本編

第1話 新しい世界

1-1

ふと目を開けると真っ白な世界が広がっていた

「ここは…?」

私はあたりを見回しながらつぶやいた


「ここは神界です」

低い男性の声が聞こえた

「しんかい?」

言葉にするものの漢字に変換できない


「神の世界の神界です。私はすべての神々をまとめるゼノビア」

「…はい?」

返された言葉にこぼれた声には戸惑いしか浮かんでいなかった


「水無月更紗様、あなたは地球での一生を終えました。20年以上多種多様な技能を身につけられたあなたに私の管理するもう一つの世界ミュラーリアを発展させていただきたい」

「…」

私は告げられた言葉を頭の中で反芻した

でも理解はしても受け入れることができない


「ミュラーリアはこの100年何の発展もしていません」

「私がどうこうできることではないのでは?」

「とんでもない」

「そもそも発展させる方法なんて…」

「ご心配は無用です。あなたはただあなたの思うように生活してくれればいい。あなたという一つの雫が波紋となりミュラーリアを変えるのです」

「…」

ゼノビアの言葉の通りならそれほど難しいことではない

でもそんなことが可能なのか私にはわからない


「転生先でのあなたは17歳の成人女性になります。ちなみにミュラーリアの成人は15歳。ミュラーリアで必要な基礎知識は新しい体に刷り込ませます。もちろん体も丈夫にしておきます」

「…」

「また生活に必要なこちらのスキルも付与し、私共の加護も授けます」

ゼノビアは話を続けながら1枚の紙を私に差し出してきた


***

全言語理解 (どのような言語でも理解できる)

インベントリ (時の流れを止めた術者専用空間を作る)

複製・上級 (自身が受けたスキルや認知したスキルを自動で獲得する)

世界辞書・vs地 (ミュラーリアのあらゆることを調べることができる)

世界地図 (ミュラーリアのすべてを表示することができる)

創造 (イメージすることで既存のスキルや新たなスキルを創造し取得することができる)

鑑定・vs地 (物や人物の詳細を調べることができる)

隠蔽 (指定したステータスやスキルを隠すことができる)

クラフトマスター (あらゆるものを作ることができる/鍛冶・彫金・細工・木工・革細工・裁縫・錬金・錬成・調合の全てのスキルレベルが50以上で統合される)

***


『…ラノベやゲームの世界…』

私は昔友人から読まされた本の世界…異世界の小説やRPGと呼ばれる類のゲームを思い出していた


「ミュラーリアは剣と魔法の存在する世界です。世界辞書と鑑定には対地球の情報も出来る限り表示できるようにしています。複製や創造のスキルによりあなたが望んだりイメージしたことは形とすることができます」

「…例えば?」

「そうですね…手のひらを出して、頭の中で地球のマッチをイメージしてみてください」

私は言われるままイメージする

すると私の手のひらの上にマッチ大の火が具現化された

それを見て次はマッチを吹き消すイメージを持つ

当然のように手のひらの上の火が消えた


「なるほど」

妙に納得しながら水や風も試してみる


「流石ですね。では頭の中でステータスと唱えてください」

『ステータス』


***

サラサ・ミナヅキ

人種 人族  年齢 17歳

職業 上級職人  レベル 32


スキル 

全言語理解 MAX  世界辞書 MAX  世界地図 MAX インベントリ 100  

身体異常耐性 MAX  精神異常耐性 MAX  物理攻撃耐性 MAX  魔法攻撃耐性 MAX

複製 200  創造 200  鑑定200  隠蔽200  時空魔法 100  闇魔法 100  火魔法 100 

料理 132  採取 108  クラフトマスター 72  掃除 62  算術 112  読書 125

生活魔法


称号

異世界転生者  神々の加護を受けし者

***


「レベルは一般的な冒険者が30 スキルレベルは成人で20~50、Bランク冒険者で70、Aランク冒険者で100、200以上が超人で300がMAXです。鑑定スキルを持っていても自身の鑑定スキルより高いスキルは見ることができません」

「…ほとんど超人レベル?」

「そうなります。しかし念のためスキルと称号は隠蔽しておいた方がいいでしょう。目の前のステータスボード上で項目名をタップすれば隠蔽を選択できます」

私は言われた通りスキルの項目名をタップするとメニューが表示された


「全隠蔽、部分隠蔽、全表示」

表示されたメニューを読み上げる


「文字通りです。料理と生活魔法は他者に知られても問題ありません。職業が上級職人と表示されるのでクラフトマスターも問題ないですね。全て隠蔽するかどうかは更紗さん次第ですね」

とりあえず問題ないと言われたものだけを表示し他のスキルと称号は隠蔽した


「そろそろ時間のようです。では新しい世界を楽しんでください」

ゼノビアの言葉が途切れたとたん真っ白な世界から真っ黒な世界に移った


そこで私の意識は途切れた


「…い、おい?」

誰かの声に意識を取り戻す


「大丈夫か?」

目を開けると銀髪碧眼のルックスのいい男性が心配そうに私を見ていた


「…私…?」

「少し前にこの辺りに光の柱が現れた。一体何があった?」

私はただ首を横に振る

頭が覚醒していないことだけはわかる


その時突然雨が降り出した

「とにかく場所を移す」

彼はそう言って突然私を抱き上げた


「!?」

俗にいうお姫様抱っこで思わず体が硬直する


元の世界ではアラフォーで結婚も離婚も経験した私が男に免疫がないわけではない

でもいわゆるイケメンにお姫様抱っことはいかがなものか・・・


「少しの間我慢しろ」

彼はそれだけ言うと私を抱き上げたまま走り出す

10分ほど走った先の屋敷に着くまで彼は走り続けてくれた

かなりの体力である

その間雨脚が増すと彼の外套で雨から守ってくれるというオプション付きだ


「俺の家だ。汚いけど雨ぐらいはしのげる」

そう言いながらリビングのソファにおろしてくれた


「ソファが汚れる…」

「気にしなくていい」

そう言った彼に目を向けると目の前で彼のまとう服がきれいになり濡れていたはずなのに乾いていた


魔法?

