第4話鈴木さん
「す、鈴木さん…手を…」
「あっ!ごめんね」
僕は顔が熱くなり下を向いてボソッとつぶやく…きっと顔が真っ赤になっていただろう。
鈴木さんは謝ってパッと手を離した…僕は自分の繋がれていた手を触るとまだほんのりと温かかった。
「ふふ…佐々木くんあったかいね」
鈴木さんを見ればほんのりと高揚している。
何か言い返そうと口をパクパクとさせていると休み時間終了のチャイムが鳴った。
「教室に戻ろ」
鈴木さんがスタッと立ち上がって階段を軽快に降りていく…僕はゆっくりとその後に続いた。
教室に戻るとクラス中の視線を感じた。
鈴木さんは気にすることなく席に着くと僕はコソコソと下を向いて席に座る。
何となく顔を上げられなくて授業が始まるまで下を向いていた。
次の休み時間もその次の休み時間も鈴木さんに連れられて教室を出た。
その度にクラスの視線を浴びて居心地がすごく悪い。
まさかこのまま昼休みもか?
僕はお弁当を掴むと教室を出ようとする。
「佐々木くん」
すると後ろからご機嫌に僕の名前を呼ぶ鈴木さんの声がした。
「鈴木さん…何かな?」
「よかったら一緒にご飯食べない?」
「でも、鈴木さんは梶さんと食べるでしょ」
後ろでは梶さんが立っていた。
「別に一緒でもいいよ」
梶さんは気にした様子もなく了承する。
「鈴木さん!なら俺も一緒にいいかな?」
すると三浦がここぞとばかりに声をかけてきた。
後ろには仲間の男子が引っ付いている。
「ごめんね、そんなには人が行ける場所じゃないんだ」
鈴木さんは申し訳なさそうに謝った。
「なら俺だけでもいい?」
三浦は仲間を切り捨てて自分だけついてこようとした…三浦と一緒に食べるくらいなら一人の方がマシだった。
「え?三浦くん友達と約束してるんでしょ、それを断って私達と食べるの?そう言うの…あんまり好きじゃないな…」
鈴木さんは後ろで裏切られた男子達を哀れんだ顔で見つめる。
「そうだよね、友達を大切にしない奴レイナは嫌いだよね」
梶さんが納得するように腕を組んで頷く。
「あっ…そ、そうだね。今日はみんなと食べるわ…また今度、一緒に…」
三浦はきまり悪そうにその場を離れた。
「アヤカ、ありがとう」
鈴木さんは何故か梶さんにお礼を言うとパチッとウインクした。
「なに?」
僕が聞くとなんでもないと笑って教えてはくれなかった。
「じゃあ佐々木くん行こう」
鈴木さんと梶さんが歩き出すと僕は背中にバシバシと視線を感じながら二人の後を追って教室を出た。
鈴木さん達は旧校舎に向かうと上へと階段を上がる。
何処に行くのかと後をついて行くと最上階にきて一番奥の部屋へと向かう。
薄暗い廊下の奥の部屋へと入って行く、鈴木さん達に迷いは無いようでスタスタと足が進む。
僕は初めて入る部屋になんの教室かと扉の上を見上げた。
準備室…
「ここって?」
「ここは旧美術準備室だよ」
隣の教室を見るといつも使う美術室がある。
「美術室の奥に新しく準備室が出来たんだよね、だからこっちの準備室は倉庫になってるの」
ガラッと開くと確かに物が積まれていて倉庫になっていた。
人は来ないがご飯を食べるスペースも無さそうだ、まぁ頑張れば鈴木さんと梶さんなら入れそう。
だから三浦の事を断ったのかと納得する。
「僕は入れなそうだから他で食べるよ」
僕はチャンスとばかりに部屋に入るのをやめた。
「大丈夫だよ、中は結構広いから!」
鈴木さんは逃がさないとばかりに僕の手を掴んで引っ張り中へと誘導する。
積まれたダンボールの壁を抜けて奥へと行くと、そこにはテーブルと少し古臭いソファーが置かれていた。
「ほらね」
梶さんは先に入ってソファーに座っている。
奥がこんなにも快適な空間になっていたとは…
僕は驚いて周りを確認した。
「このテーブルはどうしたの?」
ソファーの前に置かれた重厚感あるテーブルを見つめた。
まるで校長室にでもありそうな机だった。
「昔の校長室にあったテーブルだよ、この準備室にあったのを私達が綺麗に並べて食事用のスペースを作ったの」
「すごいね!」
居心地の良さそうな空間に深呼吸する。
少しホコリ臭い気もするが窓を開ければ風が入ってきて気持ちいい。
鈴木さんが窓を開けながら風に髪を乱す。
離れてそっと髪を直すとなんだか昨日の事を思い出して、思わず顔をそらした。
「佐々木くんも座って」
鈴木さんに勧められて僕は梶さんの向かいにある簡易的な腰掛ける場所を見つめて腰を下ろした。
座ってみると少し固い。
「そこはダンボールを並べて布をかけてあるの、ソファーに座ってもいいんだよ?」
「いや、僕はこっちで大丈夫」
すると鈴木さんは梶さんと僕を交互に見ると…ポスッと僕の隣に座った。
「す、鈴木さんは向こうに座った方が…」
「でもこの方が二人と話しやすいから」
鈴木さんは席を移動する気は無いようでお弁当を広げてしまった。
昨日から鈴木さんの行動には驚かされてばかりだった。
「でもさ…もう少し詰めればクラスの男子も一緒に食べられたんじゃない?」
僕は梶さんの隣の空間を見た。
ソファーは大人が四人は座れる大きな物だし、僕らが座っている場所もダンボールを下ろせばまだまだ人が座れる。
「そうだね、でもここには案内したくなかったから」
「なら…」
鈴木さんの顔を見るとニッコリと笑っていた。
鈴木さんの言葉に「僕は?」と聞きたい気持ちをグッとこらえた。
クラスのマドンナ鈴木さんがカーストビリの僕にキスの練習させてと迫ってきた。 三園 七詩【ほっといて下さい】書籍化 5 @nawananasi
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