第98話 バレンタイン
「寒っ……」
ロビーから出たくても外は、寒いので出る気になれない。だが、ずっとここにいたら待ち合わせ時間に間に合わない。
「出るしかないか……」
ロビーから出てオレは、少し歩く。すると、前から顔見知りの2人と出会う。
「あっ、大山じゃん」
「……最悪」
オレは、いつもだったらこんなリアクションをとらないが今日は誰とも会いたくなかったので嫌そうな態度をとる。
「最悪って何よ」
そう言ったのは花咲。花咲の隣には、木之本の姿があった。
「その……二人は、どこか行ってきた帰りか?」
オレは、花咲の反感を無視して話題を変える。
「まぁーね」
「寒いのに大変だな木之本。どうせ花咲が無理やり誘ったんだろ」
「なっ、なんで知ってんのよ!? 昨日、寒いからって翔太君に1回断れたこと」
花咲は、動揺しまくる。いや、寒いから断られたなんて知らないんだが……。
「そうだったのか……」
「きょ、今日は、年に一度の特別な日だからどうしてもどこかに行きたかったの」
「特別な日? もしかして木之本か花咲のどちらかの誕生日か?」
「はぁ!? あんた今日がなんの日か知らないわけ?」
今日……何かあったか?
「もういい。あんたと話してると最悪な気分になる。行こっ翔太君」
花咲は、そう言って木之本を置いて先に立ち去っていく。
なんなんだよあいつ……。
「ごめんな大山。香奈には、後で当たりが強いと注意しておく」
木之本は、彼女の変わりに謝り、先に歩いていった彼女を追いかけていった。
「まて……今日って何日だったか?」
ここ最近忙しかったため今日が何日であったかなんて意識していなかった。スマホで何日か確認しようとしたその時後ろから名前を呼ばれた。
「大山君、おまたせ」
後ろを振り返るとそこには濱野がいた。
そう、今日、待ち合わせていた相手は、濱野だ。昨夜、濱野から明日会いたいと電話で言われた。
「もしかしてかなり待たせちゃった?」
「いや、オレも今来たところだ」
「そっか……」
濱野は、ほっとして胸を撫で下ろす。
「寒いし建物の中に入らないか?」
オレは、濱野の薄着姿を見てあまりにも寒そうなので心配になる。
「あっ、それは……」
寒いはずなのに濱野は、どうしてもここで話したいらしい。
「ここじゃないとダメなのか?」
「う、うん……。あんま人に見られそうなところは嫌で……お、大山君?」
濱野は、自分の肩にオレのコートをのせられ驚いていた。
「そんな薄着でいたら風邪引く」
「あ、ありがとう……」
濱野は、顔を真っ赤し、かけてもらったコートを落ちないように手で握りしめた。
「で、オレを呼んだ理由はなんだ?」
「あっ、えっとね……これ……どうぞ」
濱野は、オレの目の前に小さな紙袋を差し出した。
「これは……?」
「こ、この前言ったでしょ? チョコ作るって……その、今日は、バレンタインだから」
「バレンタイン……」
そうか、今日は、バレンタインなのか。だからさっき木之本と花咲は、一緒にいたのか。
「ありがとう濱野」
「うん、よかったら食べた後、感想聞かせてね。あんまり自信ないけど……」
「あぁ、必ず言う」
そう言えばさっきから濱野がやけに静かだな。いつもならハイテンションで話してくるのに。
「じゃ、じゃあ、渡したいもの渡せたし帰るね。これからチームメイトにもチョコ配りに行くから。あっ、コートありがと」
そう言って濱野は、肩にかかったコートをオレに返した。
「またな濱野」
「うん、またね大山君」
濱野と別れ、オレは、寮へと戻る。
さて、部屋に戻るか……。寮へ帰ろうとすると噴水前で生徒が2人いるのを見かけた。
「あれは……村上と早見?」
どうやら早見は、村上にチョコを渡すようだ。
上手くいくといいなと思いつつオレは、寮へ入った。
「あら、大山君……おはようございます。朝からどこかお出かけですか?」
寮へ入るとロビーで、千佳と笠音、松原、武内に出会う。
「まぁな……そっちは、パーティーでもするのか?」
「さぁ、どうでしょうね……」
そう言って千佳は、オレの左手に持つ紙袋を見た。
「そう言えば、この前、小野寺さんが一華さんに謝罪を求めに2組に訪ねてきました。ご存知でしたか?」
千佳は、思い出したかのようにオレに尋ねる。
「いや、知らないな。それがどうかしたのか? オレは、濱野と小野寺がどうだろうと関係ない」
「そうですか。興味がないと……」
千佳はオレから何か引き出そうとしていた。
「千佳、これ以上大山に何を言っても無駄じゃないの?」
空気に耐えられなかったのか笠音が千佳に言う。
「そうですね。大山君、一つだけ聞いてもよろしいですか?」
「奇遇だな。オレも丁度雨野に聞きたいことがある」
「そうですか。では、私から質問を……平坂君に助言したのは、あなたですか?」
なんでそれを知っているんだ……と聞きたいところだが、聞くべきではないな。
「さぁどうだろう。平坂とは、あまり面識ないしな……。じゃあ、次はこちらからの質問だ。お前が前に言っていた面白いものは、いつ見られる?」
『1学年特別テスト』の時、千佳は、オレに面白い ものが見られると言ってきた。だが、それがいつかとは、言わなかった。
「そうですね……。私にもわからないので面白いものが見られるタイミングであなたに連絡します」
「わかった。じゃあ、オレは、行くから」
「えぇ、呼び止めてすみません。次会うときは、ゆっくり話しましょうね大山君」
そう言って千佳達は、寮を出ていった。
部屋に行くためオレは、エレベーターに乗り込んだその時、1件のメールが来た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます