第102話 濱野一華の過去

 翌日、学校ではある話題で持ちきりだった。


「ねぇ、聞いた? 2組の岡島さんと寺田さん、昨日悪くないのに濱野さん謝罪しろって言ったんだって。ひどくない?」


「えっ、なにそれひどい。あんないい子の濱野さんが悪いことなんてするわけないのに」


 ある話題というのは、昨日あった濱野と寺田美琴、そして寺田の側でいろいろと発言していた岡島の話で持ちきりだ。


「おかしいわ……」


 教室に着くなり、隣で近藤は、呟く。


「何がおかしいんだ?」


「だって、あの場にいた人は、全員濱野さんが悪いと思っていたはずなのに今日になったら寺田さんと岡島さんの方が悪いと言い出すのよ? おかしいと思わない?」


「おそらく昨日、学年チャットに無名で送られてきたメールの影響だろう」


 オレがそう言うと近藤は、納得してなさそうな顔をしていた。


「また無名……。私達の学年チャットは、無名でメールすることが流行ってるのかしら?」


 流行っていると言うよりマネしてるだけだと思うが……。


────────────


 その日の放課後、オレは、濱野に呼び出されて濱野の部屋へとお邪魔した。


「お邪魔します……」


「そう言えば、大山君が私の部屋に来るのって久しぶりだよね?」


 濱野は、お茶を用意しながら聞く。


「あぁ、そうだな……」


 濱野の部屋は、明るいな。

 女の子らしいクマのぬいぐるみやピンク色の壁紙を見て濱野らしい部屋であると思った。


「ごめんね、急に呼び出して」


「いや……話したいことがあるんだろ?」


「うん、当たり……。大山君には、これまでたくさん助けられてきたから話しておきたかったんだ……私の過去を」


「無理して話さなくてもいいと思うが……」


 オレは、濱野が話す前に言っておく。


「無理してないよ。私、決めたの。もう一人で抱え込まないって」


「そうか……」


「じゃあ、話すね」


 濱野は、オレの目の前にお茶が入ったコップを置き、語りだした。


────────────


 私、濱野一華と小野寺さんは、同じ中学だった。中学の時の私は、今と一緒で友達に恵まれ、他クラスの子にも仲がいい子がたくさんいた。その中に小野寺さんもいた。彼女とは、同じクラスではなかったけど、学校の行事で知り合って仲良くなった。

 小野寺さんは、私と違ってクラスに友達が少なく一人でよく行動していた。

 そんなある日、小野寺さんが私に相談してきた。


「どうしたの? 小野寺さん」


 私は、小野寺さんに優しく尋ねる。


「私、クラスに馴染めてなくて……どうしたらいいと思いますか?」


「ん~そうだなぁ」


 このときの私は、小野寺さんを助けたい気持ちでいっぱいだった。


「積極的に話すとか……あっ、もし話すの苦手なら練習のため私が話し相手になろうか?」


「いいんですか?」


「うん、いいよ。小野寺さんと話すの楽しいし」


「ありがとう濱野さん」


 この日から私と小野寺さんは、一緒に遊びに行ったり、たくさんお喋りした。

 けど、そんな日々は、突然終わった。

 別にケンカしたとかそういうのじゃない。

 小野寺さんにクラスで仲良い子が出来たことで話す回数が減っただけ。

私は、当然喜んだ。

 小野寺さんと話せる機会が減ったことは悲しいけどクラスに馴染めたのなら私の手助けももう必要ない。

 そんなある日の放課後。

 私は友達と下校していた。

 その時、校門前で数名の女子と小野寺さんを見かけた。


(あっ、小野寺さん……)


