マイナス票システム編

第103話 マイナス票システム

 2月下旬、来週から学年末試験が始まるためいつも通りオレ達のチームは、放課後に集まって勉強会を開いていた。

 最後の試験であるためかどのチームもピリピリしている。


 普通に試験が行われる……そう誰もが思っていたがやはり最後なのか特別ルールが設けられた。

 1つは、赤点を1教科でもとった者は、即退学すること。ちなみに今回の赤点は、20点以下だ。


 2つ目は、ボーナス得点システム。

 ボーナス得点システムというのは、チーム内の誰かが何かの教科で1位をとった場合、チーム得点にプラス1000与えられるというシステムだ。


 そして最後の3つ目はマイナス票システム。

 生徒は、1人生徒を選びその人の点数を5点下げることが出来るシステムだ。


 例えばオレがAさんに票を入れるとする。なら、Aさんは、全教科の総合点数から5点引かれることになる。以上の3つの特別ルールは、1年生から3年生に適用されるようだ。だが、さっき説明したマイナス票システムに関しては、1年生が3年生へ票を入れるようなことは、出来ないようだ。


「ねぇ、大山君。あなたは、誰に票を入れるべきだと思う?」


「えっ?」


 ぼっーとしていたオレは、近藤の声にハッとした。


「まさか聞いてなかったの?」


「マイナス票システムのことか?」


 適当に言ってみたがどうやら、当たっていたようだ。


「えぇ、そうよ。私なりに考えたのだけどやっぱり1位の雨野さんに票を入れるべきだと思うのよ」


 近藤は、そう言って無地の紙に30点と書く。


「もしかしてここの全員で同じ人に票を入れる感じか?」


「えぇ、そうよ。その方が相手の試験の点数は、大きく減るもの」


 そうか……確かにここにいる6人が同じ人に票を入れたら相手の試験点数を30点減らすことが出来る。


 試験の点数は、チーム得点になるので減らす得点が大きい方がチームにダメージを与えることが出来る。


「オレも賛成だ。票は、雨野にいれる……それでいいんだよな?」


 オレは、念のため確認を取る。


「えぇ、みんなもそれでいいわよね?」


 近藤は、オレ以外のチームメイトに尋ねた。


「うん、いいよ」

「私もそれでいいと思います!」

「オレも賛成!」


 残りは、北原……か。


「北原さん?」


「あっ、うん。私も雨野さんでいいと思うよ」

 

