…隠してごめんなさい…」

罪悪感から逃れたくて謝罪する


隠したと言ったことで隠蔽に気づくだろうか

もしそうなったらここをすぐに追い出されてしまうかもしれない


でもレイが口にしたのはそういったたぐいの言葉ではなかった

「…初対面の人間に軽々と言えるスキルじゃぁないか。でも俺の前以外では使わないほうがいい」

私のために言ってくれているのが分かったため素直に頷く

警戒されなかったことにほっとするとともに多少の罪悪感を覚えた


少しの間無言のまま鍋の中を見ていると野菜がいい具合にとろけてきた

醤油で味を調えるとそばにあった小皿に少し入れてレイに渡した

「どう…かな?」

「…うまい」

「よかった」

思わず笑みを零す私をレイがじっと見ていた


「?」

「いや。そのスープ食わせてくれ」

「うん」

私はどこか嬉しさを感じながらスープをカップに注いでテーブルに運んだ

特別会話はないもののレイはおいしそうにスープを口に運びおかわりまでしてくれた


「インベントリがあるならこれ渡しとく」

レイは片づけを終えたテーブルに肉や野菜などの食材と調味料を取り出した


「飯作ってくれるならサラサが持ってた方がいいだろ」

「ありがと」

私はテーブルの上からインベントリにしまっていく


パソコンのデスクトップみたいにしたらわかりやすいかな。第一階層はとりあえず食材と素材、食材のなかで肉と魚、野菜、果物、卵・乳製品、調味料くらいにはカテゴリ分けしたいな

そう考えるとインベントリの中が自動で整理されていく


「レイ」

「ん?」

「お肉は高級なものが種類まで豊富にあるのに野菜少なすぎない?」

「…」

レイは無言のまま一度合った目を反らす


「野菜は嫌い?」

「…今日のスープ」

「?」

「あれで初めて野菜を上手いと思った。それに俺の周りで野菜を好んで食べる奴はいない」

その言葉にしばし沈黙する


料理のスキル1桁でこの世界で主に使われる調味料は塩

たしかに野菜をおいしいと思う方が難しいかもしれない


「…使うのは問題ない?無理に食べなくてもいいから…」

「ああ。今日のスープみたいのは食える」

レイは私の頭をポンとなでるようにたたいてそう言うとリビングを出て行った


私は椅子に腰かけインベントリのリストを開く

肉の詳細を見るとSランクの魔物数種を含め9割がAランクの魔物の肉だった


「すごい高級食材…」

呟くように言いながら苦笑する


前世ではちょっといいお肉なら自分へのご褒美で購入することはあったものの高級ステーキなど食べる機会はなかった

主婦の知恵として安い食材でいかにおいしい料理を作るか、それを考えるのが実はささやかな楽しみの一つだった

離婚してからは友人とポットラックパーティをするのが唯一の気分転換だった

もっとも年に1回出来たらいい方だったが


それが多少役には立ちそうではあるものの…

「…これからどうしたらいいんだろ…」

呟きながらただ目の前の空間を見つめる


いくら基本的な情報が刷り込まれていて神々の加護という名のチートスキルがあるとはいえ、この世界のことはほとんど分からないだけに考えようもない


この世界の理を自分自身が受け入れられるのか

本当に生活していくことができるのか

考えれば考えるほど出口のない迷路を進んでいる感じになる


ずっとレイにお世話になり続けるわけにもいかないだろう

いつかはちゃんと自立しなきゃならない

薬草が売れるといってもそれで生計を立てれるのかすらわからなかった


◇ ◇ ◇


リビングを出てしばらくレイは中の様子をうかがっていた


サラサが何かを隠していることは最初から気づいていた

でもそれが自分に危害を加えることではないと感じる


鑑定に表示されなかった魔法スキル

考えられるのは隠蔽スキルを持っているか魔法のスキルレベルが自身の鑑定スキルより高いということだ

でも無意識のうちに目の前で使ったことを考えれば悪意がないこともわかる


成人して2年の女性が高ランクの特殊スキルを持っていれば隠すのはやむを得ない

貴族に取り入ろうとする人間が多いのは事実だが、そこから離れようとする人間が一定の割合いるのも事実だとレイは嫌というほど知っている


記憶がないのも全くの嘘には感じない

料理など生活に密接した基本的なことは体が覚えているようだが…


謎だらけの女性

それがレイのサラサに対する印象だった


「…これからどうしたらいいんだろ…」


聞こえてきた言葉に思わずサラサを見る

さっきまでタンザナイトのように輝いていた瞳からは光が失せていた


思わず息を飲む


さっき見た笑顔から想像できないような、不安が見え隠れしている表情が作られたものだとは思えない

何とかしてやりたいと思わずにいられなかった


◇ ◇ ◇

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