第2話 マドンナからの挨拶
僕はその日どうやって家に帰ったのか記憶が無かった…夜に何を食べたのか?気がつけばお風呂も済ませてベッドで寝ていた。
「ありがとう」
目をつぶると鈴木さんの笑顔が頭に浮かんで眠れない!
明日の放課後、あの鈴木さんとキ、キ、キス…
「うわあぁぁ!」
「うるさい!」
思わず叫び声をあげると母から叱咤を受ける。
僕は布団を頭から被ると羊の数を数えた。
しかしいくら羊が頭の上を飛んでも一向に眠くならない…しかし少し頭が冴えて冷静になってきた。
いや、待てよ。
相手はあの鈴木さんだぞ、クラスの男子の誰もが付き合いたいと思っている相手だ…そんな彼女が好きになった相手が断るはずもない。
ならこんな練習はいらないんじゃないか?
でもそうなると相手は誰だろう…
僕は胸がギュと締め付けられた。
彼女はボッチの僕にも唯一優しく話しかけてくれる女の子だった。
別に付き合いたいなんてそんな高望みはしない、ただ彼女と同じクラスと言うだけで嬉しかった。
でもそれは彼女が誰とも付き合ったりしなかったからだ…
女子にも男子にもモテる彼女は入学してから毎日の様に男から告白されるが今まで誰とも付き合った事がない。
そんな彼女に半年もすると周りは彼女は誰とも付き合う気は無いと判断されて最近は告白の回数も減ってきていた。
そんな鈴木さんの好きな男…一体誰だろう。
まさか三浦?
鈴木さんと三浦がくっ付いて歩いている姿を想像して飛び起きた!
嫌な妄想にブンブンと頭を振ってその考えを追い出した。
「あいつはない!あいつはダメだ…」
明日彼女に聞こう、それでもし三浦なら手伝えないって言おう。
あいつの為に鈴木さんの練習に付き合うのだけは耐えられなかった。
あまり眠れずに僕は朝を迎えた…
もそもそっと起きて朝食を食べると「いってきます…」と元気なく家を出た。
こんなにも学校に行くのが憂鬱な事は無い。
まぁ元からそんなに好きではなかったが、今日は一段と足取りが重かった。
しかし進めば学校は近づく、こんな時に限って信号は全て青ですぐに学校にたどり着いてしまった。
上履きに履き替えて教室へと向かうといつもならほとんど教室に人が居ないのに今日は来るのが遅れたのでほとんどの人が教室にいた。
僕はそっと後ろから目立たぬように入って席に向かおうとすると…
げっ…
僕の席のそばに三浦がいた。
一番見たくない顔だ…そんな三浦は朝からご機嫌に喋っていた。
その相手は…鈴木さんだった。
鈴木さんは僕の席の後ろだ、名前順で彼女の前に座る僕にクラスの男子は嫉妬していた。
席に座って教科書を眺めている彼女に僕の席に友達らしき女子が座って話しかけて、その横に立って三浦達が一緒になって話している。
僕は席に座れずに立ち尽くしていると話に加わることなく下を向いていた鈴木さんが僕に気がついた。
その瞬間鈴木さんの顔がパッと輝くのがわかった。
僕はまた目を逸らしてしまう…
嫌だってやめて欲しい…あんな嬉しそうな顔をカーストビリの僕に向けないで欲しい。
勘違いしてしまいそうになる。
気のせいかもと思って後ろを見るが自分の後ろには誰もいない、ただ扉があるだけだ。
「おはよう!」
すると鈴木さんから挨拶をされる。
誰に言ったのだろうと前を向くと鈴木さんがニコッと笑ってこちらを見てもう一度口を開いた。
「佐々木くん、おはよう」
「お、おはよう。鈴木さん」
僕はそう返すと足がビクッと止まった。
クラスのほとんどの人が僕と鈴木さんを見ていた。
目立たない僕に彼女が挨拶をするのが信じられないと言うように…
「レイナ、佐々木と仲良かったっけ?」
友達の梶さんが僕を見て鈴木さんに聞いた。
「昨日仲良くなったの、ね佐々木くん」
「ま、まぁ…」
僕の机には梶さんが座っているからどうしようかと思っていると…
「ほら、アヤカそこは佐々木くんの席よ。退いてあげて」
「ああ、ごめん。はい、佐々木温めておいたよ」
梶さんは笑って席をたつと三浦に邪魔と押して鈴木さんの横に移動した。
「なっ!」
鈴木さんと梶さんは僕に道を譲ると席へと座らせてくれる。
「チッ!」
三浦は面白くなさそうにその場を離れると仲間も一緒に居なくなった。
ホッとして席に座ると鈴木さんと梶さんに見つめられる。
「どうしたの?朝からなんか疲れてるね?」
「佐々木、体力なさそうだもんね」
鈴木さんは心配そうに顔を見つめてくると、梶さんは僕の腕を触って笑っていた。
「ちょ!アヤカ触らないの!」
すると鈴木さんは慌てて梶さんの手を離した…
僕は何が起きてるんだとパニックになる。
何も言葉を発せずにいると先生が教室に入ってきてしまった。
「ほら、アヤカは席に戻って!」
鈴木さんに押しやられて梶さんは仕方なさそうに形を上げて席に戻った。
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