第19話

「そっか。なら大丈…」

そこまで言って頭が朦朧とした。ハッと思った瞬間には目の前の全てがグルリとひっくり返って…。

夢か現実か分からない狭間で私はユラユラと揺れていた。頭の上に優しい何かが乗って…これも現実か、夢かなんてわからない。そこまで考えるほど頭が動いてない。

「……ない…。たとえ………俺は、やっぱり…」

…彼方くんの声?

膜がかからってるみたいにふわふわ聞こえる。

あっ…。

少しして頭の上に乗っていた暖かい何かが消えた。軽くなっただけじゃなく、ぬくもりも消えてしまった頭に少し寂しさが残る。

彼方くん…私の思いはあなたにとって重りにしかならないのかな?…それでもやっぱり、やっぱり彼方くんのことが……。

コツコツ

誰かが歩く音がどんどん近づいてくる。

「…さん、虹谷さん、起きた?」

「あ、はい。起きました。」

目が覚めると周りには彼方くんの姿などなく、隣に先生がいた。

「念のため、ご家族のかたを呼びましたよ?もうすぐくると思いますけど…」

「あ、はい。ありがとうございます。」

ペコッと頭を下げると微笑ましそうな顔をされた。

私、なんか変なこと言った?

「あら?気づかなかった?彼氏がさっきまでいてくれたのよ?」

「か、彼氏っ⁉︎わ、私彼氏なんて…か、彼氏なんていませんっ!」

あら?と先生は首を傾げる。

「本当に付き合ってなかったのね…。赤星くんよ。赤星くんがここまで運んでくれたの。」

「う、う、う、嘘ですっ‼︎…よね?」

彼方くんにはちゃんと桃江さんという彼女がいるのにっ!

「ほんとよ。」

恥ずかしさで布団の中にもう一度潜り込んだ。

「あらあら。」

まるで近所のおばさんのような声を上げながら先生は高らかに笑った。

先生のバカバカバカッ‼︎‼︎これから彼方くんに合わせる顔がないじゃない!

お母さんが来るまでずーっと頭の中には彼方くんしかいなかった。

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