第104話 2年の先輩

「よう、大山」


 まるで偶然会ったような感じで話しかけてきたのは村上だった。


「待ち伏せしてまでオレに何の用ですか?」


 連絡先を交換しているはずなのにわざわざ待ち伏せか。


「そんな嫌そうな顔すんなよ。お前にいい話を持ってきたというのに」


 いい話? 聞く前から嫌な気しかしない。


「聞く前に一つ聞きたいことがあります」


「ん? なんだ?」


「その話は、オレにとってメリットですか? もし、デメリットならその話は聞きません」


「ん~どうだろうな。メリット、デメリットを考えるのは、話を聞いた後じゃないとわからないと思う」


「そうですか。では、そのいい話とやらを聞かせてください」


 オレは、聞きたいことが聞けたのでひとまずメリットがあるかないかは、置いておくことにする。


「今度の学年末試験、オレと勝負しろ」


「嫌です。全くメリットを感じられません」


 オレが即答したので村上は、慌てて付け足す。


「まてまて、まだ話は終わってない。この勝負で大山が勝ったらお前の望みを一つオレが叶えてやろう。生徒会長に頼み事なんて滅多に出来ないと思うぞ?」


 なんなんだろうか……いろいろと聞きたいことが山程ある。まず、なぜ村上は、オレに勝負を持ちかけてきたか。オレと村上は、後輩と先輩であるだけで全く繋がりはない。オレと勝負する意味もわからない。おそらく村上は、オレの成績を知っているはずだ。それなのに勝負を申し込んできた。ならオレが点数を偽っていることを知っているのか?村上はわざわざバカな奴と勝負するような人ではないはずだ。


 そしてもう一つの疑問は、最近やけに村上がオレに絡んでくることだ。村上にとってオレが知り合いの後輩だとしてもしかけてくる頻度が異常だ。


「村上先輩が勝った場合はどうなるんですか?」


「あぁ、オレが勝ったらオレの頼みを聞いてもらおうか。そんな大した頼みをするつもりはないからそこは安心しろ」


 大した頼み……か。村上なら自主退学しろとか生徒会に入れとか無茶なこと頼んで来そうだな。


「最後に質問してもいいですか?」


「どうぞ、なんでも聞いてくれ」


「村上先輩……この勝負、村上先輩が勝つに決まってませんか? オレは、学年順位が100番台です。それに対して村上先輩は、学年1位ですよ。明らかに勝負する前から結果が見えてます」


 オレは、探りを入れつつ村上に尋ねた。


「あぁ、そうだな。普通ならお前に勝負なんて申し込まない……だが、オレは、違う。オレは、お前が本当は成績優秀だと思っている」


「優秀……なぜそう思っているんですか?」


「勘だ。確証もないし、そう思える証拠もなにもない」


「そうですか……」


「そんなに身構えるような勝負にするつもりはない。勝負だからといって本気を出せとは、言わない。やるなら気楽にやろうぜ」


 村上は、オレが思っていることを悟ったのかそんなことを言った。


「………わかりました。その勝負、受けます」


「よし、決まりだな。勝負内容は、5教科じゃなくて1教科だ。……質問あるか?」


「いえ、ありません。それでいきましょう」


「勝負するが、学年末試験、お互い頑張ろうな」 


 村上は、オレの目の前に手を出してきた。


「そうですね」


 そう言ってオレは、差し出された手を握り返した。


「ところで大山。日野佑馬という男と繋がりはあるか?」


「日野? 誰ですか?」


 聞き覚えのない名前にオレは、首をかしげる。


「知らないなら忘れてくれ。じゃあな大山」


 そう言って村上は、寮へと入って行った。


 日野佑馬、後で調べてみるか。


───────────


「佑馬君? うん、もちろん知ってるよ。だってチームメイトだし」


 そう言ってオレの質問に答えてくれたのは、早見だった。となると村上先輩のチームメイトでもあるのか。


「うん、そうだよ。佑馬君に何かあるの?」


「いえ、どんな人なのか気になっただけです」


「そっか……。あっ、そうだ! 陽翔君にチョコ渡せたよ」


 早見は、不思議に感じたが話を切り替えた。


「良かったですね。告白したんですか?」


「なっ、何言ってるの!?」


 早見は、赤面してオレに向かって言う。


「な、なんかすみません」


 謝らないといけないような気がして咄嗟に謝罪の言葉が出た。


「謝らなくても。ねぇ、大山君、告白ってどうすればいいのかな?」


 なぜそれをオレに聞く。思わずそう突っ込みたくなった。


「いや、オレに聞かれても……」


「あっ、ごめんね。変なこと聞いて……。ところで大山君は、好きな人いるのかな?」


「いませんよ」


「そ、そっか。もし出来たら教えてね。私、絶対に応援するから」


「あっ、はい……」


 応援も何も彼女いるけどな……。そんなことを思いつつ早見先輩と別れるのだった。




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