第2話 新しい生活
2-1
部屋で1人になった私はソファに腰かけた
体が深く沈むあたりかなり高級なソファのようだ
キッチンやリビングの家具とは比べ物にならないくらい上等なものである
リビングに至ってはソファとソファテーブル以外には何も置いていなかった
カーテンやカーペットすらなかったのがなぜなのか
その答えを見つけられるほど私の中にレイの情報はない
ただただ、その落差が不思議で仕方なかった
ソファに体を預けると少しずつ心が落ち着いてくるのが分かる
つい数時間前にいきなり転生を告げられ新しい世界にやってきた
悩む間もなくレイに助けられたおかげで、少なくとも当面の間住む場所と食事は心配なさそうだ
そう考えるとなかなか恵まれたスタートであると思わずにいられない
実際レイに見つけてもらえてなかったらどうなっていたか想像するだけでも怖い
「この国の第3皇子…何かあったのかな?」
王家を出て素性を隠し、冒険者として生活している理由が分からない
でも不思議と不信感はない
「食事ができたらって言ってたけど料理のスキルすごい低かったような…」
料理も掃除もスキルは1桁だったはずだ
前世では出先の食事が楽しみだったが、ここは異世界だけに期待半分怖さ半分といったところだろうか
果たしてどんなものが出てくるのか色んな意味で楽しみになってきた
「とりあえず今居る場所だけでも確認しといたほうがいいのかな?」
いきなりこの世界に送り込まれてここまで運ばれてきただけに土地勘は全くない
ミュラーリアという世界のどこにいるのかさえわからないのが現状だった
『世界地図』
頭の中で念じると目の前に地図が表示された
パソコンのウィンドウ画面のようにも見えるが決定的に違うのは宙に浮いていることだろう
でもどこか見慣れたそれに何となく安心感を持ってしまう
「ここが今居る場所かな」
王都にある森の中に白いピンが立っていた
パット見は前世でのスマートフォンの地図アプリと似ている
試しにそのピンをタップしてみた
「おぉ…すごい」
タップした付近に2つのサブウインドウで詳細が表示された
期待した通りタッチパネルのような機能が搭載されているらしい
となると私にためらうという選択肢は無い
「こっちは私で…こっちはレイか。ここを拡大して…」
自分のいる場所を拡大表示すると少し離れた場所からマーカーのようなラインが引かれていた
「オートマッピング?通ってきたルートまで記録されるのか。この赤いのは…魔物?」
少し離れた場所に立っていた赤いピンをタップするとフォレストドッグという名前と詳細が表示された
レベル10と表示されているもののそれがどのくらいなのかがサッパリわからない
「これは?」
地図の上部にある『メイン』と書かれたボタンをタップすると、人や建物の詳細画面の一番上に表示されている名前が画面に表示された
「なるほどこうしておけば見たい詳細だけ確認すればいいのか。っていうかここ、『レイの家』って表示されてるし…」
思わず笑ってしまう
これから誰かと知り合ったり店に入ったりしたときに表示される名称が何となく楽しみになった
地図の上部には他に『素材』、『魔物』のボタンと検索窓があり、ネットの操作と同様に扱うことができた
色々と検索してみていくつかわかってきた
◆この家は王都から少し離れた森の中にある
◆王都の一番近い町からこの家までの道のりでフォレストドッグという魔物と遭遇する可能性がある
◆この家の周辺にはかなりの薬草が存在している
◆この家からさほど離れていない場所に迷宮が存在する
「この世界の薬草ってほとんどハーブなんだ…」
マップ上に表示される薬草は世界辞書で調べるまでもなく前世で親しんでいたハーブと同じ名前、効能を持っていた
ただし見た目や生育方法などは多少違う部分があるようだ
「こっちは漢方か…漢方はあんまりわかんないけど採取しながら覚えるのもありかな」
元々ハーブは自分で育てていたし資格も持っていたためなじみが深い
その知識がここでも役に立つのは嬉しい
「薬草が売れるなら生活の足しにもできるかな」
表示される内容にはギルドでの売値や店で買うときの標準価格も表示されている
この家の近くにもそれなりの値が付く薬草があり、自分の生活の基盤となる収入の当てが少しでもあることはありがたい
この世界で前世でのつながりを見つけるとどこかほっとする
見知らぬ街で懐かしい友人と再会したかのような感覚なのかもしれない
もっとも、私にはそんな感覚に陥るような友人はいなかったが…
そんなことを考えながら自分を取り巻く状況を少しでも理解しようとしていた
そうしていないと不安に押しつぶされてしまいそうだったからだ
しばらく世界地図と世界辞書を使って情報を整理しているとドアをノックする音が聞こえた
「はい」
扉を開けるとレイが立っていた
「飯、食えるか?」
「うん。大丈夫」
頷いてレイと一緒に下に降りる
この時の私はテーブルの上を見て驚くことになるなど思いもしなかった
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