第7話

当番決めをしてから初めての金曜日。

「でねぇ、流星がね…って彩乃、ちゃんと聞いてる⁉︎」

「そんな惚気を聞いてる暇なんか私にないの。っていうか、緊張しすぎて倒れそう…」

すると意外そうに眉を上げながらさなが微笑んだ。

「彩乃もそんなことあるんだ。いつも冷静で何があっても大丈夫!って顔してるけど?」

そんなわけないでしょ。私はロボットか!

「私だって緊張するよ?」

「そうは見えない。いつもと表情変わんないし。」

まぁ、確かに私、感情を表すの苦手だからそう思われても仕方ないか…。

「でもね、心の中は大波で嵐だから。」

「そっか…」

そういうと何故か嬉しそうにさなは笑った。

人の気持ちも知らないで笑うなんて…ひどいっ!

「ごめんごめん。まさか彩乃と恋バナできるって思ってなかったから嬉しくて…。まぁ、頑張って応援してる!」

「ありがとう。」

そして、放課後。いつもより少し早めに掃除を終えて、いつもより少し軽い足取りで図書室に向かった。図書室はまだ掃除中で、ドアの前で待つことにした。暇なので鞄に入れておいた本を取り出して読み始める。

私の読む本は毎回絵で選んでる。絵が可愛い本はすごく読みたくなるし、気分もめちゃくちゃ上がる。今回も本も、絵で選んでいた。表紙には大人しそうな可愛い女の子がとてつもなく長い鉛筆を持ってこっちをみてきている絵が書いてある。中は期待を裏切らない面白さだ。この子は絵の通り大人しい子なんだけど、鉛筆ひとつですごい絵を描ける。この力を使ってどんどん成長していく話だ。

「ふふっ…」

少しコメディー要素も入ってて飽きないし、面白い。

「そんなに面白いのか?」

「うわぁっ⁉︎」

声をかけられて前を見ると超至近距離に赤星が立っていた。

「ごめん、読み終わるまで待とうかと思ったんだけど、長そうだし、図書室の掃除終わってるし、面白そうに笑ってたから気になっちゃって…」

「う、ううん…。ちょっと驚いただけだから気にしないで…。じゃあ、当番始めましょうか?」

「あぁ。」

カウンターには一つの紙がある。当番のやり方を書いた紙だ。

「これ、書いて置いておいてくれたのか?」

「はい。みんな初めてだからわかんないかなって思いまして…。嫌だったら退けますけど?」

「いや、大丈夫だ。てか、敬語じゃなくてもいいぞ?同じ執行部でこれから仲良くやってくんだし同級生だし。」

いやいや、さすがに恥ずかしい…。

「あ、ついでに彼方って呼んでくれて構わないから。」

彼方…。さすがに呼び捨てにするわけにはいかないか。

「わかった、彼方くん。私のことも、彩乃って呼んでくれて構わないよ。」

少し馴れ馴れしすぎたかな?と反省していると嬉しそうに彼方は微笑んだ。

「じゃあ、これから一緒に当番頑張ろうぜ!」

「う、うんっ!」

つられて私も笑顔になる。すると何故か彼方はピタッと動きを止めた。

「?どうした?」

気になって近寄ると彼方の顔にスッと朱が混じった。

本当にどうしたんだろうか?

「…いや、なんでもない…。あ、この本たち、元の場所に戻さないとだよな。」

「うん、でも来た時に当番がいないと困るから彼方くんは当番お願いできる?私、戻してくるから。」

「も、もちろんだ!」

彼方がカウンターで返却作業を開始したのを確認して私は本を戻しにかかる。図書室は毎日行ってるからどこにどんなものを置けばいいのかはすぐにわかる。

まず最初は…図鑑?これ、昆虫の図鑑だ。確か図鑑関係は…。

図鑑のところまで行って青ざめた。図鑑は結構高いところにあって、背があまり高くない私は取ることはなんとかできても入れることができない。

「えいっ!」

手を伸ばして見るがやっぱり入れられない。

一年のときと同様に入れられないのは背が伸びてない証拠だろうか?

そんなくだらないことを考えながらどうにか入れようと奮闘する。

「あっ…」

スッと手を滑らせて図鑑が手から離れてしまった。落ちてくる先はどう考えても私の頭だ。私はあんまり反射神経がいい方じゃない。グッと目をつぶって下を向く。

図鑑だから絶対に痛いよね?どうか、角だけは当たりませんように!出来るだけ痛くありませんように!

だがいくら待っても痛み、いや、それどころか床に落ちたり私に当たる音が全くしない。だんだん緊張で固まっていた五感が戻ってくる。だがやはり痛みは感じない。ただ、私のものじゃない粗い息遣いが聞こえる。

「大丈夫か⁉︎」

思いのほか近くで響いた声に驚いて目を開き顔を上げる。

「か、彼方くんっ!」

彼方の手にはさっき落としたはずの図鑑が…。

「危ねぇ…もう少し遅かったらぶつかるところだったぁ〜…」

それだけ言うと当たり前のように図鑑を元の場所に戻した。

「危ないから本を戻すのは俺がやるよ。彩乃はカウンターで貸し借りをやってくれ。」

「…はい。…本当に…ごめんなさい…」

頭を下げると何かあったかいものが頭に置かれる。ゆっくり顔を上げると手を私の頭に置いたまま彼方が言った。

「無事でよかった。謝ることねぇよ。人それぞれ適材適所があるんだし。俺こそ、すぐにわかってやれなくてごめんな。なんかあったら頼れよ?じゃあ。」

頭の上に乗せていた手を私の腕の中にある本に置き、そのまま本を私から持ち上げた。そしてスタスタ歩いて次の本を返しに向かってしまった。

「…へっ?」

今更ながらに何が起きたのかわからない私は彼方の背中と戻してくれた図鑑をみて絶句した。

えっ…何今の?へっ?はっ?ちょっ、ちょっと待って…。

いくら考えてもまとまらない思考のままカウンターに向かう。

カウンターに着く頃にはきちんと頭の中は整理されていた。

うん、あれは彼方くんが優しすぎるだけだ。そうとしか考えられん!

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