驚きながら彼を鑑定してみた


***

レイ(本名隠蔽:レイノスハーン・ミュラーリア・キングストン)

人種 人族  年齢 20歳

職業 B級冒険者  レベル 73


スキル 

インベントリ 52  

身体異常耐性 70  精神異常耐性 48  物理攻撃耐性 86  魔法攻撃耐性 57

鑑定 80(隠蔽)  隠蔽75(隠蔽)  

剣術 182  格闘術 94  闇魔法 68  時空魔法52  火魔法 85  身体強化 30  投擲 62  

料理 5 掃除 7  算術 69  読書 86

生活魔法 (火種・水球・ドライ・ライト・クリーン)


称号

ミュラーリア王家第3皇子(隠蔽)

下級迷宮を制し者  中級迷宮を制し者  上級迷宮を制し者

***


…なるほど。隠ぺいを使うと自分よりレベルが低い場合は隠蔽してることもわかるってことか

私は一人納得する


「俺はレイ、呼び捨てでいい。Bランクの冒険者だ。あんたの名前は?成人したてぐらいか?」

彼は鑑定のスキルを持っている

つまり私の事はわかった上で連れてきているはず。にもかかわらずあえて尋ねるのは鑑定と隠蔽のスキルを隠蔽している為かと勝手に理解する


そしてどうしたものかと考える

特に設定は考えていなかった。いきなり知らない世界に送り込まれた自分を怪しく思う人間は多いだろう


「…」

あえて何も答えずうつむいた


「…どこからきてどこに向かうところだったんだ?」

「…」

黙ったまま首を横に振る


「…まさかとは思うが自分のことが分からないなんてことは…」

戸惑いながら発せられた問いに小さく頷く


嘘ではない

前世の記憶はあるが今の自分の事は自分でもわからないのだから


「…マジか…」

彼は大きなため息とともにその言葉を吐き出した


「…ごめんなさい…」


厄介ごとに巻き込んでいる自覚はある

かといって突然17歳から始まった新しい人生の過去は存在しない

簡単に転生してきたと告げることも出来ない


「いや。あの光自体が尋常じゃなかったんだ。その場にいたあんたに何も起こらないはずがない」

そうは言うもののどうしたものかと考え込んでいるようだった


「あー、ステータスって頭の中で念じてみろ。少なくとも名前や年齢はわかるはずだ」


『ステータス』

頭の中で念じる


あ、生活魔法が増えてる…さっき突然きれいになったのはこれかな?

複製のスキルのおかげなのだろう


「サラサ・ミナヅキ…17歳、上級職人です」

「その年で上級は珍しいな」

「そう…なの?」

「それもわからない…か?」

その問いにただ頷く


「上級はクラフトマスターやソーサリーマスターのスキルを持っている者の職業に就く称号だ」

「クラフトマスター…あります」

「なら記憶がなくても体が覚えてるかもしれないな。他にスキルは?」

「料理、採取、掃除、算術、読書」

レイが自分の鑑定画面も確認しているような素振りをしているのに気づかないふりをして隠蔽していないスキルを読み上げた


「…普通の生活には問題なさそうだな」

「?」

「とりあえずサラサが落ち着くか記憶を取り戻すまではここにいればいい」

「そんな迷惑は…」

「ほかに何か方法が?」

遮るように問われて黙り込む


「俺は冒険者としてそれなりに稼いでる。この家には部屋も余ってるしサラサ一人増えても問題ない。自分の事もわからないサラサを放り出すのは人としてもな」

レイはそう言って苦笑する


「…ありが…とう」

そう答えながら涙があふれてくるのが分かった

自分で思っているより不安だったようだ

そんな私が落ち着くまでレイはただ黙って見守ってくれていた


「とりあえず家の中を案内しとくよ」

そう言って家の中を色々と説明してくれた


「キッチンは魔道具でそろえてあるから魔力の消費を気にせずに使えるし必要な食材があれば用意する。家の中はサラサが過ごしやすいように好きに変えてくれていい。1階のトイレと浴室はこっちで個室が4つある。2階はこっち」

エントランスから階段を上がる


「2階には4部屋、左の2部屋は空き部屋で右奥が俺の部屋だ。サラサはこの部屋を使えばいい」

レイはそう言って右の手前の扉を開けた


「…すごい…」

そこには20畳近い広さの部屋が広がっていた

左奥にベッドとクローゼット、ドレッサー等があり右奥にトイレや浴室、手前に応接セットや書斎のようなスペースがある


「明日、町の主要な場所を案内する」

圧倒されたまま無言で頷く


「少しここで休んでろ。飯ができたら呼びに来る」

レイはそう言って下に降りて行った

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