第5話

SHRが終わるとみんなはバラバラと帰っていく。

「虹谷さん、ちょっといい?」

話しかけられたことのない女子に話しかけられて私は首をかしげた。だがすぐに女子が向いてる方を見て納得した。図書委員執行部の呼び出しだ。

あの人は確か…副委員長の桃江美希さんだったっけ?

桃江さんはドアに寄りかかるようにして廊下に立っていた。

「今から、放課後図書室に集合らしいわよ。」

あれ?桃江さんってこんな人だったっけ?いつもはニコニコ笑ってるフレンドリーな人だけど…。

「ほら、早く荷物持ってきなさい。行くわよ。」

ハッとして私はカバンを持ってドアに戻ってくる。

「お待たせ。」

「私の邪魔しないでよね。」

へ?なんのこと?

そう聞く前に桃江さんはスタスタと歩き始める。

「邪魔ってなんのことですか?」

「私、今赤星彼方を狙ってるの。流星の方は彼女がいるらしいから。」

赤星彼方を狙ってる?なんのことだろうか?

聞く前にさっきほどと同じようにスピードを上げて歩き始めた。近寄るなという雰囲気が背中から漂ってきて近づくのをやめた。

「失礼しまぁ〜す!」

へ?さっきと全然違う。

図書室のドアを開けた瞬間ガラリと雰囲気が変わった。ニコッと笑顔を振りまく姿はカメラがあったら完璧にアイドルだ。

「あっ、赤星くぅーん!」

そういうと軽い足取りで赤星に近づいた。

あ、狙うってそういうこと。

今やっと理解した。

つまり、桃江さんは私が赤星のことを好きなのに気づいてる?いや、ただ釘を刺しただけ?

首を傾げていると黒田流星が近づいてきた。

「もう、始めた方がいい。桃江から聞いてるだろ?」

「ごめんなさい、何のために集まったのか聞いてません。」

黒田ははぁと息をついた。

呆れられた…かな?

「桃江、言っとけって言っただろ?」

どうやら桃江に対してため息をついたみたいだ。

「ごめーん!忘れてたぁ〜!」

「忘れんなよ。」

「でもぉ〜、そんなに怒ることはないと思うよぉ〜?」

コクリと首をかわいく傾げた。完璧に計算してやってる。

こんな典型的なぶりっ子って本当にいるんだ…。

黒田は仕方なさそうに私のほうをむいて教えてくれる。案外優しいらしい。さすがさなの彼氏だ。

「今日は誰がどこの担当をするのか決めるんだ。」

「わかりました。」

「まずはアンケートを見て執行部以外の人がどこを担当するのか決めるんだが…」

私はカバンの中から紙を取り出した。

「一応、まとめておきました。これが全員の意見を汲んだ場合の案です。」

目を丸くして黒田は紙を見る。

「これ、一人でか?」

「あっ、ごめんなさい。みなさんの意見も聞いた方がよかったですよね…。今からでよければみなさんと新しく作りましょう。」

「いや、いい。ていうか、ありがたい…。ありがとう…。だが今度からは俺たちも頼れよ。同じ執行部なのにお前に全部任せてるみたいだから。」

はい、わかりました。

「あ、そういや彼方とのこと、俺は応援するぜ。」

私は驚いて弾かれたように黒田を見た。

「なんでそのこと…」

「あ…さなに言うなって口止めされてたんだった…」

私は呆れながら黒田をみる。

もう、カップル揃って口が軽いのどうにかした方がいいよ…。ま、さなは明日お説教フルコースだな。

「別に応援してもらわなくてもいいので。」

「ふ〜ん」

黒田は納得していないように頷く。私は反論するのをやめて後ろで楽しそうに話をしている桃江さんと赤星を見た。

「すいません、今から当番決めするんで、こっちに来てもらえますか?」

二人は言われた通りこっちにきて私の案に目を通した。

「これ、虹谷さん一人でしたのか⁉︎」

「はい、そうですけど、やっぱりダメ…でしたか?」

「いや、ありがとう!」

赤星の言葉に、よかった。と肩をおろすと桃江さんが不満そうに唇を尖らした。

「一人で決めるってどうなのぉ〜?自分だけ偉いアピール?」

「そんなつもりは…」

「まあまあ、いいじゃん。やってくれたんだしお礼を言おうぜ。あらためて、ありがとう!」

ニコッとした笑顔にまた胸が高鳴るのを感じた。

「いえ、こちらこそありがとうございます…」

そのやりとりをやはり不満げに見ていた桃江さんは紙を指差す。

「そんなことはもうどーでもいいよ。それより私たちのた・ん・と・う。」

紙の中で余っているのはやっぱり月曜日の朝イチと、金曜日の放課後だ。

「初っ端と一番最後…。そりゃあやりたい奴はいねぇだろうな。」

「みなさんの中でやりたい時間や、できない日などはありますか?」

すると桃江さんが真っ先に手を挙げる。

「私は、赤星くんと一緒に月曜日の朝イチやりたいなぁ〜!」

そりゃあ、そうだよね。月曜日の朝イチのほうが時間か短いし、狙ってる赤星と一緒にできるんだから。

「私はそれでいいと思う。」

その言葉を聞いて黒田が訝しむように私を見た。その目が本当にいいのか?と雄弁に語ってる。

「俺は月曜日の方がいい。」

反論した流星を驚いて見つめる。

応援しなくていいって言ったのに!

流星は意味深に赤星に肩を軽くぶつけた。そこで赤星はハッとすると突然驚きの提案を始める。

「俺は金曜日のほうがいいから、虹谷さんと一緒にするよ。流星と桃江さんは一緒に月曜日をすればいんじゃないか?」

桃江さんは目を見開いて赤星を見た後!私を一瞥して悲しそうに目を伏せる。

「そっか…。赤星くんは私と一緒にやりたくないんだね…」

「別にそういうわけじゃ…」

「じゃあなんで金曜日に行くの?あっ、そうだ!虹谷さん、交代してよぉ〜!やっぱり私、金曜日がいい!」

赤星くんも、私が嫌じゃないなら別にいいよね!っと言って桃江さんが金曜日になろうとする。

「虹谷さん、いいよね?」

有無を言わさぬような目で見つめられる。

「うん。桃江さんがそっちの方がいいなら別にいいよ。」

なにしてんだよ!とでも言うように黒田が私を睨んでくる。

黒田の気遣いはありがたい。けど、よく考えればわかると思う。顔に厳しいさなでさえ、イケメンと言う赤星と私が釣り合うわけがない。

「俺、虹谷さんとやってみたい。」

諦めて目を伏せていたところに急にその爆弾発言だ。桃江さんなんて、ありえない!と目をまん丸にしてる。

「俺さっき桃江さんと仲良くなったからあんまり話してない虹谷さんとやってもう少し虹谷さんのことよく知りたいんだ。いい…かな?」

黒田は感動したように頷き、桃江さんは渋々と言った様子で頷く。

こうしてなんとか私たちの当番は決まった。

私が原案に自分たちの名前を付け足していると後ろからイラついたような声がした。

「お前、なにやってんだよ。」

「別に、黒田くんには関係ないでしょう?放っておいてください。てか、別に応援なんてしなくていいんで…」

「お前のためだけじゃねえ…」

小さくなにかを呟いたがなんで言ったか小さすぎてさっぱりきこえない。

「じゃあ、帰ります。おつかれ様でした。…あと、一応ありがとうございました。」

ペコリと頭を下げて私は図書室を出て行った。

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