第20話

「今日って、ビブリオバトルの当日だよね?」

「うん…」

「…なんか彩乃…この頃心ここに在らずって感じだね?」

まさにその通りだ。私の頭には彼方くんしかいない。本当にありえない!保健室の先生には感謝してはいるけど、まさかよりによって彼方くんに背負われてしまうなんて…。あれから気まずくて全然話しかけてない…というより話しかける機会がなかった。私、寝てる間に変なことしてなかったかな…。不安しかない。

「おーい、彩乃〜!ボーッとしてるけど大丈夫?」

「大丈夫…じゃない…」

放課後になるとビブリオバトルのために図書室に生徒たちが集まり始めた。来てくれる人は少ないかと思ってたけど思いの外たくさんの人が来てくれていた。特によく図書室に来ている常連は多分全員来ている。

「もうすぐだな」

「うん。」

そこまで言ってハッとし口元を押さえ横を見た。

…彼方くんっ⁉︎

「どうかした?」

「う、ううん。大丈夫だよ、彼方くん。ビブリオバトル、頑張ってね。」

いつもの会話のはずなのに何倍も緊張して上手く言えてるかわかんない。そんな私を悲しそうに彼方くんは見つめる。

「うん、頑張るな。じゃ。」

その後は順調に進んだ。黒田くんは元放送委員だったみたいで、すごくハキハキした声で上手に司会を努めていた。原稿は桃江さんが作ったらしい。彼方くんは三番目に発表する。最初の人は緊張していたのかつっかえつっかえでなんとか話し終えたという印象だ。二番目の人はちゃんと準備をしてきたみたいでまるで暗記した原稿を読んでいるかのようなスラスラした感じで話していた。だけど全く心に響か無い発表だ。

次は彼方くんの番だ。

なんか、私まで緊張してきた…。

彼方くんはいつもどおりの明るさで台に上がっていく。そして彼方くんが取り出した本は…。

「えっ…」

あの本って…。

私が最初に彼方くんと当番した時に図書室前で,読んでた本だ。

彼方くんも読んでたんだ…。

驚きながら彼方くんを見つめるとしっかり目があった。私の目を見つめながら彼方くんは話す。

「俺がこの本を読もうと思ったきっかけはすごく簡単なことです。俺の好きな人が読んでいたからです。」

桃江さんもあの本、読んでたのかな?

そんな私とは違い周りの人はザワザワと騒いでいる。当たり前って言っちゃ当たり前だろう。学校の中で一二を争うイケメンが好きな人がいるって公言したのだから。

「俺の好きな人は本当に本が好きで、すっごい尊敬してます。そんな彼女は多分俺の気持ちに,なんて気づいてません。だからこそここでアピールします!この本を、読んでいた女子!俺は君が好きです!」

胸が苦しくなる。桃江さんも、この本を読んだことがあったんだ…。それ以上に、私の読んだことのある本で桃江さんの愛を語るのはやめてほしい。胸が苦しくなって立っているのもやっとだ。

「ちょっと来なさいよ」

急に話しかけられてパッと振り向くと桃江が立っていた。

「な、何?」

「決着をつけましょう。」

決着?決着って…。

「えぇ、恋の決着よ。というかこの前も言ったわよね?」

恋の決着なんて、もうついてるじゃない…。これ以上、聞きたくないよ…。

図書室はまだ彼方くんに好きな人がいるというざわめきが冷めていない。そのおかげで誰も私たちのことなんて見ていない。それどころか彼方くんの話を聞いてるかも曖昧だ。

もう…やだよ…。一人にして…。

口に出せない言葉が心の中で大きく響く。

「ごめんっ!」

私はそれだけ告げるとバックを手に学校の裏庭に駆け出した。裏庭にはベンチがある。その近くは放課後にも人が来たりする。だが、そこから少し離れた場所にはあんまり人はこない。そこには都合の良いことに私の秘密基地がある。秘密基地といってもただの木の枝で隠された空洞だ。使ったことはないけど前にたまたま掃除してて見つけた一人になるには絶好の場所だ。中に入るため、枝をかき分けようとした瞬間に後ろから声がした。

「はぁ…はぁ…ちょ、ちょっと待ちなさいよ!…はぁ…」

息を整えながら私を見る桃江の瞳には完璧に怒りが浮かんでいる。

「人が話してる途中で出てくなんて最低っ!」

「ごめん…。でも、あの場にどうしてもいたくなかったの。」

素直に謝った私に桃江のほうがたじろぐ。

「こ、今度から気をつけなさいよねっ!それで、恋の決着についてだけど…」

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