第21話
「こ、今度から気をつけなさいよねっ!それで、恋の決着についてだけど…」
私は下唇を噛んで下を向く。
…もう、聞きたくないのに…。わかってる。彼方くんが桃江さんを選んだことくらいわかってるよ。もう、やめて…。
「私、振られたから。」
「…っ⁉︎」
一瞬理解が追いつかなかった。急いで桃江を見つめる。嘘をついているようには見えない。というか、もう疲れたような顔をしてる。
「あいつ、私の魅力に全然気付いてないの。私とは全く釣り合わないわ。あんたにあげる。」
「でも抱き合って…」
「は?まだ誤解、解けてないの?あれは私が勝手に抱き付いただけよ。わかんない?あいつは私のことなんて微塵も頭にないの。」
桃江さんのことが好きじゃないなんて…。なら彼方くんが本当に好きなのは誰?桃江さん以外に彼方くんが好きな人がいるの?もしかして彼方くんと同じクラスの女子?桃江さんよりもかわいい女子?桃江さん以上の人がいるの?
考えれば考えるほど頭がぐちゃぐちゃしてくる。
「じゃ、言うことは言ったから。あとはあんたからの報告を聞くだけよ。恋の決着の報告、楽しみにしてるわ。」
フッと微笑んだ桃江は少し寂しそうな目をしてた。
「ごめんっ!」
俺の発表途中に彩乃は図書室を出て行った。そのあとはもうダメダメだ。本の説明なんて上手に出来ないし、時間はすぐに終わっちゃうしで全く説明出来なかった。
まぁ、みんなあんまり俺の話聞いてなかったんだけど…。
俺の持ち時間が終わり台から降りると流星が駆けつけてきた。
「彼方、いいのか?」
「ビブリオバトルのことか?別にいいさ。俺はもともと説明が下手だったし、言えることは言ったから。」
「そうじゃなくて、虹谷のことだ!追いかけろよ。公開告白したようなもんだろ⁉︎」
今更ながら自分のしたことの恥ずかしさが込み上げてくる。俺は流星を引っ張って図書室を出た。流星は司会の仕事があるが、一人持ち時間は5分だから少しくらいは話をしても大丈夫だろう。図書室前の廊下はもう部活が始まってる中途半端な時間のせいか、人の気配が全くなく誰もいない。
「お前はいいのかよ。」
流星の気持ちを無視してまで彩乃に告りたいわけじゃない。
「何のことだ?」
すっとぼける流星に怒りが募る。流星の胸元を掴むと俺は精一杯の声で言う。
「彩乃のことが好きだったんじゃないのか⁉︎」
すると流星はポカンとした間抜けな表情で俺を見た。
「俺が?虹谷のことを?」
「あぁ、そうだよ!違うのかよっ‼︎」
そんな俺とは対照的に流星は落ち着いた態度で答える。
「好きになった…と思う。…さながいなければな。」
…?
「さながいなかったら多分彩乃に恋してたかもしれない。だが今の俺はさな一本だから」
さ、さな?さなって誰だ?
「あれ?言ってなかったか?水野さなは俺の彼女だ。」
…。
「ハァァァァッ⁉︎⁉︎⁉︎」
待て待て待て!
「それじゃあ俺が今まで嫉妬してきたこれは何だったんだ?今までの苦労は?彩乃の心は誰のものだ?」
「苦労とか、嫉妬とかは知らないし、関わるつもりもさらさらないが、最後のは直接虹谷に聞いた方がいいんじゃねぇか?」
流星の言う通りである。俺は申し訳ない気持ちいっぱいで流星のことを見た。胸元を掴んでいた手をゆっくり離し、勢いよく頭を下げた。
「すまんっ!全部俺の勘違いだ!…いや、待てよ?そういやキスしてなかったか?」
「は⁉︎誰とだよ⁉︎」
「彩乃と。」
流星はブンブン首を横に振ったあと緊張したように周りを見渡した。誰もいないことを確認すると安心したように肩を下ろし俺を睨む。
「んなわけねぇだろ!てか、そういうことあんまり大声で言うな。さなに聞こえたら大変だろ!」
どうやら彼女がいたらいたで大変みたいだ。
「…なんか、色々ありがとな、流星。あ、彩乃のいる場所って知ってるか?」
「知らねえけど、さっき裏庭の方に行ったのは見てたぜ。…あ、ヤベッ!司会の仕事しねぇと!じゃあな!」
図書室のドアに手をかけた瞬間流星は動きを止めて振り向き俺を見た。
「最後に恋愛経験者からこれだけは言ってやるよ。」
少しイラッときたが一応黙って流星の次の言葉を待つ。
「後悔だけはすんなよ。」
まるで映画のワンシーンのような親友にやっぱり少しイラッとしながら俺にできる限り、精一杯胸を張る。
「もちろんだ!」
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