「あっ、一華ちゃん! やっほ~」


 小野寺さんといた女子の一人が私に手を振った。


「やっほ~! あっ、みんな先に行っといて」


 私は、一緒にいた友達にそう言って小野寺さんのいるところへ走った。


「みんな今から寄り道?」


「うん、そうだよ~。一華ちゃんも行く?」


「ん~やめておくね。また誘って」


「うん、わかった」


 話し終え私は、小野寺さんをチラッとみた。


「小野寺さん、久しぶり」


 私は、小野寺さんに話しかけた。


「う、うん。久しぶり……」


「何かあったの? 元気ないけど……」


「じ、実は……」


 小野寺さんは、そういいかけた時、小野寺さんの隣にいた一人の女子が小野寺さんの目の前に立った。


「ごめんね~一華ちゃん。私達、急がないといけないから話ならまた今度ね」


 そう言って小野寺さんの手を取り校門へと歩いて行った。

 一人残された私は、小野寺さんの背中を見つめた。

 小野寺さん、何を言おうとしていたんだろう。

 次会った時に聞こう……そう思ってた。

 けど、遅かった。

 1週間後、私は小野寺に会いに行った。


「ねぇねぇ小野寺さんいる?」


 私は、小野寺さんのクラスメイトに声をかけた。


「小野寺さん? ここ数日学校に来てないよ」


「えっ? 熱とか?」


「ううん、なんかよく一緒にいた麻子達にいじめられてそれで休んでるんじゃないのかな?」


「いじめ?」


「うん。なんか小野寺さんと麻子達って最近よく一緒にいたけど、なんか友達っぽくないっていうかねぇ……」


 麻子は、この前小野寺さんと一緒にいた女子のこと。

 私には、仲いいようにしか見えなかったけど。


「教えてくれてありがと」


 私は、小野寺さんのクラスメイトにお礼し、放課後に小野寺さんの家へ行こうと決めた。


───放課後。


「どうぞゆっくりしていってね」


 小野寺さんのお母さんは、そう言って私を家に招き入れた。


「ごめんね、急に来て……」


 私は、目の前に座る小野寺さんに言う。


「何しに来たんですか?」


「えっと……なんで学校来ないのかなって」


 私は、小さな声で話す。


「気付くの遅いです……。私、濱野さんに助けを求めていたのに濱野さんは、全く気付いてくれませんでした」


「ご、ごめん! 小野寺さんがあの時何かいいかけてことをもっと早く聞きに行くべきだった。あの時いいかけてたことって麻子ちゃん達にいじめられていたことだよね?」


 私がそう言うと小野寺さんは、コクりとうなずいた。


「そこまでわかっていてなんで助けてくれなかったんですか? 私……濱野さんしか頼れなかったのに」


「本当にごめん……気付けなくて」


「もう帰って……」


「……ほんとごめん」


 私は、そう言ってこの日は、帰った。


─────────────


「これが私と小野寺さんにあった出来事」


 話し終えた濱野は、そう言って目を閉じた。


「濱野は、昔から変わらないんだな」


「えっ? それってどういうこと?」


「友達想いのところとか」


「そ、そうかな……」


 濱野は、そう言って照れる。


「私、小野寺さんが困っていたことに気付けなかった。ほんと私ってダメだよね。自分のことばっかりで周りのこと見えてない」


 濱野は、自分が悪いと責め始めた。


「濱野、人が自分のことを一番に思うことは、当たり前だ。だから小野寺の助けに気付けなかったことをあまり気にしすぎるな」


 そう言って濱野の頭をポンッと手をのせた。


「大山君……」


 濱野がオレの名前を呼んだその時、インターフォンが鳴った。


「ん? 誰だろう」

 

 濱野は、そう言ってドアへと向かった。


「誰で……う、うららちゃん! どうしたの?」


「今、部屋入ってもいい? 面白い話ゲットしたの!」


 所谷は、そう言って濱野の部屋に入ろうとする。


「あ、えっーと。今、部屋には……」


 濱野は、慌てた様子で所谷に部屋に入れることを拒否する。


「えっ、なんかあるの?」


「ううん、何かあるってわけじななくて……えっと、その……今、部屋が散らかっててとても人を呼べる部屋じゃないの」


 濱野は、所谷に必死に言う。


「ん~わかった。じゃあ、また明日話すね」


「うん、また明日……」


 濱野は、笑顔で所谷を見送った。


「ふぅ~危なかった。部屋に大山君がいるってバレたら誤解されるところだったよ」


 濱野は、ほっと胸を撫で下ろした。


「じゃあ、そろそろオレは、帰る」


 オレは、そう言って立ち上がる。


「あっ、うん。今日は話を聞いてくれてありがとね大山君」


「あっ、そう言えばチョコ美味しかった」


「た、食べてくれたんだ。嬉しい……」


 濱野のいつも通りの笑顔を見れてオレは、安心した。




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