第8話

先に言ってもらって待たせるのは悪いよな…。そう考えた俺は仕方なく掃除が終わるとすぐに図書室に向かった。いつもより全然早く掃除を終わらせたはずなのに先に虹谷が着いていた。図書室のドアが開くのに邪魔にならないように少しずれたところで本を読む姿は結構目立っている。何より驚いたのは虹谷が微笑んでることだ。今更ながら虹谷と一緒の当番になれたことの嬉しさを噛み締める。まぁ、なんで嬉しいのか?って言われると言葉に詰まるんだけど…。

「ふふっ…」

「そんなに面白いのか?」

「うわぁっ⁉︎」

ついつい声をかけると思いのほか驚かれてしまった。少しのけぞるような虹谷に申し訳なく思って少し体を引く。

「ごめん、読み終わるまで待とうかと思ったんだけど、長そうだし、図書室の掃除終わってるし、面白そうに笑ってたから気になっちゃって…」

「う、ううん…。ちょっと驚いただけだから気にしないで…。じゃあ、当番始めましょうか?」

「あぁ。」

虹谷はやっぱり真面目で当番の手順を書いた紙をカウンターに置いてあった。

その後も話をしたんだが少し敬語が気になって敬語じゃなくてもいいと言った。

「あ、ついでに彼方って呼んでくれて構わないから。」

すると少し困ったような顔になった。

あ、別に苗字でも大丈夫だからな。と言う前に虹谷は答える。

「わかった、彼方くん。私のことも、彩乃って呼んでくれて構わないよ。」

彩乃…か。

「じゃあ、これから一緒に当番頑張ろうぜ!」

「う、うんっ!」

っ⁉︎にじ…いや、彩乃が笑ってるっ⁉︎

「?どうした?」

気になって近寄られて俺は急いで横を向く。不意打ちはひどい…。

「…いや、なんでもない…。あ、この本たち、元の場所に戻さないとだよな。」

急いで話を逸らしたがそれに彩乃は気づかなかったようだ。

「うん、でも来た時に当番が来ないと困るから彼方くんは当番お願いできる?私、戻してくるから。」

「も、もちろんだ!」

少し噛んだが彩乃はまたもや気づかず作業を続ける。

とことん俺の調子を狂わす女子だ…。

「えいっ!」

カウンター仕事に慣れてきた時奥の方で声がした。この声は多分、彩乃だ。何をやってるんだ?近づくと何をしてるかがわかった。

あんなに高いところくらい俺に頼ればいいのに…。

手伝おうとして近づこうとする途中…。

「あっ…」

おいっ⁉︎

手を滑らせて図鑑は彩乃に一直線だ。こういうときばかりは部活で鍛えてる反射神経が役に立つ。バシッと図鑑を掴んで縮こまっている彩乃を見る。

「大丈夫か⁉︎」

弾かれたようにこっちを彩乃は見た。

「か、彼方くんっ!」

「危ねぇ…もう少し遅かったらぶつかるところだったぁ〜…。危ないから本を戻すのは俺がやるよ。彩乃はカウンターで貸し借りをやってくれ。」

「…はい。…本当に…ごめんなさい…」

ショボンと頭を下げた姿が近すぎて気がつくと…。

「無事でよかった。謝ることねぇよ。人それぞれ適材適所があるんだし。俺こそ、すぐにわかってやれなくてごめんな。なんかあったら頼れよ?じゃあ。」

頭の上に手を乗せてしまっていた。

驚いた色が浮かぶ彩乃の目が近くて自分がやったことの意味を理解した。てか、至近距離すぎっ‼︎

恥ずかしさを隠すように彩乃の手の中の本を持ち上げて歩き出す。

「…へっ?」

後ろから戸惑ったような彩乃の声が聞こえる。

うわぁ…やっちまった‼︎

顔が真っ赤なの、彩乃にバレてるかな?不安だったが振り向くのは逆効果だ。仕方なく仕事を続けた。仕事が終わって帰る時彩乃に、「図鑑の件はありがとう!助かった。これからもよろしくね!」と言われた時にすごく安心したのは言うまでもない…。

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