第18話


「今日集まってもらったのは、ビブリオバトルの出場者の確認と、最後の見直しをするためです。えーっと、出場者はこの9人。」

ホワイトボードを指差しながらそう言った彩乃をさえぎって俺は手を挙げた。

「えーっと、彼方くん、どうかしましたか?」

彩乃とはあの当番の日から少し気まずい気がする。なんか距離を空けられてるような…。

「俺もビブリオバトルに出たいんだけど今からでも間に合うか?」

彩乃が驚きを隠すように口を塞いだ。

「俺、ギリギリなのはわかってるけどやっぱり出たいなって思って…」

「多分、大丈夫…」

彩乃はホワイトボードに急遽赤星彼方、俺の名前を追加した。

「これで、出場者の確認は終わり。司会の原稿はこれを元に作って私が当日読むね。」

また1人で終わらそうとしてる。頼ってくれていいのに。

そう言おうと口を開きかけると隣の者が発言した。

「俺たちのこともっと頼れよ。今までたくさん虹谷はやってくれたんだから原稿作るのと当日の司会は俺たちに任せてくれていいぜ?」

俺が言いたかったことを全部流星に言われ少し胸がむずむずする。

俺が、言いたかったのに…。

そう言いかけた心に急いで蓋をする。

何を考えてるんだ俺は!彩乃の負担をなくすことを流星も考えてくれてるんならそれほどいいことはねぇじゃねぇか。

「俺もそれは賛成だ。俺たちにその仕事は任せてよ」

「でも…」

「大丈夫、任せろって。」

「…うん。ありがとう!」

その一言で空を飛べるんじゃないかってくらい胸が軽くなる。

この恋、重症だな…。

「そういえば最後の見直しってなんだ?」

「最後の見直しって言うのはまぁ仕上げみたいなものかな。足りないものがないか確認するだけだよ。今思いつくものとかある?」

俺たちは揃って首を振る。

「そっか。なら大丈…」

バタン

最初は何が起こったのか分からず図書室特有の静けさに包まれた。たっぷり2秒ほど経ってから俺たちは彩乃に駆けつける。

「おい、大丈夫かっ⁉︎」

倒れた彩乃はピクリともしない。まるで眠り姫だ。

「不用意に動かさない方がいい。保健室の先生を呼んでくる。」

そう言うと落ち着いた様子で保健室へと流星はかけていく。残された俺は何をすればいいのか分からず突っ立っているしかやることがない。

バタバタとかける音がしてあっという間に先生は彩乃の診察をする。少ししてから安心したように息をついた。

「あ、彩乃は…」

「虹谷さんは大丈夫よ。多分貧血だと思う。脈も安定してるし、少し寝て栄養とって…そしたら多分大丈夫よ!」

ホッと安心する。誰もいなかったら多分床に座ってしまったかもしれない。

「赤星くん、運ぶの手伝ってくれない?」

「は、はい。どうすれば…」

「手!」

「手?」

先生が急に両手を前に出したので俺も同じようにだす。先生はゆっくり彩乃を動かすと両手を前に出したまんまの俺の腕の上に彩乃を乗せた。

「ちょっ、せんせえ⁉︎」

「あら?彼氏じゃないの?」

ふふふっと可愛いものを見るような目に恥ずかしくなり目を退ける。

「ち、違います…」

「ふふっ、そうなの。なら良かったじゃない。さぁ、行くわよ!早く保健室に連れて行かないとね!あ〜、青春っていいわねぇ〜」

先生に反論したいが反論できない。反論よりも彩乃を抱える手に全ての思考が持っていかれる。今まで触ったことのない感触に一つ一つの動き全てに緊張してしまう。何とか保健室につき安心でもあり、名残惜しくもありながらベッドに彩乃を置いた。

「ちょっと先生、職員室に言って虹谷さんの担任に言ってくるから起きた時に説明するために赤星くんはそこで待ってて!」

「えっ?ちょっと待っ…」

パタンと無情にも扉は閉められた。仕方なく彩乃と向き直る。少し髪が乱れていたので手を伸ばして直そうとすると寝返りをして俺に近寄ってきた。

「なぁ、彩乃。お前はどう思ってるんだ?俺のこと。俺は好きになっちゃったかも知れねぇのに、彩乃の気持ちは流星のところにあるのか?」

髪を整えるつもりが頭の上に手を置いてしまった。そのまま撫でてしまう。

「あ〜、ダメだ…。」

いつものようなキリッとした顔とは違って完璧に無防備で柔らかい表情をしている。このまま離れたくない。

「ん…んんぅ〜…」

頭に置いた手に擦り寄るような彩乃に胸が飛び出すんじゃないかってくらいドキドキと音が鳴る。

「もうさ、俺、諦められない…。たとえお邪魔虫だったとしても俺は、やっぱり…」

「赤星くん〜、虹谷さん起きた?」

バッと急いで手を頭から退ける。

「い、いえ、まだ起きてませんっ!」

先生が疑うような目で俺を見つめる。

「虹谷さんに何もしてないでしょうね…」

「…。」

「冗談よ、冗談♪あとは私が見てるからもう大丈夫よ〜。」

失礼しました…と俺は急いで保健室を去った。まだ彩乃が心配だけど先生がいるのにこれ以上俺がいる必要がない。

「どうだった?」

保健室をでると流星と桃江が立っていた。

「桃江さんも心配だったんだな。」

「別にあの子のことなんてどうでもいいわ〜。」

プイッと顔を背ける桃江は本当に彩乃のことなんて気にしてないようだ。

「で、虹谷は?」

「ただの貧血だって言ってたろ?少し寝てれば大丈夫だ。気になるなら入ってみればいいじゃんか。」

「保健室は嫌いだ…」

そうだった。流星は確か保健室の消毒のにおいが嫌いだったんだよな。

「そんなことより、原稿を作りましょーう?司会も決めなくっちゃいけないしね〜!」

「あぁ、そうだな…」

そう答えたものの俺の頭の中には彩乃しかいなかった。

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