第97話 感謝

「ねぇ、平坂君。今から少し話したいんだけど」


 そう言って平坂を呼び止めたのは、岩田だった。彼女の横には、杉本もいる。


「さっき話せばよかったんじゃないか?」


 さきほどまでチームメイトで話し合っていた直後だったので平坂は、疑問を抱く。


「平坂君個人に聞きたいことがあったから。ねっ? れんれん」


「あぁ……そうだな」


 隣で杉本は、頷いた。


「わかった。どこで話す?」


 平坂は、そう言って二人に尋ねる。


「オレの部屋に行こうか」


 杉本がそう言ったことにより三人は、杉本の自室へと向かうことになった。


────────────


「で、話って?」


 平坂は、話の内容が気になって2人に尋ねた。 


「さっきの平坂君見て私達思ったことがあるんだよね。チームを変えたいっていう提案の具体的な内容は、平坂君自信が考えたものなの?」


 岩田がそう聞くと平坂は、見透かされドキッとした。


「どうしてそう思ったんだ?」


「いや、なんていうかさ平坂君が考えそうな提案内容じゃない気がしたんだよね。私達、チームメイトだし平坂君のことわかっている上での疑問なんだけど……」


 平坂は、自分が考えたものではないのがバレていて驚いた。


「平坂ならこのままでもいいみたいなこといいそうだからさ。変わるべきだと提案したときは、驚いた」


 杉本も同じく平坂の違和感に気づいていた。


「二人とも、すごい観察力だな……確かにさっきの提案内容は、オレが考えたものではない」


「やっぱり! ねぇねぇ、誰からの指示?」


 岩田は、グイグイと平坂に聞く。


「指示というかアドバイスを貰ったんだ」


「アドバイス? い、一体誰から?」


「大山からだ」


「大山?……って、誰? れんれん知ってる?」


大山という名前を知らない岩田は、杉本に聞く。


「大山ってよく濱野が仲良くしてる奴だろ? 平坂によると小野寺からの嫌がらせの件、濱野を助けたのは大山らしい」 


「えっ!? なにそれ、助けたってことは、大山っていう人は、一華ちゃんの王子様だね。へぇ~どんな人だろう」


 岩田は、そう言って一人で勝手に妄想を膨らませる。


「岩田の奴は、ほっといて。オレとしては、その大山に礼がしたいな。濱野を救ってくれたお礼がチームメイトとしてしたい」


 杉本がそう言うと横から岩田が、入ってきた。


「私も私も! ねぇ、平坂君。大山君に会いたいんだけど連絡先知ってたりしない?」


「あぁ、知ってるが……会えるか聞いてみようか?」


「うん、お願い!」


 平坂は、スマホを取り出し、今から来れるかと連絡した。


───数分後。


「お邪魔します」


 知らない人の部屋のためオレは、緊張して部屋に入った。


「急に呼び出してすまなかったな大山」 


 平坂は、そう言ってオレが座れるように場所をあける。


「いや、暇だったから気にするな」


 同級生から誘われたから嬉しい……なんてことは言えずオレは、そんなことを言う。


「君が大山君?なんか思ってた感じと違う」


 そう言ってきたのは、初めて見た顔だった。


「おい、岩田。初対面にそれは、失礼だろ。ごめんな、大山。オレは、4組の杉本蓮だ。で、こっちが同じく4組の岩田梓」


 岩田は、そう言って自己紹介をする。


「3組の大山一樹だ。よろしくな杉本」


 オレに対してひどいことを言った岩田をわざと視野にいれずオレは、杉本に言う。


「あぁ、よろしく」


「ごめん、別に悪気があって言ったわけじゃないの」


 遅れて岩田は、オレに謝る。

 いや、絶対に悪気があっただろ。


「気にしてないから謝るな。で、オレは、なんで呼ばれたんだ?」


 オレは、平坂に尋ねた。


「岩田と杉本に大山を紹介したかっただけだ。特に何の用もない」


「そうか……」


 何の用もなくても平坂には、感謝だ。知り合いが多くなることは、オレにとって嬉しいことだからな。


「ねぇ、大山君。一華ちゃんとは、どういう関係なの? 平坂君によれば一華ちゃんを助けたのは大山君って聞いたよ~」


 そう言って岩田は、オレに尋ねてきた。


「濱野は、友達だ。先に言っとくが付き合ってるとかそんな関係は一切ないからな」


 オレに先読みされ、岩田は、くっと悔しそうな声が漏れた。


「大山、アドバイスありがとうな。一先ずチームメイトに今の自分の気持ちをぶつけてみた」


 平坂は、アドバイスをしたオレに一応報告をしてくれた。


「そうか。それは、よかった」


 オレがそう言うと岩田が何かを思いだし、大声をだした。


「あっ、すっかり忘れてた。私達、大山君にお礼がしたかったんだ」


「お礼?」


 オレは、礼をいわれるようなことをした心当たりがなく首をかしげる。


「うん。一華ちゃんを助けてくれてありがとう。チームメイトとしてお礼をさせて」


「オレからも礼を言う。ありがとう大山、濱野を助けてくれて」


 岩田と杉本は、オレに礼を言ってきた。

 いや、オレは、そんな礼をされるほどのことはしてないと思うんだが……。


「オレは、大したことはしてない。友人の相談にのっただけだ」


 オレがどのように濱野を助けたのかは、絶対に言えない。平和主義のようなこのチームにあんなことをして濱野を助けたと言ったら当然、平坂と杉本、岩田は、オレに怒るだろう。


「それでも感謝している」


 平坂は、そう言って優しく微笑んだ。

 礼を言われることにあまり慣れてないせいか少し照れるな。

 こうして4人で雑談を少ししてからしばらくして解散となった。



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