第1話

朝起きるとベットの上だった。

鼠色の布団に包まれ……

赤色…?

灰色の枕に頭を預け……

赤色と黄色…?

冬なのにも関わらずエアコンもつけずに凍えた部屋……

小春日和並に心地よい暖かさ…?

およ?おかしいぞ…?

すべてが真反対……

そうかこれは夢か。


「夢ではありませんよ、当主様」


「ふぎゃぁっ!?だ…誰っ!?」


「…どうされたのですか?頭でもぶつけましたか?…現在進行系でぶつけていらっしゃいますね」


僕は驚きのあまり壁に頭を打ち付けて声の主から距離を取っていた。

待て、落ち着くんだ。これは夢だ。これは夢だ。これは……


「だから夢ではありませんよ」


「ふえっ!?」


「…さっきからその驚き方はなんなのですか?」


「えっ、あっ、ごめん…なさい?」


「なんで謝るのですか?」


「………」


「………」


気まず。

そうだ。夢か判断するため頬をつねった。なんともテンプレ臭い方法だ。

ぎゅむっ。

…痛い。


「…何をしていらっしゃるのですか?ふざけている暇はありませんよ、この後はお稽古があるのですよ。時間がないのです、早く着替えてご飯を食べに来てください」


声の主はそう捨て台詞を残して、バタン、という音と共に扉の奥へと行ってしまった。


「おかしいな…?ここは一体どこなんだ?」


とりあえずここは僕がいた次元ではないことは確かだ。

ベットから起き上がった僕は何が起こっているのかを考え始めた。


1.ここは別次元で確定

2.僕は恐らくここの当主

3.窓の外はThe異世界

4.そういや昨日の仕事終わってなかったな?

5.提出期限今日までじゃなかった?

6.………


後半は嫌なことしか思い浮かばなかったが、とりあえずここで暮らすしかないようだ。

僕は部屋を見渡し、着替えが入っていそうな棚を探した。

これか?僕は部屋の右隅の棚を引いた。

…違う。中身は本だった。しかもなんとも言えないオーラを放っていた。

…見なかったことにした。

じゃあこっちかな?左隣の棚を引いた。

…こっちも違かった。中身は……本だった。しかも(略)。

…見なかったことにした。

そして同じように棚を引き続け、やっと着替え棚を見つけ出した。

ちなみに着替え棚以外はすべて本だった。オーラを放ってるやつ。

僕は明らかに小さいサイズの洋服…というか魔術師っぽいローブ、それしかなかったので仕方なく着ることにした。ローブを羽織り、重厚そうな部屋の扉を開く。

…結構重いなこの扉。

扉の先には協会にありそうな廊下が現れた。

出てすぐ、右に鏡があった。

そこに写ったのは小さな青年だった。

…誰?

周りを見渡すが、それらしき青年はいなかった。

……分かってた。これが僕だってことには。

…見なかったことにしよう。

廊下の一番奥の右の扉の上に、大きく「食堂」と書かれている看板がかけてあった。

またもや重厚そうな扉を開いた先には……

横長のテーブル、沢山の椅子。

そしてゴツい男性、モデルのような美人の女性、さっき部屋に来た人、知らん人A、知らん人B、知らん人C、田中、山田。

扉の開閉音に気づき、こちらを一斉に向く。

…そして一斉に逸らす。

…なんだよ。

どこにも逃げ場はなく、あたふたしているとその様子に気づいた田中…じゃなくてさっき部屋に来た人が声をかけてくれた。


「当主様のお食事はこちらでございます」


さっき部屋に来た人に案内されて山田の隣の椅子に腰を下ろす。

まぁ高級そうな椅子していらっしゃる。それも沢山。

腰掛けた先に置かれたご飯をなんかそれっぽく食べた。

…ナイフとフォークでどうやってパン食べればいいんだよ。

食事が終わり、食堂から出ようとすると、図太い声に呼び止められた。


「おい、どこに行く。今から稽古だぞ」


振り向くと、声の主はどうやらゴツい男性だった。


「け…稽古?」


「…何をいっている、いつものことじゃないか」


「は、はぁ…」


知らねぇよ……。稽古なんてしたことねぇよ……。

結局、僕は男性に連れられ、この屋敷の庭へと出る。

出た矢先、浴びせてきたのは罵声だった。


「おい、らい、いつになったら強くなるんだ?」


「えっ?」


「え、とはなんだ。お前、どれだけ稽古しても強くならないじゃないか」


「………」


そもそも一度も稽古してないんですが?


「はぁ…」


男性は溜息をついた。一回ぶん殴ってやりたい。

その思いは儚く、稽古が始まった。


「さぁ、かかってこい」


そう言われたのでとりあえず一発殴ってやろうと思った。

しかし、僕の拳が届くことはなかった。

僕の体は宙に浮き、陸から足が離れてしまった。

え?死んだの?

いいえ、死んでおりません。

あなたは宙に浮いているだけです。


「はぁ、またか。毎回対処できないじゃないか。魔法も使えないしな」


魔法?魔法なんてあんの?この次元。


「あの、どうやって魔法出せるんですか?」


「……何度も教えただろう、詠唱するんだ」


そう言って男性は僕に一冊のさっきのオーラが出てる重い本を投げつけてきた。

物を投げるな物を。

僕はペラペラと本をめくり、詠唱文が書かれたページを見つけた。


「えーと…龍よ、我が触れた逆鱗を怒りに変え、力に変え、その力を我の力となれ、我はらい、詠唱を統べるものなり」


そう詠唱すると、聞こえてきたのは笑い声だった。


「ぶわっはっは!らい、お主どうした?初級魔法さえ使えないのに最上級魔法など使えるわけなかろう!」


そう笑ったのはゴツい男性と田中だった。

…今更だけど誰だよ田中。


だがしかし、その笑い声はすぐに悲鳴へと変貌する。


『最上級魔法・ドラゴニックブレス』


僕がそう唱えると、直後、周りは炎に包まれた。

まるでドラゴンが怒り、炎を吐いたように。


ゴツい男性は目を見開いて硬直、田中は巻き込まれて焼き田中となった。

正直、何が起きたのか、自分でもわからなかった。

思ったことは一つ、


この次元楽しー!


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