クラスのマドンナ鈴木さんがカーストビリの僕にキスの練習させてと迫ってきた。

三園 七詩【ほっといて下さい】書籍化 5

第1話クラスのマドンナ鈴木さん

「おい!佐々木~これもよろしくなー」


クラスの男子の三浦ツヨシがニヤニヤと笑いながらゴミ箱を押し付けてきた。


今は下校前の掃除中、僕は教室の担当で他にも同じ班の男子が数人いるがみんな帰り支度を整えて掃除する気はゼロだった。


三浦は背が高くて顔がいい、頭もそこそこで女子からも人気がある。


だが性格は最悪だ!


「え?で、でもみんなも掃除当番だろ?」


言っても無駄だとは思いつつ、恐る恐るそういうと三浦はチラッと窓際を気にして視線を送った。


見るとクラスの人気者の鈴木さんが友達と笑いながら談笑している。


ああ、なるほど。自分が上だと見せつけて鈴木さんの気を引きたいと考えているのか…


「三浦くん、カラオケ行ける?」


すると違う女子が笑いながら三浦のそばにきた、どうやらクラスの女子とこれから遊ぶ約束をしているようだ。


「大丈夫だよ、佐々木が全部変わってくれるってさ。なぁ佐々木…」


三浦はニコッと笑って俺を見下ろした…


「えー?佐々木くんいいの?なんか悪いよー」


全然悪いと思っていない女子は頑張ってと笑いながら教室を出ていった。


「じゃ、よろしくな」


三浦はゴミ箱を投げ捨てると友達を連れて女子のあとを追った。


「はぁ…」


僕は散らばったゴミを拾って教室の掃除を軽く済ませると誰もいなくなった教室を出て焼却炉に向かった。


「クソ! 痛っ!」


ガンッ!と焼却炉を蹴飛ばすが蹴った足の方が痛い。


僕はもう一度ため息をついて、大人しくゴミを焼却炉に投げ入れた。


しばらく戻る気にもなれなくて焼却炉を見つめていたら周りに人の気配が無くなる。


校庭で聞こえていた声も少なくなり僕は帰ろう…と教室へと戻った。


教室に入ろうと扉を掴んで小窓から中を見ると教室の中に人の影が見えた!


三浦達が戻って来たのかとサッと隠れる、でも荷物は教室の中だ、入らないことには自分も帰れない。ドキドキしながらそっと中を覗くと窓のそばに人が立っている…開いた窓からの風に髪がなびいていた。外からの逆光に顔がよく見えないが髪の長さとシルエットから女の子だということはわかった。


女子が一人で教室に?


何をしているのかと見ていると彼女は束ねられたカーテンを掴んで顔を近づいていく…


まさか…キスを?


気になり身を乗り出して覗き込んでしまうと、扉に足が当たってしまった!


ガタッ!


「!!」


彼女は音に反応してこちらを向いた。


「佐々木…くん?」


顔の見えない彼女の声に聞き覚えがあった。


「鈴木さん?」


ズンズンと近づくシルエットは鈴木さんだった、僕に向かって歩いてくると顔のすぐ側で停止する。


「佐々木くん、見た?」


必死な顔で問い詰められる。


「あっ、えっと…その…」


見てないとはっきり言えば良かったのにあまりの近さにしどろもどろになってしまう。


彼女はその反応に見られたと判断してしまったようだ。


「ち、違うのあれは練習で…好きな人とするのはどんなかなって……お願い!見なかった事にして!」


鈴木さんは細い眉をグッと下げて泣きそうな顔で手を合わせて頼み込む。


僕はこんな状況なのに可愛い子はどんな顔でも可愛いんだと思ってしまった。


返事を返さない僕に彼女は頭を下げ続けていた。


「だ、大丈夫!誰にも言わないよ」


僕が慌ててそう返すと彼女は顔をあげてホッとした顔を見せた。


「ありがとう、やっぱり佐々木くんって優しいね」


鈴木さんはニコッと笑って大きな瞳で上目遣いに僕を下から覗き込んで見つめてくる。


彼女のなんだか熱い視線に思わず目を逸らしてしまった。


「じゃ、僕はこれで…」


ゴミ箱を置いて鞄を掴むと居心地悪く教室を出ようとすると彼女が扉の前で待っていた。


「鈴木さん、帰るから退いてくれる?」


立ちふがる様にいる鈴木さんにうかがうように声をかけると鈴木さんはニコッと誰もか見惚れるような顔で笑った。


「佐々木くん、見られたからお願いがあるの…私の練習に付き合ってくれない?」


「れ、練習?なんの…?」


鈴木さんの言葉に僕は警戒した。


「なんのって…さっきの事…」


鈴木さんは言葉を濁して恥ずかしそうに頬を染めた。


「まさか、さっきのって…キ…」


僕がキスと言おうとすると鈴木さんは言葉を遮るように声をあげる。


「だって、カーテンだと感じが出なくて…こんな事佐々木くんにしか頼めない」


「僕にしかって…」


見られたからだよね?


そんな大事な事を好きでもない男でするべきじゃないと僕は断ろうとした。


「鈴木さん、そう言うのはもっと違う人とした方が…」


「他の人なんていや、佐々木くん…ダメ?」


鈴木さんに縋るような顔で見られて腕の裾をそっと引っ張られる。


そんな可愛い仕草に潤んだ瞳で見つめられて断れる男子がいるなら手を挙げて欲しい!


というわけで僕には断れなかった。


「わかったよ…」


「ありがとう!」


鈴木さんは顔を輝かせて僕の手をギュッと握った。

彼女の手は熱く柔らかかった。


「じゃあ明日の放課後…みんなが帰ったら教室で待ち合わせね」


「う、うん」


「佐々木くん本当にありがとう!」


鈴木さんはいい笑顔でくるっと回ると短いスカートが翻る。


スラッと長い足が見えてあと少しで下着が見えそうになるがギリギリで見えない!


「さよなら」


鈴木さんはニコッと笑って夕日を浴びて輝きながら教室を出ていった…


僕は呆然としてしばらくそこに佇んでいた。

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