第3話 解雇
GSS部隊とDNLF部隊の激しい戦闘を物語っている跡地では様々な種族の亜人がいた。
まず目に付いたのは亜人族の中でも数の多いゴブリン。
緑色の肌に異様に尖った鼻と耳が特徴的な種族だ。
森から平原、高山に砂漠など住む場所を選ばない彼らはあらゆる環境に適応する事ができそして狩猟を主に行ってきた種族である為今回の戦いでは米軍やNATO軍などの正規軍、PMC相手のゲリラ戦で活躍している。
他にもエルフや獣人なんかもいたが亜人という種族上、皆個々の戦闘力において人間よりも優れた戦士達だ。
特にエルフなどは簡易的な魔術の術式を行使し、負傷兵を負傷の度合いによってはその場で完治させたり敵の認識を阻害したり噂程度だが過去に他の正規軍兵士から聞いた話では銃弾の威力を上げたり弾道を操ったり、流石に信憑性は低いが米軍の最新鋭UAVの操作が乗っ取られた事もあったらしい。
魔術など想定していなかった彼らはシステム外からの反撃によって兵力も、技術力も劣る筈のDNLFに深刻な出血を強いられている状況だった。
「俺は…どうなる」
拘束されたケントの目の前を歩く彼女に聞くがこれは既に彼が死やそれすら生温い仕打ちを覚悟した上での問いだ。
亜人族の中には人を好んで食べる種族もいると聞く。
少なくとも彼らがジュネーブ条約を遵守してくれるとは微塵も思えない。
「それは…」
彼女が何か言いかけた時彼らの頭上から聞き覚えのある風切り音が聞こえた。
それは急速に彼らの元へと接近してくる。
ケントが戦場で最も聞きたくなかった音。
頭上から
風切り音が死神が死を告げる声のように響く。
それは最強の女神にして最悪の悪魔。
遥か大昔から歩兵が最も恐れ恨んだ存在。
「砲撃だ!!」
飛来した無数の砲弾が恐るべき精度で彼らに襲い掛かる。
地面に着弾する事無く近接信管によって空中で炸裂した砲弾の破片に引き裂かれた亜人兵達の肉片が紙吹雪の如く飛び散る。
砲弾の炸裂が巻き上げた粉塵が辺り一面に広がり衝撃波が嵐のように吹き荒れさせる。
ケントはこの時咄嗟に本来の目標だったトラックの下に身を隠した。
着弾する毎に地面が唸り、爆発音と亜人兵の断末魔がこの戦場を満たす支配者。
「120mmかよ!?ここの生命体を全部消す気か!!」
最早外にいた生身の兵士など原形を保っている筈も無く人とも生物とも呼べぬ肉塊があちこちで堆積しては爆風で再び巻き上げられた。
逃げる暇も無く行われる殺戮にケントは自分も逃げ遅れていたら、と冷汗を流した。
ここまで高精度の砲撃となると恐らく砲弾の誘導にUAVなどの航空機を使用しているだろう。
最近の砲撃は昔のようにわざわざ観測班を送り込んだり弾道を人力で計算して仰俯角や射角を調整する必要も無い。
ドローンや人工衛星などの誘導があれば砲に取り付けられたタッチパネルを適当に操作するだけで正確な位置に確実に砲撃を行うことが出来る。
現代なら小学生ですら精鋭の砲兵隊並みの精度の砲撃をスワイプとタップだけで出来るほどに簡略化された砲撃システムは砲兵隊の訓練を実質不要の物とした。
一部の軍隊では民生用タブレット端末とドローンを改造して砲撃に用いている。
そして実際に戦果を挙げているのだから技術の進歩というのは素晴らしい物だ。
爆風に叩き付けられた装甲テクニカルは原型も残さず圧殺され死肉混じりの鉄屑へと姿を変えた。
誰から撃ち込まれたのかも分からない曳火射撃はそれから暫く続いた。
どうやら相手の砲兵隊はここにいる邪魔者を徹底的に潰す気らしい。
この無慈悲な鉄と炎の雨が止んだのは暫くして辺りから完全に生き物の気配が無くなってからの事だった。
ボロボロのトラックの下から這い出て周囲を見渡した。
視界に広がるのは砲撃で草木も禿げ上がった大地とゴミのように散らばり積み重なる嘗て亜人兵だった肉片だった。
「生存者は……いる訳無いよな」
死体の下に埋もれていた亜人兵のPPS-43を引っ張り出しそれを構えながらその場を離れようとする。
だが、その前にトラックの荷台が目に入った。
事前に麻薬と聞かされていた積み荷だったがたかが麻薬の為にあのような大部隊を送り込む筈が無いと考えていたケントは積み荷の中身が気になった。
どうせなら見ておこう、とグシャグシャに潰れた荷台によじ登りそこにあった積み荷を見る。
「…何だこれ?」
そこに積まれていたのは大量の麻薬などではなく頑丈な金属製の容器で厳重に保管された何か巨大な物だった。
中身が何なのかは分からず容器が開くのか確かめてみようと手を伸ばしたがその手はこちらに近付いて来る装甲車の存在に気付いた事によって止まった。
一瞬DNLFの機甲部隊かと思ったがそれが西側の
GSSから援軍が送られてきたのだと思った。
溜息を吐きながら援軍が助けに来てくれるのを待っていると近くで止まったLAV-25の兵員室から兵士がぞろぞろと出て来る。
しかしGSSの社員には見えない。
薄暗い森林迷彩に装備はGSSですらあまり普及していないような最新型の物を全員が身に付けていた。
銃はGSSが主に使っているM4A1ではない、ドイツの
PMCというよりかは特殊部隊。
そんな印象を抱いたケントは彼らと接触した。
「援軍か。助かったぜ…」
「他に生存者はいるか?」
部隊の隊長らしき男にそう聞かれた為「いいや、俺以外全員死んだだろうよ」と周りを見渡しながら否定した。
「そうか、じゃあ後はお前だけか」
「それより、どうなってんだ?俺達が狙っていたのは麻薬だった筈だろ」
トラックの荷台に積まれているそれを指差し隊長に問い詰める。
だが男はどこ吹く風と聞き流し部下に何かの準備をさせ始めた。
そして静かに腰のホルスターに手を伸ばしていた。
「おい…アンタ…」
「お前は今日で解雇だ」
彼が意識を手放す直前に見たのは、自分の顔面に拳銃の銃口を突き付ける兵士の姿だった。
《アルゴスよりイーオー、状況を報告せよ》
「イーオー01よりアルゴス、
《アルゴス了解、テュルソスを回収し直ちに帰還せよ》
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