 下を向いて何か考えていた北原は、近藤に名前を呼ばれ顔を上げた。


「雨野さんは、1位であるからおそらく票がかなり入るかもしれないわね」


 近藤がそう言うと椎名は、頷く。

 さて、近藤の予想は、本当に起こることだろうか。

 確かにどのチームもまずは1位を潰すために千佳の点数を下げようと考えるだろう。だが、もし千佳が裏で何か仕掛けていたら近藤の予想は完全に外れる。


「じゃあ、今日はもう解散ね」


 いつの間にか話し合いが終わっていたようで近藤は、イスから立ち上がり図書館から出た。

 さて、オレも帰るか……。

 教科書をカバンに入れ、立ち去ろうとした時後ろから服を捕まれた。


「ん? 北原?」


「あっ、ご、ごめん急に……。一緒に帰らない?」


「別に構わないが……」


 オレは、少し警戒したが北原の様子を見て大丈夫だと判断した。


「じゃあ、帰ろっか」


 いつも通りの北原……か。


───────────


「ねぇ、大山君。大山君は、誰に票を入れるつもりなの?」


 先ほど終えた話を図書館を出たタイミングで北原は、オレに聞いてきた。


「まだ決めてない」


「あれ? ってことは、大山君は彩沙ちゃんの指示には従わないってこと?」


 北原は、オレの発言に首をかしげる。


「まぁそういうことになるな。北原こそ誰に票を入れるんだ?」


「私は……やっぱり彩沙ちゃんかな。となると私と大山君は、彩沙ちゃんの提案を裏切る仲間だね!」


 嬉しくもない共通点を見つけ仲間されてしまった。


「そうだな……」


 適当に返事をし目線を目の前のカフェへと向けるとそこには、三条達の姿があった。


「あっ、大山君と美波ちゃん。こんにちは」


 カフェに座っていた雅がオレと北原が通りかかったことに気付き手を振ってきた。


「雅ちゃん、こんにちは~。あっ、もしかしてチームでお茶会?」


 北原は、雅と一緒にカフェにいる三条、豊田、

加藤がいることを確認し、尋ねた。


「お茶会か……面白くない冗談はよせ北原」


 そう言って笑ったのは、三条だった。


「あっ違った? じゃあ作戦会議かな?」


 北原は、状況から予測しもう一度尋ねる。


「あぁ、正解だ。それより珍しい組み合わせだな。もしかして二人は付き合っていたのか?」


 オレと北原を見て三条は、言う。


「も~違うよ~。私と大山君は、ただのチームメイトだよ」


 北原は、手を使って付き合ってないと否定する。


「そうか。ところでお前達は、誰に票を入れるか決まったか?」


 三条は、話題に飽きたのか話を変えてきた。


「うん! 決まったよ。チーム全員で同じ人に入れようって話になったの」


 北原は、近藤の作戦を他人事のように話した。


「北原、そんな簡単に情報を漏らしても大丈夫なのか? 近藤が怒ると思うんだが……」


 さらっと他のチームの情報を手に入れたことが気に入らないのか三条は、北原を心配する。


「うん、大丈夫だよ。私、彩沙ちゃんの案に従うつもりないから」


「そうか……」


 北原がこうして堂々とチームを裏切る行動を起こせるのには、理由がある。今、ここにいる全員が北原が近藤が嫌いであり裏切り者だということを知っているからだ。


「へぇ~美波が近藤さんを嫌いなのって本当だったんだ」


 足を組んで話を聞いていた豊田が北原を見て呟く。


「北原は、相当近藤のことが嫌ってるようだな。それより、大山の方は、近藤の案に従うつもりか?」


 三条は、視線をオレへと移す。


「従うかどうかは、わからないな。まだ誰に票を入れるべきか考えているところだ」


 嘘が混じった返答した。するとそれを聞いた三条は、笑った。


「ふっ面白いな大山。お前もまさか裏切り者じゃないだろうな?」


「さぁ、どうだろうな……」


 オレは、どっちにでも捉えれるようなことを言った。


「そうきたか。まぁいい、お前らが誰に入れようとどうでもいいからな。ちなみにオレ達のチームは、濱野に入れることにした。まぁここにいない瀬川と村島が誰に入れるかは知らないが……」


 なるほど……会ったことはないがどうやら瀬川と村島という生徒は、三条とはチームメイトだが、三条に従うような人達ではないみたいだ。


「一華ちゃんに? 理由とかあるの?」


 北原は、敵であるというのに普通に尋ねる。


「そんなの濱野の得点を下げるために決まってるだろ。ほとんどのチームが雨野に票を入れるだろうがオレは、雨野に票を入れるだけ無駄だと思っている」


「へぇ~三条君ってやっぱり凄いリーダーだね」


 オレは、そんな思ってもみないことを口にする北原の肩をつついた。


「北原、そろそろ行かないか? 三条達の作戦会議とやらを邪魔してしまってる」


 オレは、話し続ける北原を止めた。


「あっ、ほんとだね。ごめん、三条君! じゃあ、行こっか大山君」


「あぁ……」


 オレと北原は、カフェから離れ寮へ向かって歩く。すると、寮前に生徒が1人待っていた。その生徒は、明らかにオレを待ちぶせていた様子だった。


「北原、用事を思い出したから先に帰ってくれ」


「うん、わかった。またね大山君」


「あぁ、また明日」


 北原にそう言ってオレは、その待ち伏せていた生徒のところへ向かった。






【Note.9】

~マイナス票システム~

・生徒が自分以外の生徒を選びその人に票をいれるシステム。

・票を入れられた人は、1票につき全教科総合得点から5点引かれる。

・このシステムは1年から3年生に適用される。

・他学年に票を入れることは出来ない。

・票の入れ方は、学校専用アプリからできる。

・投票は、強制ではないが自分の得点が減るので注意すること。

ーーーーーーーー

※〈裏ルール〉

票を買うこと、1人の生徒に票を集中させることは可能。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る