第17話
家になんとか帰り制服を着替えることもせずに布団に転がった。
「あれって、現実だよね…」
いまだにみたあの光景を信じられない自分に言い聞かすように呟く。何故か目から水が溢れでる。
そこまで悲しいわけじゃないのに…とまってよ!
そう思っても涙は止まらず次から次へと溢れてくる。心は落ち着いてるのに体がそれに反してしまう。そこまで悲しくないのに涙がでて、そこまで悔しくないのに強く手を握って…。手が勝手に動いてスマホのLINEを開く。
「彼方くんっ…」
LINEの友達のところにある赤星彼方という名前を見るだけで胸が締め付けられた。
彼方くんの幸せを願ってるはずなのにどうしてこんなに…。
その理由はすでにわかってる。だけど向こうには相手がいるのにそれを認めるのが嫌で目を背けてしまう。だけど私の頭の中で自分が叫んでいる。
私は彼方くんがすごく好きなんだって。
プルルル
LINEを開いていたスマホの画面に水野さなの文字が表示された。
「もしもし?」
『あ、彩乃?なんか元気なくない?』
「…」
『おーい、聞こえてるぅ〜?親友でしょ?何かあるんなら言って!私は、彩乃の味方だよ。』
「…。私、私っ…」
そのままダムが崩壊したように私は今までの経緯を全てさなに教えた。もう、限界だった。
「私っ、ひどいよねっ…グスッ…。人が誰かと付き合ってるのを嫌だなんて思うなんてっ…。」
『彩乃、誰でもそんくらい思うよ。彩乃は悪くない!』
キッパリと言い切ったさなに心が救われていくのを感じる。
私、だけじゃない…?私、は悪くない…?
『私は、彩乃の味方だよ。』
もう一度言われたその言葉が胸の中に染みる。頑なに固まっていた何かがドンドン溶かされる。
「私っ…」
『大丈夫、ゆっくりで大丈夫。ずーっと聞いてるよ。』
その夜は一生分の涙を使ったんじゃないかってくらい泣いた。だけど今まで胸の奥につっかえてたものがその夜は消えた気がした。
「おい」
聞きなれた声がして俺は後ろを振り向く。
「よ、流星。当番やってくれてありがとな。」
「…」
流星は無言のまま俺に詰め寄ってくると胸元を掴まれた。
「な、なんだよ急に…」
「桃江と付き合ってんのかよ。」
「は?何言って…」
もしかして桃江といた時の、みられてたのか?
「お前がそんなんなら虹谷はあっという間に他のものになるぞ」
他のものって…。もしかして流星、彩乃が好きなのか?だってキスまでして…。
「流星ならいい。彩乃をあげるよ」
その方が彩乃は幸せになれるのならば、それでいい。
胸の痛みは見て見ぬふりをする。
「は?何言ってんだ?それより桃江と付き合ってんのかって聞いてんだ!」
「なんで流星がそういうふうに思ってんのかわかんないんだけど?俺、別に付き合ってない」
「じゃあなんで抱き合ってっ…。」
あー、やっぱみられてたか…。
「あれは、向こうから抱きついてきたって言うか…。でも俺は別に桃江をそういう目でみてないから。」
流星がポカンとした目で俺を見つめる。
「じゃあ、勘違い…?」
「何を勘違いしたかは知らねぇけど付き合ってないから」
途端に流星は哀れみを帯びたような目で俺をみてきた。
「なんて間が悪い…。とにかく、虹谷とちゃんと話せよ。」
それだけ言うと親友は歩き出した。そんな後ろ姿を俺は動けないままみつめる。
結局、なんだったんだ?最初から最後まで言ってる意味が意味不明だし、結局彩乃と流星はどういう関係なんだよ…。
考えれば考えるほどただこんがらがるだけの脳みそをなんとか切り替え首を傾げながら俺は歩き始める。
流星の言ってることはとにかく意味不明だった。だけど俺の気持ちには区切りをつけなきゃいけないはずだ。
俺はある決心をして下校した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます